【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

185:ぬるっと終わった

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「……そして、イベントが終わっている、と……」

 自然覚醒で目覚めると、そこはイベント空間に転移される前にいたドゥトワの借家で、1階のソファでバラムに抱えられている状態だった。

 イベントの始まりもすぐに意識を失って、その後調子が悪くてたくさん眠っていたし、始まりも終わりも眠っているという、何だか僕だけ締まらないイベントになってしまった。

 …………いつもの空間、それなりに時間を過ごして慣れた借家の一室で、絶対的に安全な場所……やはりなんだかんだ落ち着いてほぅっと息を吐く。

「問題無さそうか……?」

 顎を優しく捉えられ、促されるに任せて上を向くと、僕の身を案じる視線が絡む。
 そのまま、その視線が近づいてきて、つむじや額、頬……いたるところに柔らかな温もりが降ってくる。

「ん……多分……あれから何かあっただろうか?」
「……異人共が全員、商売が上手くいった商人みたいな顔をして気味が悪かった以外はとくに何も」
「そ、そうか」

 バラムが少し引くほどのプレイヤーの顔……黒曜天母とシルヴァプロデュースのボーナスステージは余程稼げたようだ。

「それで6日目が終わった瞬間にあっさり、転移で元の場所に戻ってたな」
「そうだったのか。……僕の事は……」

 あの後、ピラミッド内のアトラクションで遊び終わったプレイヤー達やあぬ丸達と合流することもあったはずだ。
 そんな中、合流したらいきなり僕が爆睡していたらどう思っただろうか。

「お前が眠った後、ひとりでに《変化》してフクロウになったから、前みたいに懐に入れていたが……」
「えっ」
「やっぱり無意識だったか」
「そう、だな……」

 なんと、眠った後に《変化》を使っていたらしい。もちろん、僕には技能を使った記憶が全く無い。
 ……眠っている状態でも技能って使えるのだろうか? 確かに、僕の技能の中には自動で発動するものがいくつかあるが、《変化》はそうではない。
 うーん……状況的に黒曜天母の力が満ちていた場ではあったので、黒曜天母が気を利かせて《変化》発動を働きかけたのかもしれない。
 あとは、僕と黒曜天母の間に少なからずそれぞれの力が混ざっている状態だった、ということもあるだろうか?

 ひとまずは、相当特殊な状況でないとこのようなことは起きない、と思っておこう。


「……む」
「なんだ?」
「いや…………元の世界で家族に呼ばれているようだ」
「……家族……」

 視界の隅に仮想空間の方でコールを受けていると通知が来た。
 何気にアルストをプレイしていて初めてのことだ。

「一旦、短めの異人の眠りを入れるのにちょうど良いし……また少し眠る」
「……そうか」

 応えるバラムの声と表情が少し暗い。

「その、眠る前に何かしたいこととか……あれば……」
「……いや……お前が起きた後、たっぷりしたいことがある」
「そ、そうか……」

 その“したいこと”に瞬時に思い至り、カッと身体が熱くなる。

 少し、落ち着きなくモゾモゾとしていると、バラムが掠れた声で呟く。

「…………そっちにいる家族っていうのは……?」
「うん? ああ、僕の叔父のことだ……家族と言えるのは、今は叔父だけ、だな……」


 …………それは、叔父さんにとっても。


「……そうか」

 僕を抱える腕が少し強くなって、鼻先や唇が僕の頬を撫でる。

 僕の方から顔を少し動かして、バラムの唇と自分の唇を合わせる。


 しばらく、触れるだけの口づけをして、ゆっくりと離す。


「……そしたら、少しまた眠る。なるべく早く戻るから」
「ああ、また後でな」


 そうして、少し重くて悪いかなと思いつつ、離してくれる気配が無かったので、バラムの腕の中でログアウトした。


 *


 意識がプライベートルームに戻って来る。

「……」

 ログアウトする度に“違和感が無くなっていくこと”に違和感を覚える。

 ……このあと叔父さんと話すし、ちょっと聞いてみようか。

 ということで、叔父さんの呼び出しに応える。
 するとすぐに、くたびれた風貌の叔父さんが訪ねてきた。

「いやぁ、ゲームを楽しんでるところごめんなー!」
「別にいいけど。それにイベントが終わったのを見計らって連絡してきたんでしょ」
「まぁ、そうなんだけどな!」

 そう言ってやや大袈裟に笑う。……おそらく、現実の容姿を反映しているアバターの目の下のクマがかなり目立っていて、体調が心配になってくる。
 とりあえず、お互いに何気ない近況を報告し合う。……僕の方は最近本当にゲームしかしていないのだが。

