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親友の座は譲りません

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あれから3日が過ぎた。

私はこれからは、シリル君と一緒に登下校しようと、馬車にはシリル君の下宿先まで乗る事にした。

ゼンさんは、2日目の夜は泊まらなくて大丈夫だとシリル君に言われ、侯爵家に戻っていた。

そして歩いて登校する私のために、少し後ろから護衛として付いてきてくれている。


「おはよう!シリル君。調子はどうかな?」

「はい、お陰様でだいぶ痛みが楽になりました」

「……もう、親友のハグが出来るくらい良くなった?」

私は少し期待して、シリル君に聞いてみた。

シリル君は優しい瞳で微笑み、どうぞ、と両手を広げてくれた。

ぱふっ。
私はシリル君の胸に抱きつく。
ふわりとシリル君の匂いに包まれた。

何なの、この多幸感……!

追っかけのおばさま方が、若い演歌歌手にハグしてもらったら、こんな感じ?

「ん~幸せ~!」

私は思わずぎゅうっと力を入れてしまった。

「うっ」

「あっ!ごめんなさい!シリル君、大丈夫?」

顔をしかめたシリル君は、すぐに笑顔に戻って言った。

「メイベル様、しばらくは、もう少しお手柔らかにお願いしますね」

「は、はい……調子に乗ってごめんなさい」

私はしゅんとしていたら、シリル君が頭を撫でてくれた。

「それはそうとね、シリル君を襲ったアイツだけどね。私、よく覚えていなかったんだけど、私に以前告白してきたヤツなんだって。そんで、私のモノに落書きしてきたデボラ様と仲良しらしくって。ふたりで相談して、平民たちにお金を配ってシリル君を襲わせていたそうなのよ!そのあげく、疲れて反撃できないようにした上で、貴族に逆らうなと脅して暴行していたでしょ!あんな卑怯な事していたのに、ふたりともたったの一週間の謹慎だって言うから、私、学園長に文句言いに言ったのよ。そしたら、貴族を襲った場合は退学が停学だけど、平民が対象だと訓戒か謹慎って決まっているんですって!何なの、その差は!同じ人間なんだから、傷付けたら罪は同じだよね」

私が憤慨しながら話すと、シリル君は言った。

「いや、この階級社会ではそれが普通ですよ、メイベル様。俺はもう、服を破かれたり、教科書を汚されたりしなければ、それでいいですから」

相変わらずシリル君は寛容な事を言う。

「シリル君、お願いだから、今度困った事が起きたら、すぐに私に話してね。親友って言うのはね、心の友のことなのよ!嬉しい事も、悲しい事も半分ずつ分け合わないと!解決するとかしないとか、迷惑かけるとかかけないとか関係なく!私が知らないところで、大切なシリル君が痛めつけられてるなんて、もう二度と嫌だよ?」

私は歩きながらも、シリル君に親友たるものが何ぞやを解いて聞かせた。

シリル君はクスッと少し笑ってから答えた。

「分かりました。それなら、メイベル様が何か困った時も、俺に相談して下さいね。俺は何の力もないから、役には立たないかもしれませんが、一緒に気持ちを共有するくらいのことはできますから」

「うん!お願いね!」

私とシリル君はその後、学校に着くまでほとんど無言だったけれど、むしろそれが居心地良くて、本当に親友としての相性が良いんだな~なんて自己満足に浸っていた。


◇◇◇


「シリル、虐めてた私が言うのもなんだけど、酷い目に合ったわね。もう大丈夫なの?」

教室に入るとキャロライン様がシリル君に声をかけた。

ドロシー様も一緒に頷いている。

「ありがとうございます。もう大分良くなりました。……考えてみたら、皆さんは俺にいろいろして来たけれど、持ち物を壊したり、暴力を振るったりされた事はなかったですよね」

「そんな事しませんわ!私たちは卑怯者ではありませんことよ!でも、あなたの心を傷つけた事には変わりないですわよね。ごめんなさい」

キャロライン様は反論しつつも再度謝った。

確かに日記には、主に馬鹿にする、嘲笑う、揶揄うみたいなのばかりだった気がする。

でも、精神攻撃も立派なイジメになるからダメだよね。

「もういいですって。それより俺のせいで、例の演技が遅れているのでしょう?今日は、決行するのですか?」

シリル君がそうドロシー様に向かって聞いていると、そこへアーサー様がやってきた。

「おー!シリル、無事来たな!お前、今度の事、なんで黙ってたんだよ!俺に言ってくれれば、俺が一緒に帰ってやったのによ!貴族の俺がいれば、ヤツは手出しなんかできなかったんだぜ?遠慮なんかするなよな」

アーサー様はニッと笑って、シリル君の額を指で突いた。

あっ!私のシリル君なのに、アーサー様の方がなんか親友っぽい!妬けるなぁ。

「すみません、アーサー様。……ありがとうございます。でも、もう大丈夫でしょうから」

シリル君が答えると、私はアーサー様に負けじと言った。

「親友の私が、これからは一緒に帰るから大丈夫!アーサー様は、帰る方向が違うでしょ?テニスサークルもありますしね?」

私が言うと

「それはそうなんだが、なんか妬けるなぁ~」

とアーサー様は言う。
アーサー様も、私にシリル君を取られて嫉妬してるのね。

「ふふん。残念でした、アーサー様。シリル君の一番の親友は私なの!アーサー様は2番よ、2番!アーサー様に一番の座は譲らないから諦めてね」

私は優越感に浸りながら言った。

シリル君は眉を下げ、アーサー様は肩をすくめていたけれど、何も言い返しては来なかった。

あれ?何か違った?

キャロライン様とドロシー様も、なぜか生暖かい目でこちらを見ていた。

「あ、そうだ。俺、メイベルに用事あったんだ。さっき、イスマイル様が俺のとこへ来てな。昼休みに生徒会室にひとりで来てくれって。何で俺に言うのか聞いたら、お前が付いて来ないよう釘を刺すためだと言ったんだ。イスマイル様のヤツ、メイベルに告白でもする気なんじゃねーか?気のないフリしといてよ」

アーサー様は憎々しげに言った。

どうもこの2人はソリが合わないのか、よく言い合ってる気がするなぁ。

「まさか。アーサー様、考え過ぎだよ。イスマイル様は殿下命なんだから。多分例の作戦の事でしょう。ひとりで行ってくるわ」

「あの人になんか言われたりされたりしたら、ちゃんと言うんだぞ?じゃ、俺は教室帰るからな!」

アーサー様はにかっと爽やかに笑って去って行った。




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