ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

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終幕へのプロローグ

【第91話】今日は楽しかったなぁー!

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 三月三日――

 愛梨は駆け足で、とある場所へと向かっていた。
 時刻は十二時五分。約束していた十二時を既に五分過ぎている。

「まずいっ、自分から約束しておいて、遅刻はシャレにならないよね……」

 寝坊をした……訳では無い。
 そんな初歩的なミスを、愛梨はしない。

 愛梨は女の子だ。

 好きな人と会うとなれば、それなりにお洒落もする。
 化粧をして、髪を整えて……服を選ぶ。
 どの服にしようかなぁー? と、考えて考えて考えている内に、『あ! もうこんな時間!?』となってしまったという訳だ。

 仕方のない話である。

 そんな訳で、予定より八分遅れて愛梨が待ち合わせの場所へ到着。

「ご……ごめんなさいっ! ちょっと油断と満身があって遅れ……って、あれ……?」

 しかし、待ち合わせの場所にはまだ――約束していた相手はいなかった。

「あれれ?」

 キョロキョロと、周りを見渡すも見当たらない。
 ひょっとして、遅刻した事に怒って帰っちゃった? いやいや、彼はそんなに心の狭い人間ではない筈……と、なると……。

「ごめぇーーん!!」

 情けない声を上げながら、近付いてくる人影が一つ。
 太陽だった。
 太陽もまた、遅刻をしていたのだ。

「待たせてごめんなさぁーい!!」

 寝坊だった。
 彼の遅刻の理由は寝坊だった。
 紛うことなき、正真正銘、初歩的なミスである寝坊だった。

(な、なぁーんだ……太陽も遅刻してたんだぁー……良かったぁー……ラッキー……)

 ホッと……胸を撫で下ろす愛梨。

「お、怒ってないか? 愛梨?」

 ここまで全力で走って来たのだろう。
 膝に手をつき、息を切らしながら期限を伺っていた。
 どうやら彼は、愛梨も遅刻して来たという事実に気付いていない。

「べっつにぃー、怒ってないよー」

 さも、自分は遅刻していませんよーと言わんばかりに振る舞う事にしたのだ。
 嘘もバレなければ真実なのだから。
 愛梨は、自分も遅刻したという事実を揉み消しにかかった。

「彼女とのデート当日に寝坊なんて、ちょっと気が抜けてるなぁーとは、思うけどねー」
「わ……悪かったってば! 本当にごめん!!」
「ん……」
「へ?」

 愛梨が、自分の左頬をちょんちょんとしている。

「お詫びが欲しいなぁ……」
「おいおい……ここ結構人目があるぞ……?」
「当然じゃない。恥ずかしくなかったら、お詫びの意味ないじゃん」
「…………!」
「ほーら。はーやーくー」
「っ! あー! もうっ!」

 太陽は素早く、愛梨の左頬にキスをした。
 恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「こっ……これで満足か?」
「えへへへへー満足満足。許してあげるよー」

 顔が緩みきっている愛梨。幸せなようだった。
 周囲の視線が集まり、クスクスとからかうように笑われているのが分かる。
 真昼間からほっぺにチューをするカップルは、目立って当たり前である。
 従って、恥ずかしさのあまり、一刻も早くこの場から立ち去りたいと太陽が考えるのも無理のない話だった。

「ほらっ! とっとと行くぞ!」
「ひっぱらないでよー。レディはもっと優しくエスコートしなきゃ。今私、ものすごく余韻に浸ってたんだからー」
「浸るな余韻にっ!」
「太陽くんの唇、ぷるんぷるんだったねー! リップ何つけてるのー? 羨ましい」
「やかましいっ!」
「ぷくくっ、めちゃくちゃ照れてる」
「照れるに決まってんだろ! さ! デパート行くぞ! デパートに! 買い物すんだろ?」
「うん!」

 太陽に手を引かれ、早歩きをしている二人。
 嬉しい反面……愛梨は気を引き締めていた。
 彼女にはこの日……とある目的があった。


 それは――――『太陽が欲しい物を見抜く事』である。


 欲しい物さえ見抜けば、百パーセント喜んで貰える。
 即ち、百点満点のプレゼントが可能という訳だ。
 その欲しい物も、今日一日店をうろつけば【読心】で必ず見抜ける。
 心は隠しようがないのだから。

 愛梨は幸先良いスタートだと思った。
 何故なら、出会って早々にほっぺにチューをして貰えたのだから。

(きっと今日も上手くいく……クリスマスの時も上手くいったんだ。きっと今回も……)

 等と、思っていた……。


 そんな訳で、デパート到着。

「で? 何買うんだ?」
「何買う? 太陽の欲しい物があれば…………って! 違う違う! とりあえず、先ずは服かなー!」
「……? お、おう……服な。了解」

 危うく墓穴を掘りかけた愛梨だった。

(あ……危なかったぁー! 危うく、自分から今回の目的を話す所だったぁー! 確かにほっぺにチューは僥倖だったけれど……ダメダメっ油断したら! 今日は大事な大一番なんだから!)

