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夫婦ごっこは楽しかったよ
しおりを挟む俺は、全て分かってしまったが黙っていた。
奥様が、旦那様の様子を案じて、憔悴しきっていたからだ。
「奥様。大丈夫でございますか?」
「レン……私、怖いの。スペンサー様が、スペンサー様が居なくなってしまう事が……」
震える奥様を俺は抱き締める。
「俺が、ついています」
「レン、私、夜が怖くて眠れないのよ……」
今は旦那様は、昏睡状態のようになっている。
少しでも離れたら、最後に会えないかもしれないと不安なのだろう。
「私、もっとスペンサー様を大切にすれば良かった。スペンサー様の愛する妻になれなかった」
「そんなことありません。奥様はよく旦那様に仕えていました」
「だって、私の心には、いつも違う人がいたのよ……申し訳なくて、悲しくて、でも、どうにもならなくて」
「奥様……。旦那様は、分かっておいでですよ、きっと」
俺は奥様が身代わりとして、なりきれずにいた自分を責めているのだと分かった。そして、それは俺のせいだということも……。
しばらく抱きしめながら、背をさすっていると、アーネスト様がやって来た。
「マリアーヌ。叔父さんが目を覚ましたよ。マリアーヌを呼んでる」
「奥様、ついて参りましょうか?」
奥様は震えながらも、首を横に振って旦那様の寝室へ入って行った。
ーーーー
私が寝室に入ると、久しぶりに目を開けたスペンサー様がこちらを見て微笑んだ。
「アーシャ。夫婦ごっこは楽しかったなぁ。最後までマリアといられて嬉しかったよ。ありがとう」
「スペンサー様……‼︎ 」
私はスペンサー様の上に被さって泣いた。
「アーシャ。私はあくまで格好だけでいいのだと言っただろう?君の事だから、マリアになりきれなくて辛かったんじゃないか?当たり前の事だよ。好きな男がいるんだからな」
「で、でも…… 」
「何も悲しむことはないぞ、アーシャ。私はやっと本物のマリアに会えるのだからね。君も、本当に好きな男と幸せになれよ」
それだけ言うと、また、スペンサー様は目を閉じてしまった。
そして、その3日後、息を引き取ったのだったーー
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