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坊主頭の奇妙な校則
【28】
しおりを挟む「に……二十六歳!?」
待ち合わせ時刻の10:00を七分過ぎた、10:07に、赤神さんと倉持学級委員長は現れた。
私服姿の二人が。
仲良く、手を繋いで。
その様子をオレと喜田くんに見せつけつつ、少しドヤ顔で倉持学級委員長は……『裸の付き合いをしたことがあるのは、あなた達だけではないということですわ』と、言った。
裸の付き合い?
何のことだかさっぱり分からないが、何にせよ、仲良きことは美しきかな、である。
そんなこんなで、全員集まったため情報交換をはじめる。
けれど、それを行うにあたって、倉持学級委員長から提案を受けた。
『ここで集まってお話するのも良いのですが、場所を変えませんか? 確かに薄池高校から離れてはいますけれど、一応今日は休日……薄池高校生がこの公園を通らないとも限りませんし』と。
確かにその通りだな。
今日は休日、しかも駅近くの公園だ。
薄池高校生が通る可能性も、十二分にある。
いや……薄池高校生だけでなく――――薄池高校の教師たちも……だ。
むしろ、そっちの方が可能性は高いのかもしれない。
よって、倉持学級委員長の意見に賛成し、場所替えをすることになった。
「えっとね? 変える場所なんだけど、さっきスイっちと調べてたらさぁ、ここから徒歩二十分くらいのところに、カラオケ店があるみたいなの。そこで話さない?」
そうなのか? 知らなかった。
どうやら、この周辺を色々と調べていてくれたらしい。
倉持学級委員長……やはり、味方になると相当頼もしいな。
「分かった、そこへ行こう。良いね? 喜田くん」
「もちろんだよ」
そんな訳で、オレたちは今、遠野池駅近くの公園から離れ、徒歩二十分のカラオケ店に来ている。
カラオケ店とはいっても、まだ一曲も、誰も歌ってもいない。
何故なら今日は、歌を歌うために集まった訳じゃないのだから。
情報交換をするために、集まったのだから。
オレは形式上――――この状況もまた、仕事中なのだから。
しかし、情報共有とは言っても、面接や事情聴取のように堅苦しい雰囲気になるのも違うなと思う。
だって、オレは仕事だが……喜田くんや、赤神さん、倉持学級委員長にとっては、今日は休みなのだから。
立派な休日なのだから。
そんな彼ら彼女たちに、かしこまった仕事時間を送って貰うのも心苦しい。
よって、雑談のように情報交換ができれば……と、思った訳だ。
いきなり本題には入らず、雑談から入ることにする。
カラオケ店で、個室に案内された後、それぞれがテーブルを取り囲むように座った後、例の如く、赤神さんが四人全員にいちごミルク味の飴玉を配った後、その雑談は開始した。
雑談――心の氷を解かす作業……コミュニケーション技術では、アイスブレイクとか、言うのだったか? まぁ……そういうことである。
第一声を放ったのは赤神さんだった。
「白宮くんって、『幻想現象対策部隊』の隊長をしてるんだよね? で、薄池高校には潜入捜査として来てる訳で」
「うん、そうだな」
いちごミルク味の飴玉を、口の中で転がしながら、オレは答える。
「と、言うことはさ? 少なくとも、私たちと同い年って訳ではないんだよね?」
「うん」
「本当はさ……何歳なの?」
「二十六」
「に……二十六歳!?」
……とまぁ、そんな訳で、冒頭のこの台詞に繋がった、という訳だ。
そりゃ、驚かれるわな。
「二十六? てっきり、一個二個上なくらいかと思ってた!! 童顔だし!! 全然見えない!!」と、赤神さん。
「顔に似合わず、大人びてるなぁとは思ってましたけど……まさか、そんな年上の方だったなんて! びっくりです」と喜田くん。
いずれも、顔のこと言われてるけど、褒められてるのかな? ひょっとしてバカにされてる? まぁ、どっちでもいいけど。
けれど、そんな上記二人に対して、倉持学級委員長はそこまで驚いてはいないようで……。