 心の中で気合いを入れ直す。
 いざ出陣。

 その後、あちこちの店を渡り歩いた。
 渡り歩いたのだが……。

 愛梨は(おやおや……?)と疑念を抱く。

「おっ、この加湿器カッコイイなぁ。加湿器も日々進化してるって事だな。うんうん!」

(この人ひょっとして――


 自分の誕生日を――覚えていないっ!?)


 まさかの展開だった。

(い……幾ら太陽でも、そんな馬鹿な筈が……!)

「た……太陽? 今日って……三月三日だよね?」
「ああ! ひな祭りだな!」
「そ、そうだね、ひな祭り……。でも、だね」

 誕生日を匂わせる発言。
 果たして反応は……。

「もうすぐ? ……何がだ?」
「…………」

 確定だった。
 この男――――本気で自分の誕生日を忘れている!!

(予想外の展開だぁー! いや、相手は太陽だからひょっとしたらとは思っていたけれどもー!!)

 という事で、方針転換。
 先ずは太陽に、自分の誕生日が間近である事を思い出してもらう事が先決だ。

「ね……ねぇ? 太陽……?」
「何だ?」
「あのケーキ……美味しそうじゃない?」
「ケーキ……? ……あっ!」
「そうそう! 思い出した!?」
「皐月姉が作ったケーキ!!」
「は?」
「火焔先輩の合格祝いに、皐月姉が作ったケーキ! めちゃくちゃ美味いんだよ!! 買い物終わったら食べに来ないか!?」
「う……うん……行かせてもらう……ね……」

 ケーキ作戦――――失敗。

 その後も、あれやこれやと誕生日に纏わる作戦に出るものの……どれも上手くいく事はなく、時間だけが……ただただ過ぎて行った。

 時間だけが……。


「いやぁー! 今日は楽しかったなぁー!」
「……そ……そうね……」
「つーかお前、誘って来た割には何も買ってねぇな? 良かったのか?」
「う……うん……欲しい物が……なかったから……」
「そっかぁ、残念だな」
「うん……本当に……残念……」

 色んな意味で残念だった。

(結局……プレゼントについて……何の情報も、得られなかった……誕生日……明後日なのに……)

 万屋家に向かう途中……愛梨は溜め息をつきながら、俯く……。

(どうしよう……このままじゃ……太陽に呆れられちゃう……奇跡が……起こったりしないかなぁ……?)

 ふっと湧いて降りて来るような……奇跡が……。

(それにしても……)

(ん……?)

(今日の愛梨……途中から何か変だったよなぁー? 何かを示唆しているような感じで……ケーキや蝋燭……プレゼント……日付けをやけに強調してたような…………ん?)
(……おや……?)
(ケーキ……蝋燭……日付け……? プレゼント……? もうすぐ……とも、言ってたよな……?)
(おやおや……?)
(ケーキ、蝋燭、日付け……そして……もうすぐ…………あっ! もしかして、愛梨の奴――――


 オレの誕生日を示唆していた!?)


(キタァーーーーッ!! 思い出してくれたぁー!!)

 奇跡が起きた。

(デパートでアレだけヒント出しても頑なに思い出してくれなかった癖に、今更思い出してくれたぁー! やっぱり、今日の私ツイてるぅー!!)

 心の中で歓喜し、ガッツポーズを取る愛梨。

(さぁ! どんどん発想を膨らませてね! 太陽! 貴方が今――――欲しい物は、何!?)

 愛梨は、ここぞと言わんばかりに、太陽の心を読む。
 一言一句、心を読み損ねぬよう、細心の注意を払って。

(……そっか……愛梨……オレの誕生日、覚えててくれたのか……そっかそっか……嬉しいな……。プレゼント……って、言ってたし…………ひょっとして、何かプレゼント買ってくれるつもりなのか?)
(よし来た! この展開っ! さぁ――――欲しい物を言いなさい、太陽! 予算二万円までなら、欲しい物を買う準備は出来ているわ!!)
(……だとしたら――――楽しみだなぁー!)
(…………え……)
(愛梨…………オレの為に、……? うっわぁー! ワクワクして来たぁー!!)

 この時――――太陽は、深く考えるべきだった。

 読心能力者である愛梨が隣にいながら……自らが示唆していた内容を理解した太陽に、この場で何一つ声を掛けなかった理由を――太陽は、もっと熟考するべきだったのだ。
 もしも、熟考出来ていたら……今後の展開は、大きく変わっていた事だろう……。
 しかしそれは、たらればの話。

 今の状況こそが――――現実、なのである。

「なぁ愛梨……ありがとな」
「……な……何の事……かなぁ……?」
「惚けんなよぉー。心を読んで知ってるんだろー? ……ま、今のお礼は、『何でもないよ、ただ今日のデート誘ってくれた、お礼が言いたかっただけ』って事にしとくよ」
「そ……その方が……ありがたい、かなぁー……あはは……は……」

 三月三日は終わりを告げる。
 結果として愛梨は……太陽への誕生日プレゼントを、あと一日という僅かな時間で、選定せざるを得なくなってしまった。
 百点満点の誕生日プレゼントを……愛梨の手で、選定しなければならなくなった。

(ど……どどど……どうしよう……!!)

 愛梨は帰り道……一人で、頭を抱えていたのだった……。
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