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フィリップ・ハント公爵の来訪
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「それじゃあ、行って来るよ」
アレクシス様は仕事にお出かけです。
「はい。……アレクシス様、おまじないをさせて頂いても?」
「あ、ああ」
ちょっと恥ずかしそうに、アレクシス様は左手を差し出して来た。
私は両手でその手を包み、おまじないを唱える。
「今日もどうかご無事で私の元に帰って来られますように」
そして、手の甲に軽いキスをして離した。
本当は、お出かけのキスをほっぺにして差し上げたいのだけれど、仮面を被っていらっしゃるのでかなわない。だから、手の甲で我慢だ。
「ありがとう。行って来る」
アレクシス様はお礼を言って、早速と歩いて行った。
私は姿が見えなくなるまで見送った後、マリーさんに話しかける。
「マリーさん、今日はミルシェさんが来てくれる日ですよね?」
「はい。もう半時ほどで来られるかと」
「それじゃあ、マリーさん。振袖を出しておきたいのだけれど、手伝ってもらえますか?」
「ええ。もちろんですわ」
◇◇◇
「まあ!なんて美しい衣装なのかしら!わたくし、このような生地は初めて見ましたわ。それに、このように華やかな絵柄や色使いも。素晴らしい民族衣装ですわねぇ。これなら結婚式に相応しい華やかさを演出できますわ」
ミルシェさんは振袖を見て大興奮している。美を追求する仕事柄、新しい物には目がないようだ。
「問題は帯なんです。着物自体はなんとなく着方が分かるのですが、帯はさっぱりわからなくて」
とりあえず着てみると、何となくそれらしく着られたのだけれど。
このまっすぐな帯が蝶のような形になったり四角く膨らんだりする不思議。ご先祖様の知恵って、ほんとすごいと思う。
私はミルシェさんの腰を借りて、帯をいろいろ折ってみるけどなかなか上手くいかない。
その内マリーさんも加わって、代わる代わる腰を変えてあーでもない、こーでもないと研究に耽っていた。
そろそろ三人とも煮詰まって、休憩にしようかとなった頃、ノックが鳴りセバスさんがやって来た。
「カスミ様……。カスミ様に客人が来られているのですが……。事前に旦那様の許可を取っていない方はお断りするところなんですが……」
セバスさんは困惑したように言う。
「簡単にお断りできないような、高貴な方なんですね?」
私は察してセバスさんに尋ねた。
「はい……いかがいたしましょう……」
「どういったお方なんですか?」
セバスさんは説明してくれた。
来訪者はフィリップ・ハント公爵という。
公爵というだけあり、王家に連なる遠縁筋に当たるそうで、大変な美丈夫なのだそう。議会の中でも権力を誇り、今をときめくお方なのだとか。
そんなお方が、なぜ私に会いに来られたのかしら?っていうか、大変な美丈夫と聞いた辺りから、嫌な予感しかしないのだけれど……。
「……仕方ないですね。会って、御用向きだけでもお伺いしましょう」
「しかし……未婚の男性と会うなど、旦那様が後で何と言われるか………」
「無碍にお帰り頂いたなら、アレクシス様にご迷惑がかかるかもしれません。セバスさんとマリーさんが一緒にいて下さるなら、ふたりきりということもないので大丈夫でしょう」
私は一抹の不安を抱きながらも、アレクシス様の妻になる身、この位の対応はできなければと自分に言い聞かせた。
アレクシス様は仕事にお出かけです。
「はい。……アレクシス様、おまじないをさせて頂いても?」
「あ、ああ」
ちょっと恥ずかしそうに、アレクシス様は左手を差し出して来た。
私は両手でその手を包み、おまじないを唱える。
「今日もどうかご無事で私の元に帰って来られますように」
そして、手の甲に軽いキスをして離した。
本当は、お出かけのキスをほっぺにして差し上げたいのだけれど、仮面を被っていらっしゃるのでかなわない。だから、手の甲で我慢だ。
「ありがとう。行って来る」
アレクシス様はお礼を言って、早速と歩いて行った。
私は姿が見えなくなるまで見送った後、マリーさんに話しかける。
「マリーさん、今日はミルシェさんが来てくれる日ですよね?」
「はい。もう半時ほどで来られるかと」
「それじゃあ、マリーさん。振袖を出しておきたいのだけれど、手伝ってもらえますか?」
「ええ。もちろんですわ」
◇◇◇
「まあ!なんて美しい衣装なのかしら!わたくし、このような生地は初めて見ましたわ。それに、このように華やかな絵柄や色使いも。素晴らしい民族衣装ですわねぇ。これなら結婚式に相応しい華やかさを演出できますわ」
ミルシェさんは振袖を見て大興奮している。美を追求する仕事柄、新しい物には目がないようだ。
「問題は帯なんです。着物自体はなんとなく着方が分かるのですが、帯はさっぱりわからなくて」
とりあえず着てみると、何となくそれらしく着られたのだけれど。
このまっすぐな帯が蝶のような形になったり四角く膨らんだりする不思議。ご先祖様の知恵って、ほんとすごいと思う。
私はミルシェさんの腰を借りて、帯をいろいろ折ってみるけどなかなか上手くいかない。
その内マリーさんも加わって、代わる代わる腰を変えてあーでもない、こーでもないと研究に耽っていた。
そろそろ三人とも煮詰まって、休憩にしようかとなった頃、ノックが鳴りセバスさんがやって来た。
「カスミ様……。カスミ様に客人が来られているのですが……。事前に旦那様の許可を取っていない方はお断りするところなんですが……」
セバスさんは困惑したように言う。
「簡単にお断りできないような、高貴な方なんですね?」
私は察してセバスさんに尋ねた。
「はい……いかがいたしましょう……」
「どういったお方なんですか?」
セバスさんは説明してくれた。
来訪者はフィリップ・ハント公爵という。
公爵というだけあり、王家に連なる遠縁筋に当たるそうで、大変な美丈夫なのだそう。議会の中でも権力を誇り、今をときめくお方なのだとか。
そんなお方が、なぜ私に会いに来られたのかしら?っていうか、大変な美丈夫と聞いた辺りから、嫌な予感しかしないのだけれど……。
「……仕方ないですね。会って、御用向きだけでもお伺いしましょう」
「しかし……未婚の男性と会うなど、旦那様が後で何と言われるか………」
「無碍にお帰り頂いたなら、アレクシス様にご迷惑がかかるかもしれません。セバスさんとマリーさんが一緒にいて下さるなら、ふたりきりということもないので大丈夫でしょう」
私は一抹の不安を抱きながらも、アレクシス様の妻になる身、この位の対応はできなければと自分に言い聞かせた。
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