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姫君の身内愛が辛い
しおりを挟む「ほう。そなた、イグナスに勝ったのか?名はなんと申す?」
サンドラ姫は、アーロン殿の頭から足先までを眺めた後、そう問うた。
「は、恐れ入ります。勝ったと申しましても、辛勝にございますが。私はこの騎士団の副団長をしております、アーロン・セイアードと申します。以後、お見知り置き下さいますよう」
アーロン殿は、片膝をついて慇懃に挨拶をした。
「うむ、今日は我も5人相手にして体力がもたないから、また日を改めて試合致そう。今日のやつらはどうも我に遠慮していたフシがある。お前、副団長なら、女相手とて容赦なく相手できるな?」
「姫君がそのようにお望みとあらば」
そういう事で、お見合いの続き(?)は日を改める事になった。
今は馬で姫君と並走しながら王城への帰路を辿っている。
「姫君、アーロン殿の印象はいかがでございましたか?私はかなりの優良物件と見たのですが」
「イグナスがそういうのなら、いい奴なのだろう。お前は観察力も分析力もあるから、お前がいいなら我は何も言うことはない」
姫君は、まるで使用人の採用を決めるかのように、俺に婿殿選定を丸投げして来る。
「しかし姫君、これは使用人を決めるのとは訳が違います。姫君の婿になるお方なのですから、好みですとか、相性ですとか、よく吟味なさいませんと」
俺がさりげなく忠告するも、姫君はどこ吹く風で答えた。
「我は別に、見目などどうでも良いのだ。男は強く、正義感があれば良い。我と結婚すれば、共にこの国の善良な民を守るのだからな。まあ、夫婦というより同士という関係に近かろうな」
姫君はそう言った後、俺の方に視線を向けてにっこりと微笑んだ。
「それよりもイグナス。お前は本当に強くなったな。騎士団の副団長に負けるのは致し方なかろうが、他の奴らにはあっさりと勝っていただろう?我は自分が戦いながらも、ちゃんとお前を見ていたよ」
「……恐れ入ります、姫君」
「幼い頃は、あんなにいじめられっ子だったのに、よく頑張ったな。帰ったら、褒美に我の飴を食べさせてやるからな」
「……姫君、勿体ないお言葉なれど、私はもう子供ではありませんよ」
「まあ、そう言うな。我はお前が可愛くて仕方がないのだから、我慢して可愛がられろ」
俺が小さな時から、過酷な特訓を受けていたため生傷が絶えなかった事を、今でも姫君は仲間たちにいじめられていたと思い込んでいるようだ。
俺を可愛いって……俺は貴女よりも7つも年上なのですよ?
まるで弟を愛するかのように優しく俺に接する姫君に、俺は複雑な心境になりながら答えた。
「……飴は有難くいただきますが、もう直接口に入れてくるのは止していただけませんか。そのようにされると私はとても恥ずかしいのです」
「そんなお前を見るのが楽しいのだ。やめられるはずがなかろうが」
姫君はハハハハハと軽快に笑って言った。
俺はひとつため息をついて、普通の従者の扱いを受けることは、諦めることにした。
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