235 / 246
番外編
回想:背中合わせの戦い ※バラム視点
本編ep.230~233のバラム視点です。
────────────
欠け月からでてきた黒いもやにツグハルが呑まれて消えた。
「っ!」
盟友の絆から無事だということがわかってはいても、心はどうしようもなく揺れる。
「夜狗よ、心を揺らしている暇はありませんよ」
「……チッ、いわれなくても」
むかつく黒衣の女に動揺を見透かされてさらにむかついたが、そのとおりだったので舌打ちをして気持ちを切り替える。
────ツグハルにはツグハルの、俺には俺の戦いがある。
『む! くるであるぞ!』
『アアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!』
黒山羊の警告と同時にふたたび妙に澄んだ金切り声のようなものが響いたかと思うと、俺たちが立っている水面の奥の光が膨張していき、無数の光の粒が月に向かって射出された。
よく見ればそれは、全身を光らせた白い翼の生えた子どものような見た目をしている。
感覚としては魔法ではなく、なにかの召喚の類らしい。
「くっ!」
俺は思わず笑ってしまった。
召喚した狗どもに短く「喰らい尽くせ」と命令をだせば、狗どもも喜々として光へと突撃していく。
俺も禍々しい見た目をした得物を下段にかまえ────横薙ぎに振り抜いた。
『『『『『────っ!!』』』』』
不自然に滞留した赤黒い剣閃は飢えた狗のように“餌”があるかぎりどこまでも舌を伸ばして光を呑みこんでいく。
そして呑みこんだ光の数だけ、血がたぎり力が増幅していくのを感じた。
大剣にとっては初めての大量の餌に歓喜しているのがなんとなくわかる。放った狗どもも光を喰らって、さらに調子をあげているようだ。
しかし『アークトゥリアの怒り』とやらはさらに無数に光を生みだし続ける。
────俺に、物量戦を仕掛けるとは。
「怒りなど忘れるほど後悔させてやる」
俺は血のたぎりに身を任せて大剣を振るう。振るうたびに光が潰えていった。
以前の俺であればこのたぎりやこの大剣に宿るなにかに呑まれて我を忘れるか、それを恐れて力を十分に発揮できなかったかもしれない。
だが、今はたぎりのなかにあっても己を見失うことはない。
ツグハルが俺を想う言葉が、心が、俺の輪郭を支えてくれる。
『我らの出番はまだ先のようであるな』
「ええ。ここは夜狗が相性がいいようですし、わたくしたちは力を温存しましょう」
後方にいる奴らがほんの少しすり抜けた光を潰しながらなにかいっている。
まぁ、奴らのいっていることはもっともだ。俺にとってはここで稼いでおくことがこれからの戦いの力になる。遠慮なくもらっていくとしよう。
────それからどれほど経ったのか、潰しても潰しても光は水面の中から無数にあふれてきて底が見えない。
体力はまだまだ十分すぎるほどあり余っているから問題はないが、なんというか…………飽きた。
「夜狗よ、討ち漏らしが多くなってきましたよ」
「……くっ」
自分でもわかっている手落ちをあらためてこいつに指摘されると、イラッとするのになにもいい返せなくてまたそれにイラッとする。
『クククッ、さすがの夜狗もそろそろ精彩を欠きそうであるな。我もとっくの昔に飽き飽きしておるし、少し刺激してみるである』
「あん?」
ずいぶん前からつまらなそうにしていた黒山羊がおもむろに前に進みでてくると……己の形をどろっと崩して光る水底のなかへと沈んでいった。
────直後、ドォンッと空間が大きく揺れた。
『アアアアアアアアアアァァァァッ!!!!』
水底から光が突き破って現れた。
同時に、それとは異なる淡い光も水面から飛びでて月へと吸収されていく。あれは……。
「『秘文字の破片』か?」
淡い光のなかになにかの文字らしき図柄が見えた。
『クハハッ! やはり奥底で抱えこんで力の供給源にしていたであるな!』
黒い影がふたたび黒山羊の形をとって哄笑をあげる。
「なにをやったんだ」
『クククッ、ここはいっても我らのほうが有利な地であるからな、空間全体に干渉してかき混ぜてやったである』
