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第二章 恋のレッスンまだですか?

仕事に就けました! ......日雇いですが。

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 私とジェイドは、仕事のことやこれからの生活のことを相談しながら歩いた。
 舗装された街道まで出ると、私はまた荷車に乗せられた。そしてジェイドが勢いよく走ってくれたので、ギルドまであっという間に着くことができた。

 前回やり方を教えてもらったので、スムーズに荷車を駐車場に預ける。
 そして館内に入り、求人を見て回る私たちだけど、やはりなかなかこれと言った仕事は見つからない。

「やっぱりすぐに定職につくのは難しそうですね。しばらくは近くの安宿に泊まって、日替わりの仕事をしてみましょうか」

「そうだな。まいは仕事をするのが初めてだし、日替わりのものの方が簡単でよかろう」

「それじゃ、最初は、これなんかどうかしら?」

 私は相変わらず、ジェイドの片腕に座るように抱っこしてもらってるので、ちょうど目の前の求人票を指差すことができた。

<薪割りと洗濯の仕事をお願いします。働きぶりを見て、数日間続けてお願いすることもあります>

「ラノール家からの依頼か。身元がしっかりしているから安全な職場と言っていいだろう。だが、フルフェイスの俺がいても雇ってくれるかが問題だな」

「ダメならまた、他を探せばいいじゃない。ジェイドは薪割り、私は洗濯。それぞれできることがあるからやってみたいわ!」

「両方合わせて二時間の仕事か。収入としてはいくらのもならねえが、腕試しってことでまずはやってみるか」

 私とジェイドは意見が合い、ギルドの受付嬢に申込票を持って声をかけた。

 まんまるメガネをかけた、ポニーテールのお姉さんは、職業人らしくテキパキと手続きをしてくれた。これで私も、身分証が受け取れる。

「ハッキリと申し上げますが、そこの獣人さんは獣姿なので、面接で落とされる可能性が高確率であると思ってください。もしもそのことで断られても、しつこく雇ってくれと頼んだり、断りの理由に文句を言ったりはしないでください。それをすると、次回ギルドからの紹介状は発行できなくなりますので」

 私たちはそのことはわかっていたので、しおらしく頷いた。
 すると受付嬢は、メガネをクイとあげて微笑んだ。

「本当でしたら、元男爵ラノール・ペレ様への紹介などとてもできない案件ですが、タカセ様はケント・フェロー子爵の紹介状をお持ちですから。この信用は大きいですわ」

「はい! ケンちゃんは同郷の幼馴染なんです!」

 ケンちゃん(今世は生まれ変わってるので、名前がケントになっていた)の紹介状のおかげで面接を受けられることになり、私は心の中でケンちゃんに再度感謝しながら受付嬢に自慢した。メガネのお姉さんはまたニコリと微笑んで、すぐにキリリと表情を戻した。そしてまっさらの身分証とギルドからの紹介状を渡しながら、「就職成就をお祈りします」と言葉をくれた。



 ***

「まあ。ギルドの依頼を見て来てくれたの? こんなに幼い女の子が?」

 私の目の前に立つ美しい老女は目を大きく開けて私に言った。

「はい。ですが私は幼い女の子ではありません。小柄ですが、ちゃんと成人していますので、一人前に働きます! どうぞよろしくお願いします!」

 私は頭を下げつつ、ギルドからの紹介状を差し出した。美しい老女はそれを受け取り、しばらくその内容に目を通す。

「まあ。フェロー子爵様の同郷でいらっしゃるの? 彼があなたの人柄は信用できると書いてあるけど、働くのは初めてなのね」

「はい。私は田舎ではちょっとした商家の娘だったのですが、それが没落しまして、こうして働くことになりました。甘やかされて育ちましたから、世間知らずで最初はテキパキ働けないかもしれませんが、真面目に頑張りますので是非、雇っていただけないでしょうか」

 私は道中、ジェイドから自分の過去について、異世界から転移転生したなどと言ってはいけないとアドバイスを受け、こういうシナリオを作っていた。このシナリオなら、二十歳にもなる私が浮世離れしているのも納得してもらえるだろうとジェイドからの提案だ。(やっぱり私の彼「きゃっ///」は頼りになるぅ~!)

 経歴詐称がバレたらケンちゃんに迷惑がかかりそうだから、あまり話したくはないんだけど、この世界の常識を身につけて、ある程度の仕事スキルを構築するまでは、言い訳が必要なので仕方ない。

「まあ。それはお気の毒に。うちは薪割りと洗濯の依頼だから、そんなに難しいお仕事ではないけれど、薪割りはあなたには無理ではなくて?」

「それなんですが。私には、田舎から連れて来た、優秀な奴隷がいるので薪割りもお任せいただけます。ただ、姿がちょっと、怖そうに見えるかもしれません。ですが気性は大人しく、従順な性格ですので、どうか怖がらないで欲しいのです」

 これもジェイドに言えと言われた台詞で、それを言ってから私は物陰に隠れているジェイドに声をかけた。

「ジェイド。奥様にご挨拶をしてくれる?」

 ジェイドは大人しそうな奴隷を演じるため、背を丸めてソソと姿を現した。

「ジェイドでございます。奥様、どうぞよろしくお見知りおきを」

「まあ。獣姿の奴隷......珍しいわ。あなたのような娘さんが、この奴隷と二人っきりで田舎から旅をして来たっていうの?」

「はい。ジェイドのおかげで、世間知らずの私も、食べることに困らずここまで来ることができました。ですからどうか、見た目で判断なさらず、私たちを雇ってみてはいただけませんか」

 思ったより、恐怖の表情を見せない奥様に、私は希望を見出してそうお願いしてみた。

「いいわ。うちの仕事は一日だけの依頼だから。あなたたちを今日一日雇いましょう」

「ありがとうございます! ジェイド、やったあっ!!」

 私は奥様にお礼を言うと、嬉しさのあまり隣のジェイドに抱きついてしまった。

「こ、こら。まい、奥様の前で無礼だぞ......すみません、奥様。まいはまだまだ世間知らずで。この無礼の仕置きは、自分が引き受けますのでお許しを」

 そう言ってジェイドは自分と私の頭を押すようにして二人で謝る仕草をした。

「まあぁっ! なんてこと! 奴隷が主人を呼び捨てにして、主人の頭を下げさせるなんて初めて見たわ!」

「うっ」

 ジェイドがしまったと言わんばかりに口籠った。
 ああ......私のせいで、せっかくの契約成立が破談になるの?!

 私たち二人が青ざめていると、目の前の美しい老女は口に手を当て、コロコロと上品に笑った。

「面白い方たちね。それじゃ、仕事の説明をするから、中にお入りなさい」

 大丈夫だった?! 私とジェイドは顔を見合わせ、ホッと息を吐いた。そして奥様の後に続いて、小ぶりなお屋敷の庭に足を踏み入れたーー。


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