「……出資に金融って……なんか、シミュレーションゲームみたいなことしてるなぁ」
「まぁ、成り行きで……ほとんど商業ギルドマスターの掌の上という感じがするけど」
「でも、今日のイベントもゲーム内で出来たフレンドと楽しく遊んでたようで何よりだよ!」
「……ああ」

 改めて振り返ってみると、定期的に連絡を取り合ってはいたが、結局単独行動が多かった気がする。まぁ、敢えてそれを叔父さんに伝える必要は無いが。
 ちなみに叔父さんも僕でいうゲームと同じかさらにひどい勢いで仕事しかしていなさそうだった。

 僕が言うのもなんだが、健康第一にしっかり休んで欲しい。


 まぁ、それはまた叔父さんの周囲の人に頼むとして……。

「それで、今日の本題は?」
「うっ……別にそれだけの為に来たわけじゃないんだけど……。まぁ、そうだね。本題に入ろう」

 叔父さんが少し切なそうにするが……僕より叔父さんの方が忙しい中来てくれているのだろうしと思うと、早く用は済ませてもらった方がいいだろう。

「そんな大したことじゃないんだけど、定期的に精密検査をしてるだろう? そろそろその時期だから共有ついでに、かわいい甥っ子と交流しに来たんだ!」
「なるほど」

 やはり、やや大袈裟にそう言いながら軽くハグしてくる。

「ゲームにすごくハマってくれてるようだから、予定調整がいるだろう?」
「それはまぁ」

 『精密検査』と聞いて、もうそんな時期かと思う。となると、確かに丸2日ほど意識の方も隔離空間に行かないといけなくなるので、アルストへのログインが出来なくなる。
 2日空けるとなると、向こうだと1週間以上になるので、この後ログインしたら色々準備していこう。

 ということで、候補日の中から精密検査の日取りを決めて、この後のログインで何をしようかという算段をつける。

 あとそうだ、気になっていたことを叔父さんに聞いてみないと。

「そういえば、最近ゲームとここの感覚に違いが無くなってきた気がするんだけど……」
「あー……」

 気になっていたことを叔父さんに聞くと、あからさまに目を逸らして声を漏らす。


 ……これは、僕に黙って何かやってるな?


「実はウチの研究室が協力したツテで、あのゲームの感覚認知システムを試験的にこのプライベートルーム内にだけ実装してみたんだよね!」
「……」

 やはりやっていた。
 おおかた、僕が眠っている間にでもアップデートしていたのだろう。

「……それは構わないが、せめて事前に教えて欲しいんだけど?」
「いやー、つい忘れちゃってて! ごめんごめん」
「はぁ。まぁ、分かったよ」

 叔父さんは仕事に夢中になると、そういう連絡事項を飛ばしてしまうことがよくあるので、まぁ、慣れたものだ。

「実はその実装した空間と嗣治への影響も今回モニターしたいというのもあるんだ」
「ふぅん?」

 まぁ、最新の技術ばかり使用しているゲームの一部を専門的に協力したとはいえ、利用出来るのだし、そんなことだろうとは思った。
 自分で言うのもなんだが、中々いない性質の被験者だから。

「じゃあ、そろそろログインしようかな」
「……そんなあっさり……甥っ子が冷たい……」
「その甥っ子は、自分に構うよりしっかり休んで欲しいと思ってるから……休んでいきなよ」
「えっ? ……ぐぅ」

 ポカンとした表情をした叔父さんが、次の瞬間にはガックリと意識をなくして、アバターが消える。こっそり連絡しておいた、叔父さんの部下の人達が叔父さんを『強制入眠』させたのだろう。…………健康な人にやるのは法的にグレーなのだが……まぁ、叔父さんの過労状態は『健康』な状態ではないということでひとつ。


 ということで、連続ログイン時間の制限も切れたので、早速またログインしていこう。
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