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番外編
小話:バラムの帰郷 (終)
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しばらく星空を眺めていると、やっと少し混乱から立ち直ってきた。
しかしまぁ……バラムが思っていたより本当に、ずっと、強かなお婆さんだったということなのだろう。
そう嘆息して、ノーナから返された本を撫でる。
……これが、バラムが僕に見せたかったものか。
これ一つであったならばバラムだけで取りに行けば確実で早かっただろうに、僕をここに連れて来てくれたのは…………バラムの深いところを開いてくれたように思えて頬が緩む。
「ふっ…………ん?」
そうして本を撫でていると、付着した汚れが剥がれ、とある文字があらわになった。
「…………」
…………いや、本当にお婆さんは何者だったのだろうか。
うぅん…………しかし、これは“僕が今まで準備していた”ものを渡すのにちょうどいいか、とインベントリから一見すると大きな分厚い装丁の本を取り出してバラムに差し出した。
「バラム」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「………………あ?」
僕の言葉にポカンとした表情をして反射で本を受け取ったバラムに、お婆さんの手記の裏表紙の端を指さして見せる。
そこには「バラム出生日」という言葉と共に、この世界の暦が記されていた。しかも……本当に出来すぎなことにそれはちょうど今日だ。
うぅむ……バラムがしてくれたみたいに食事や空間などいろいろと企画と準備ができなかったことが悔やまれる。次はいろいろと企画しよう。
「なっ、……ぐっ…………………よし。……これは?」
バラムもお婆さんが遺したさらなる仕掛けに気づいたのか、頭が痛いという風だったが衝撃を力づくで呑み込んで僕が渡した本のようなものを検分する。
「開いてみてくれ」
「? ああ。……っ!」
開いたバラムは息を呑んで、黙々とページをめくりだす。その本には文字ではなく、さまざまな“精密な絵”がおさめられていた。
僕が“撮った”ものなので、バラムや風景が多めなのだが、それだけだとなんなので僕の誕生日以降は少しずつ僕自身も写ったものが撮れるように努力したりしていた。
「まだこの旅の間こっそり撮っていたものは入れられていないんだが…………『アルバム』というものだ。……気に入ってくれただろうか?」
「アルバム……」
僕の誕生日のあと、バラムにも何か贈りたいと考えたときに、僕たち自身のふとした表情だったり、訪れた光景の思い出みたいなものを分かち合えたらいいなと思い、アルバムを作ろうと色々調べたり準備したりしていた。
プレイヤーである僕がアルバムを作るのは結構簡単で、ゲーム内で撮影したスクショを《現像》という技能で写真化すればいいだけだった。
「本当はバラムもスクショを使えればよかったんだが……」
盟友契約で解放されるプレイヤー機能の中にスクショ機能がないので現状は僕がこつこつスクショを撮っていくしかない。
「盟友もスクショ機能が使えるようにならないか運営に要望を出しているところなのと、そもそも《現像》という技能があるなら、こちらに撮影できる何かもあるかもしれな、いっ!」
少し言い訳じみたその後の対応策を伝えていると、突然ぐんっと身体を引かれて、自由がきかなくなる。
首筋に、熱い吐息を感じる。バラムにきつく抱きしめられているようだ。
僕もなんとか腕を縛めの外に出して、バラムの逞しい身体に回す。
「…………早く、俺の目に映るお前の姿をとどめたい」
「……そうだな。僕もそうして欲しい」
あんまり切なそうな声音で言うので、こちらまで胸が締めつけられるようだ。
そうして抱きしめ合うことしばらく。
バラムがゆったりと少しだけ身体を離し、僕の唇に触れるだけの口づけを落とす。
「最高に気に入った。……ありがとう」
「っ! う、うん……」
間近で見たバラムは、目元に朱がさし、赤みのある錆色の瞳はこの夜空のようにいくつもの光が瞬いているように見えて……なんか、こう……すごく艶やかで目を逸らしたいような逸らしたくないような相反する衝動が湧き起こる。
……この光景は僕だけのものにしようと、記憶に焼きつける。
『主殿』
「ん?」
そうして身じろぎをしていると、シルヴァが僕の肩に乗ってクチバシで襟をクイッと引っ張る。
『我も主殿と映った“スクショ”が欲しいである!』
「変幻の夢魔が許されるのなら、わたくしもいただきとうございます。我が君」
シルヴァとノーナからもスクショの要望があがった。
「僕はかまわないし、むしろ僕もあると嬉しいが……」
「……ふん、別にかまわん」
「ふ。じゃあ、シルヴァたちが映っているスクショも今から《現像》したり、皆で並んで撮ったりしようか」
『おお! 良いであるな!』
「…………ちょっと待て。皆?」
ということで、バラムへプレゼントしたアルバムにこの旅の間にこっそり撮りだめていたスクショを《現像》して追加したり、シルヴァたちに手渡したりした。
そして、いつの間にか昇ってきていた血色の混じった碧色で継がれた月をバックに、皆で並んで撮影したりもした。
あまりこういうことをしたことが無かったので、くすぐったい気持ちになる。並んで撮ったバラムの顔はしかめっ面だったが……たぶん、僕と同じような気持ちだったんじゃないだろうか。
こうして、バラムの故郷へと至る旅は終わりを告げた。
────────────
※トウノの時とは異なり、バラムの誕生日は現実リンクしておりません(今日というわけではない)。紛らわしくてすいませんが、よろしくお願いしますー!
