20 / 29
2章
古の書(ルドルフ視点)
しおりを挟む《前前話・前話あらすじ》
カインはヴェルディア再興のため、カナリエの魔術とシリアスの血を利用しようとして二人を誘拐した。協力者のライネは、カナリエを自分の“未来の伴侶”だと妄信し、カインと手を組んでいた。計画の中核は、カナリエの力で子を授かる禁術を実行し、シリアスに「ヴェルディア初の王子」を産ませることだった。企みに気づいたカナリエは拘束されながら必死に抵抗し、レオスたちの到着を信じて時間を稼ぐ。しかし逆上したライネに暴力を受け、追い詰められたその瞬間、扉が蹴り破られ——。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私は何故こんなことに協力しているのだろう。
これは何度も自身に問いかけた言葉だ。シア殿に出会ったのはほんの数日前で、彼と話した機会も数えるほどしかない。それでも、彼を助けたいと私は必死になっている。
これは偽善か、はたまた別の感情なのか。私には分からなかった。けれどこの衝動に従わなければ必ず後悔するということは分かったから、今も急いで馬を走らせている。
「リュードリア公爵!焦るのは分かります、ですが少しスピードを落としましょう!危険です!」
「分かっている…!しかしカナリエのことを思うと居てもたってもいられないのだ!!」
そう、先刻ファラディスから、カナリエ殿と砂竜王の番シリアス様が誘拐されたと知らせがあったのだ。
前方を走るリュードリア公爵は、焦れたように馬に鞭打っている。行き先は王城、陛下に今件についての全てを報告するためだ。
(おそらくだが、この誘拐はシア殿の件と繋がっている。我々が思っているより大きな何かがあるのか…?)
嫌な予感がしてならない。公爵を咎めながらも、私も走るスピードを上げてしまっていた。
◇◇◇
王城に着いてからも、陛下のいる部屋へ小走りで急ぐ公爵に着いて歩く。
「陛下っ…!!」
「よく来たな、リュードリア公爵よ。そなたが焦る理由も分かるが、少し落ち着け」
「しかし!私の可愛い息子が!!」
沢山の書類の前で、陛下は私たちを待ち構えていた。
王子と友好国の王まで関わった今件は、陛下にとっても頭を抱える問題なのだ。それでも落ち着いた様子の陛下に、流石だと感服する。
「陛下、僭越ながら私が今件の説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「おお、そなたはエオリア伯爵家の。構わん、話してくれ」
「ありがとうございます。まず、カナリエ殿と砂竜様の番様が攫われた件ですが、カナリエ殿とレオス様がファラディス王国に出向かれた理由が関係しているかと愚考しております」
「なに?」
今回の二つの事件は、あまりにタイミングが良すぎるのだ。さらに、我々が掴んだ証拠がその推測を裏付けた。
「カナリエ殿は、ヴァレンタイン家御子息のライネ殿からある禁書の話を聞いた、と。我々はその禁書についてこの数日調査をしておりました」
禁書の話を持ち出したとき、陛下の表情が少しだけ動いた。陛下は禁書についての話を知っている、そう確信した。
「…それと今件にどんな関係が?」
「カナリエ殿とレオス様、お二人はライネ殿の犯行とシア殿の無実の証拠を掴むため、ファラディスへ向かわれた。そして私たちが禁書について調べたところ、ヴァレンタイン伯爵家からその禁書が持ち出された形跡が見つかりました。更に、学院の生徒に聞いたその日のライネ殿の動向と犯人の動向が一致する…そう分かりました」
これで、シア殿の嫌疑は完全には晴れないにしても、最も疑いが深い被疑者はライネ殿になるだろう。
陛下はため息を吐いて目を伏せた。
「まさか、ヴァレンタイン家からそのような者が…」
「お気持ち痛いほどお察しいたします。しかし、調査から分かった事はまだあるのです」
「…聞こう」
「ヴァレンタイン伯爵家、並びに王都学院から、ライネ=ヴァレンタインが姿を消しました。カナリエ殿誘拐の件と彼が関係していると考える理由は、ここにございます」
「まさかそんなっ…!いや、待て。それならば何故シリアス殿は…」
「それが、私たちにも分からないのです」
隣でやっと落ち着いた様子の公爵と目を合わせる。陛下はまだ考え込んだ様子でいらっしゃった。
そしてやがて何かに気が付いたかのように目を見開き、ボソッと呟いた。
「…あの書を見れば良いかもしれん」
「あの書?」
「いいか、そなた達。これから見せるものについては、一切他言無用だ。着いてきてくれ」
そうして歩き出した陛下は、王家の者以外立ち入りを固く禁じられた書物庫へ私たちを連れていった。
「初代シェルリオン国王の書記だ。砂竜国と我が国の関係の全てが、これに記されている」
「そんなものが…」
「必要になる時が訪れるだろう、それまでは何人たりとも読むことを許さない、そう残して初代国王は亡くなった。おそらく今が、そのときなのだろう」
その書に記されていたのは、ファラディスとシェルリオン、そして故大国ヴェルディアの歴史だった。
何より驚いたのは、ヴェルディアの王族筋は未だ繋がれているということ。その子孫がヴェルディア王家に稀に現れるという力に目覚めたとき、我が国は厄災に巻き込まれるだろう、そう書いてあった。
「ヴェルディア王家の力…」
「あの国は魔術の発展で栄えた国。そしてその王家には、無尽蔵の魔力を持つ者が産まれる、と聞いたことがある」
「無尽蔵!?」
先日からずっと、自身の常識を覆すような話ばかりだ。無尽蔵の魔力と、今は葬り去られた高次元の魔術。これを駆使したからこそ今回の様々な犯行が可能になっていたのだろう。
(レオス、無事にカナリエ殿を助けてくれよ…!)
私も守りたいものを得てしまった。だから、カナリエ殿の存在がレオスを弱くも強くもし得るのだと知っている。彼が後者であることを祈って信じて、私は自分のやるべきことを見据えたのだった。
29
あなたにおすすめの小説
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
最強の騎士団長はパン屋の青年に癒される
ゆら
BL
転生したカイは、亡くなった両親の跡を継ぎパン屋を営んでいる。最近常連になった男、ルグランジュは最強と名高い騎士団長。センチネルとして有能だが、冷酷と評されるルグランジュだったが、それを知らないカイの前では笑みを見せ──。
最強のセンチネル×パン屋の青年の、センチネルバース物語。
*大人シーン
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる