撮り残した幸せ

海棠 楓

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これから

1

「あれ、もういいんですか?」
「喉を通らなくって……」
 ジュンは肩をすくめ息を吐くと、史郎の前に置かれた皿を引き寄せてぺろっとたいらげた。
「じゃあ僕は出ますけど、しゃんとしてくださいよ! それから、結果が出たら僕にもすぐ教えてくださいね」
「毎日同じこと言われなくてもわかってるよ……」
 ギャンギャンとジュンに口うるさく詰められて、史郎はうんざり顔だ。
 ジュンからああは言われたものの、史郎は全く落ち着かない。とうにやめたタバコに手を出しそうになってはやめて、代わりに白湯を注いだ。
 
 離れている間、史郎はカメラをひっさげ街を歩き、何気ない風景を撮り、日記のようにひとこと添えてはスマートフォンからジュンへ送っていた。そんな中からジュンが「これは絶対応募したほうがいい」と強く言ってきかなかった一枚を、本当にしぶしぶ、とあるコンテストに応募したのだ。ジュンの留学先であるオーストラリアが主催する国際的な写真コンテストでプロアマ不問、優勝者には高額の賞金が出る上、オンラインフォトギャラリーでも展示される。受賞作品は年鑑と公式サイトに掲載されるため、世界中に写真家として知名度を高められる、権威あるコンテストだ。

 その結果発表が、そろそろ出てもおかしくない頃合いなのだ。

 史郎はジュンと離れて生活を改めてから、朝の五時に起きて新聞を読み、六時には窓辺の観葉植物に水をやるのが日課となっていた。しかし、この一週間は、その生活が完全に狂っている。そして今朝は朝食はパンを焦がし、ドリップコーヒーをあふれさせてしまい、とさんざんだ。鏡に映る自分の顔には、目の下に深い隈ができていた。

 ポケットの中が震える。史郎は条件反射のように素速く、ポケットのスマートフォンを取り出した。メール受信を知らせるバイブであった。画面には、見慣れないアドレスからの新着メールが一件。差出人の欄には応募したコンテスト名が、件名には「結果のお知らせ」とあった。
 指先は変な汗で冷え切り震え、何度も指先が滑り、誤ってゴミ箱フォルダを開きそうになりながら、ようやくメールをタップする。
 画面に広がる、だらだらと続く無機質な事務的な文章の中から、史郎の視線はただひとつの単語を見つけ出した。

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