しかしまぁ……バラムが思っていたより本当に、ずっと、強かなお婆さんだったということなのだろう。
そう嘆息して、ノーナから返された本を撫でる。
……これが、バラムが僕に見せたかったものか。
これ一つであったならばバラムだけで取りに行けば確実で早かっただろうに、僕をここに連れて来てくれたのは…………バラムの深いところを開いてくれたように思えて頬が緩む。
「ふっ…………ん?」
そうして本を撫でていると、付着した汚れが剥がれ、とある文字があらわになった。
「…………」
…………いや、本当にお婆さんは何者だったのだろうか。
うぅん…………しかし、これは“僕が今まで準備していた”ものを渡すのにちょうどいいか、とインベントリから一見すると大きな分厚い装丁の本を取り出してバラムに差し出した。
「バラム」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
「………………あ?」
僕の言葉にポカンとした表情をして反射で本を受け取ったバラムに、お婆さんの手記の裏表紙の端を指さして見せる。
そこには「バラム出生日」という言葉と共に、この世界の暦が記されていた。しかも……本当に出来すぎなことにそれはちょうど今日だ。
うぅむ……バラムがしてくれたみたいに食事や空間などいろいろと企画と準備ができなかったことが悔やまれる。次はいろいろと企画しよう。
「なっ、……ぐっ…………………よし。……これは?」
バラムもお婆さんが遺したさらなる仕掛けに気づいたのか、頭が痛いという風だったが衝撃を力づくで呑み込んで僕が渡した本のようなものを検分する。
「開いてみてくれ」
「? ああ。……っ!」
開いたバラムは息を呑んで、黙々とページをめくりだす。その本には文字ではなく、さまざまな“精密な絵”がおさめられていた。
僕が“撮った”ものなので、バラムや風景が多めなのだが、それだけだとなんなので僕の誕生日以降は少しずつ僕自身も写ったものが撮れるように努力したりしていた。
「まだこの旅の間こっそり撮っていたものは入れられていないんだが…………『アルバム』というものだ。……気に入ってくれただろうか?」
「アルバム……」
僕の誕生日のあと、バラムにも何か贈りたいと考えたときに、僕たち自身のふとした表情だったり、訪れた光景の思い出みたいなものを分かち合えたらいいなと思い、アルバムを作ろうと色々調べたり準備したりしていた。
プレイヤーである僕がアルバムを作るのは結構簡単で、ゲーム内で撮影したスクショを《現像》という技能で写真化すればいいだけだった。
「本当はバラムもスクショを使えればよかったんだが……」
盟友契約で解放されるプレイヤー機能の中にスクショ機能がないので現状は僕がこつこつスクショを撮っていくしかない。
「盟友もスクショ機能が使えるようにならないか運営に要望を出しているところなのと、そもそも《現像》という技能があるなら、こちらに撮影できる何かもあるかもしれな、いっ!」
少し言い訳じみたその後の対応策を伝えていると、突然ぐんっと身体を引かれて、自由がきかなくなる。
首筋に、熱い吐息を感じる。バラムにきつく抱きしめられているようだ。
僕もなんとか腕を縛めの外に出して、バラムの逞しい身体に回す。
「…………早く、俺の目に映るお前の姿をとどめたい」
「……そうだな。僕もそうして欲しい」
あんまり切なそうな声音で言うので、こちらまで胸が締めつけられるようだ。
そうして抱きしめ合うことしばらく。
バラムがゆったりと少しだけ身体を離し、僕の唇に触れるだけの口づけを落とす。
「最高に気に入った。……ありがとう」
「っ! う、うん……」
間近で見たバラムは、目元に朱がさし、赤みのある錆色の瞳はこの夜空のようにいくつもの光が瞬いているように見えて……なんか、こう……すごく艶やかで目を逸らしたいような逸らしたくないような相反する衝動が湧き起こる。
……この光景は僕だけのものにしようと、記憶に焼きつける。
『主殿』
「ん?」
そうして身じろぎをしていると、シルヴァが僕の肩に乗ってクチバシで襟をクイッと引っ張る。
『我も主殿と映った“スクショ”が欲しいである!』
「変幻の夢魔が許されるのなら、わたくしもいただきとうございます。我が君」
シルヴァとノーナからもスクショの要望があがった。
「僕はかまわないし、むしろ僕もあると嬉しいが……」
「……ふん、別にかまわん」
「ふ。じゃあ、シルヴァたちが映っているスクショも今から《現像》したり、皆で並んで撮ったりしようか」
『おお! 良いであるな!』
「…………ちょっと待て。皆?」
ということで、バラムへプレゼントしたアルバムにこの旅の間にこっそり撮りだめていたスクショを《現像》して追加したり、シルヴァたちに手渡したりした。
そして、いつの間にか昇ってきていた血色の混じった碧色で継がれた月をバックに、皆で並んで撮影したりもした。
あまりこういうことをしたことが無かったので、くすぐったい気持ちになる。並んで撮ったバラムの顔はしかめっ面だったが……たぶん、僕と同じような気持ちだったんじゃないだろうか。
こうして、バラムの故郷へと至る旅は終わりを告げた。
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※トウノの時とは異なり、バラムの誕生日は現実リンクしておりません(今日というわけではない)。紛らわしくてすいませんが、よろしくお願いしますー!
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