「……」
きいてもよくわかんねぇな。
「無駄話をしている暇はないようですよ」
「……わかってる」
いわれるまでもなく意識は“敵”に向けたままだったが、目もそいつに向ける。
シルエットは一対の光り輝く白い翼の生えた獅子であるようだったが、その頭は怒り狂った女の顔をしていた。
俺ですら見たことがないほどの憤怒に歪んだ表情であるのに、それでもとてつもない美貌を持っていることがわかる。
そのことにいい知れない気味の悪さを感じた。
『アアアアアアアアアアァァァァ!!!』
女の顔が妙に澄んだ叫び声をあげたかと思うと、今度は小さな子どもの召喚ではなく、無数の魔法の槍が現れてこちらに射出された。
『グルアッ!』
『ガアアッ!』
『バウウ……』
魔法攻撃はどうにもできないのか、召喚した狗どもが槍に貫かれて生命力を減らしていくだけだったのでさがらせる。……“根”のやつはそこまででもねぇみてぇだが。
「ふむ、あの魔法はわたくしが受け持ちましょう。貴方がたはあれへの攻撃を」
『うむ! 任せたである』
「……ああ」
魔法を受け持つってどうやんだと思いつつ、できるというのならとかまわず突撃するかまえをとる。
黒衣の女が手に持った針のような刀身になっているサーベルを自分の正中にそって掲げ、左足をさげて半身のかまえをとる。
そして、欠け月を庇う黒衣の女に無数の魔法の雨が降りそそいだとき────カァンと鐘のような音がしたかと思うと、目の前に円形状の壁があるかのように光の槍が弾かれた。
それだけでなく、弾かれた槍がそのまま雌獅子に突き刺さっていた。
動き的には細剣を扱う剣士がやる《弾き》に見える。……魔法をあの量、あの精度で弾けるなど見たこともきいたこともねぇが。
『アアアアアアァァァァッ!!!!』
槍をすべて弾き返されたことで雌獅子の敵意が黒衣の女に集中する。
その隙をついて、俺と狗ども、黒山羊が一気に走りだした。
図体の割に今のところ遠距離攻撃しかしてこず動きを見せない体に攻撃を叩きこむ。
黒山羊も黒い魔法の槍を射出していった。
……直接攻撃を加えて、わかった。
手応えもあるし戦えてもいるが、“果てがない”。
こいつの力が尽きるまでにどれほどの攻撃を加えればいいのか……見当もつかない。
だからといって諦めるつもりはねぇが。
黒山羊と黒衣の女はそんなことは承知の上だという態度なのに、俺だけ怖気づくのも癪だしな。
そうして俺たちは何日も何日も怒りの化身の攻撃から欠け月を守り続けた。
怒りの化身は手をかえ品をかえ、攻撃の種類や形態を変え続けていた。
あるときは魔法攻撃しか効かない力場を展開してきて、黒山羊が主力で攻撃を加えているうちに狙われだすのを俺と狗どもで壁になったり、発狂したように暴れ狂ったり、翼がもう一対増えて空に飛びあがって魔法やナイフのような翼の雨を降らせてきたり。
飛びあがった状態には手を焼かされたが、今の俺には遠距離攻撃手段がないわけではないし、黒衣の女が糸をだして自由を奪うことで対処した。
そのうち頭だけ女の顔だったのが、ずるっと上半身が生えたのにはさすがに少し面食らった。
そのころには、今までしてきた攻撃をすべて同時にだしてきたりして全員が総力をあげて対処せざるを得なくなっていた。
しかし、俺たちのだれも悲観的にはならない。むしろ、余裕すら生まれていた。
────なぜなら俺たちの後方で淡く輝く月が、ツグハルの力で満ちていくのを感じていたからだ。
ツグハルが月の修復を終えてもどってくるまで堪えればいい。根拠はなくとも直感的にそう確信していた。
俺はただ剣を振るい続ける。
……俺だけを小さな瞳に映すあいつを腕のなかに収めることを夢想しながら。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
表紙は自作です(笑)
もっちもっちとセゥスです!(笑)
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)