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見知らぬ土地で
第51話
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店がオープンするや否や、紫苑の周りには客が群がる。当の紫苑は、愛想を振り撒いているわけでも巧みな話術を駆使しているわけでもない。ただそこにいるだけ、だ。
「みんななんであんなのがいいんだよ……」
まだじんじんする頬をさすりながら、真司は紫苑を横目で見ていた。でも、あのアルバムの笑顔もあいつなんだよな……
「真司! 早く受付入って!」
嫌いなら気にしなきゃいいんだ、自分にそう言い聞かせながら受付に急いだ。
閉店後。
「おい犬あがれ。しずはオーナーとミーティングだってよ」
よりによってなんでコイツが呼びに来るんだ、いちいちムカつく人だなあ。そう思っていたのが顔に出ていたらしい。
「犬! そーんなに膨れんなって」
突然紫苑は真司の肩に腕を回した。そしてまた顔を近づけた。
「なぁ、俺ともしてみろよ。しずよりうまいぜ」
「やめてください」
口ではそう言いながらも鼓動が早まる自分を恥じた。それを感じ取ったかのように紫苑は続けて、耳に口を寄せた。熱い息がかかる。まるで今にも耳を咥えこんでしまいそうな距離で、淫靡な言葉を囁き続ける。
「あいつヘタなんだよ。俺あいつにやられてイッたことねーもん」
言葉で犯されていた。やめて欲しいと思ってるのに、どこかでこれ以上の何かを期待している。欲望は「ヤメロ」と「モット」が交錯する。が、すんでのところで理性が勝った。
「やめて! 僕は静流さんに命を救われた……一緒にいるって約束したんだよ!」
必死の訴えを紫苑はつまらなそうに笑い飛ばした。
「約束? そんなもん何になる。命まで助けていただいたのに裏切るのが自分の中で許せない、そうだろ? しずに悪いから、しずに申し訳ないから、しずがかわいそーだから? ……カッコつけやがって。身体は欲しがってるくせに」
それだけ言うと、また紫苑は面白くなさそうにどこかへ行ってしまった。
恐かった。深く息を吸い込んで、心底そう思った。
オマエナンカヨリオレノホウガシズノコトヨクシッテル――
あの鋭い目はそう言っていた。
「みんななんであんなのがいいんだよ……」
まだじんじんする頬をさすりながら、真司は紫苑を横目で見ていた。でも、あのアルバムの笑顔もあいつなんだよな……
「真司! 早く受付入って!」
嫌いなら気にしなきゃいいんだ、自分にそう言い聞かせながら受付に急いだ。
閉店後。
「おい犬あがれ。しずはオーナーとミーティングだってよ」
よりによってなんでコイツが呼びに来るんだ、いちいちムカつく人だなあ。そう思っていたのが顔に出ていたらしい。
「犬! そーんなに膨れんなって」
突然紫苑は真司の肩に腕を回した。そしてまた顔を近づけた。
「なぁ、俺ともしてみろよ。しずよりうまいぜ」
「やめてください」
口ではそう言いながらも鼓動が早まる自分を恥じた。それを感じ取ったかのように紫苑は続けて、耳に口を寄せた。熱い息がかかる。まるで今にも耳を咥えこんでしまいそうな距離で、淫靡な言葉を囁き続ける。
「あいつヘタなんだよ。俺あいつにやられてイッたことねーもん」
言葉で犯されていた。やめて欲しいと思ってるのに、どこかでこれ以上の何かを期待している。欲望は「ヤメロ」と「モット」が交錯する。が、すんでのところで理性が勝った。
「やめて! 僕は静流さんに命を救われた……一緒にいるって約束したんだよ!」
必死の訴えを紫苑はつまらなそうに笑い飛ばした。
「約束? そんなもん何になる。命まで助けていただいたのに裏切るのが自分の中で許せない、そうだろ? しずに悪いから、しずに申し訳ないから、しずがかわいそーだから? ……カッコつけやがって。身体は欲しがってるくせに」
それだけ言うと、また紫苑は面白くなさそうにどこかへ行ってしまった。
恐かった。深く息を吸い込んで、心底そう思った。
オマエナンカヨリオレノホウガシズノコトヨクシッテル――
あの鋭い目はそう言っていた。
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