「私は、円からあなたの正体を聞かされた時から、それくらいだろうなと思っていましたわ。むしろ、二十六は若い方だな、と思ったくらいです。その歳で、『幻想現象対策部隊』の隊長をなさっているだなんて……随分と優秀な方なのですね」
これは絶対褒められた。
嬉しい。それほどでも~って感じだ。
……まぁ、二十六歳の男が、女子高生に褒められて喜ぶのはどうなんだって話でもあるのだが……。
そんなことは知らない。誰にだって、褒められたら嬉しいものである。
「それにしても隊長とは……」倉持学級委員長が言う。
「かの『幻想現象対策部隊』の隊長様が、わざわざ足を運んでくださるだなんて……この一件は、それほどの案件である。ということなのでしょうか?」
「いや、そういう訳ではないよ。現在、ウチの部隊の実戦担当は人手不足でね。日本中、あちらこちらの案件に対応中で忙しいんだよ。だから、近々の問題を解決し、手の空いていたオレが、この問題に着手することになったって訳」
そもそも、童顔のオレ以外には高校に潜入するのが難しい……という説明は省いた。
これ以上、童顔を弄られたくないから。
これでも気にしてるんだぜ? 顔のこと。
コンプレックスと言っても過言ではない程度には。
「なるほど、では、この問題は、そこまで大きな問題ではない……ということですわね」
「ああいや、そういうことではないよ」
おっと……ちょっと失言っぽく聞こえてしまったか?
倉持さんは今、カラオケ店の個室という室内にいながらも、帽子をかぶっている。
自身の坊主頭を見られたくないからであろう。
【坊主頭の幻想プラシーボ】から開放された彼女は、当然、自分の髪型を見てショックを受けたそうだ。
それを赤神さんが励ましていた。
必死に親友を、励ましていた。
そのショックから、たった一日で立ち直れた倉持さんが凄いのだ。
並の女性ならば……いや、男性であっても、引きこもりになってしまう可能性があるレベルの精神的ショックを受けることだろう。
髪を剃っただけ――言葉で表せるほど、これは易い問題ではない。
感染させられた人にとってみれば、これは大事なのである。
人生を大きく左右してしまうほどの……。
「…………他人の幻想に巻き込まれる……ということは、それがどれだけくだらない幻想であっても……巻き込まれた側は、大きなショックを受けるものだ」
「ショック……」倉持学級委員長は、その言葉の意味を咀嚼するかのように復唱した。
「例えばオレは、近々の案件で【風呂には入らなくても良いものだ】という【幻想プラシーボ】と対峙した訳だ。現象としては、感染源であった貧乏大学生が感染源として引き起こした【幻想プラシーボ】で、それに感染した他の大学生や関係者が、『お風呂に入らなくなった』たったそれだけの問題ではあったが……解決した後、感染していた人達は皆、大きなショックを受けていた」
オレは続ける。
「ただ『お風呂に入らなかっただけ』とは言っても、それに影響され発生する体臭や皮膚トラブル、髪の痛み……などの問題が、どうしても発生してしまう。【幻想プラシーボ】による被害は、その幻想自体に大なり小なりがあっても、被害は必ず大である、とオレは痛感している」
「被害は必ず……大……ですか……」
そう……だからこそ――――
「だからこそ――――
【幻想プラシーボ】は、悪なんだ」
「悪……」倉持さんは、噛み締めるように……その言葉を復唱した。
噛み締めるように……意味、ありげに。
「そりゃ、さっきも言ったけれど、発生している幻想ごとに大なり小なり……緊急性のあるなしはあるけれども……。感染者の被害に対しての認識は、オレも他の隊員たちも一貫しているよ。例え、どんな案件であろうとも――――オレたち『幻想現象対策部隊』は、解決のために全力を尽くす」
倉持学級委員長へ向けて、オレは言った。
「だから……この【坊主頭の幻想プラシーボ】も、必ず解決してみせる。現在進行形で、被害を受けている人たちのためにも……」
すると、彼女はニコッと笑って……。
「分かりました……。頼りにしていますわ。白宮隊長」
と、言ってくれた。
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