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2章
古の書(ルドルフ視点)
しおりを挟む《前前話・前話あらすじ》
カインはヴェルディア再興のため、カナリエの魔術とシリアスの血を利用しようとして二人を誘拐した。協力者のライネは、カナリエを自分の“未来の伴侶”だと妄信し、カインと手を組んでいた。計画の中核は、カナリエの力で子を授かる禁術を実行し、シリアスに「ヴェルディア初の王子」を産ませることだった。企みに気づいたカナリエは拘束されながら必死に抵抗し、レオスたちの到着を信じて時間を稼ぐ。しかし逆上したライネに暴力を受け、追い詰められたその瞬間、扉が蹴り破られ——。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私は何故こんなことに協力しているのだろう。
これは何度も自身に問いかけた言葉だ。シア殿に出会ったのはほんの数日前で、彼と話した機会も数えるほどしかない。それでも、彼を助けたいと私は必死になっている。
これは偽善か、はたまた別の感情なのか。私には分からなかった。けれどこの衝動に従わなければ必ず後悔するということは分かったから、今も急いで馬を走らせている。
「リュードリア公爵!焦るのは分かります、ですが少しスピードを落としましょう!危険です!」
「分かっている…!しかしカナリエのことを思うと居てもたってもいられないのだ!!」
そう、先刻ファラディスから、カナリエ殿と砂竜王の番シリアス様が誘拐されたと知らせがあったのだ。
前方を走るリュードリア公爵は、焦れたように馬に鞭打っている。行き先は王城、陛下に今件についての全てを報告するためだ。
(おそらくだが、この誘拐はシア殿の件と繋がっている。我々が思っているより大きな何かがあるのか…?)
嫌な予感がしてならない。公爵を咎めながらも、私も走るスピードを上げてしまっていた。
◇◇◇
王城に着いてからも、陛下のいる部屋へ小走りで急ぐ公爵に着いて歩く。
「陛下っ…!!」
「よく来たな、リュードリア公爵よ。そなたが焦る理由も分かるが、少し落ち着け」
「しかし!私の可愛い息子が!!」
沢山の書類の前で、陛下は私たちを待ち構えていた。
王子と友好国の王まで関わった今件は、陛下にとっても頭を抱える問題なのだ。それでも落ち着いた様子の陛下に、流石だと感服する。
「陛下、僭越ながら私が今件の説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「おお、そなたはエオリア伯爵家の。構わん、話してくれ」
「ありがとうございます。まず、カナリエ殿と砂竜様の番様が攫われた件ですが、カナリエ殿とレオス様がファラディス王国に出向かれた理由が関係しているかと愚考しております」
「なに?」
今回の二つの事件は、あまりにタイミングが良すぎるのだ。さらに、我々が掴んだ証拠がその推測を裏付けた。
「カナリエ殿は、ヴァレンタイン家御子息のライネ殿からある禁書の話を聞いた、と。我々はその禁書についてこの数日調査をしておりました」
禁書の話を持ち出したとき、陛下の表情が少しだけ動いた。陛下は禁書についての話を知っている、そう確信した。
「…それと今件にどんな関係が?」
「カナリエ殿とレオス様、お二人はライネ殿の犯行とシア殿の無実の証拠を掴むため、ファラディスへ向かわれた。そして私たちが禁書について調べたところ、ヴァレンタイン伯爵家からその禁書が持ち出された形跡が見つかりました。更に、学院の生徒に聞いたその日のライネ殿の動向と犯人の動向が一致する…そう分かりました」
これで、シア殿の嫌疑は完全には晴れないにしても、最も疑いが深い被疑者はライネ殿になるだろう。
陛下はため息を吐いて目を伏せた。
「まさか、ヴァレンタイン家からそのような者が…」
「お気持ち痛いほどお察しいたします。しかし、調査から分かった事はまだあるのです」
「…聞こう」
「ヴァレンタイン伯爵家、並びに王都学院から、ライネ=ヴァレンタインが姿を消しました。カナリエ殿誘拐の件と彼が関係していると考える理由は、ここにございます」
「まさかそんなっ…!いや、待て。それならば何故シリアス殿は…」
「それが、私たちにも分からないのです」
隣でやっと落ち着いた様子の公爵と目を合わせる。陛下はまだ考え込んだ様子でいらっしゃった。
そしてやがて何かに気が付いたかのように目を見開き、ボソッと呟いた。
「…あの書を見れば良いかもしれん」
「あの書?」
「いいか、そなた達。これから見せるものについては、一切他言無用だ。着いてきてくれ」
そうして歩き出した陛下は、王家の者以外立ち入りを固く禁じられた書物庫へ私たちを連れていった。
「初代シェルリオン国王の書記だ。砂竜国と我が国の関係の全てが、これに記されている」
「そんなものが…」
「必要になる時が訪れるだろう、それまでは何人たりとも読むことを許さない、そう残して初代国王は亡くなった。おそらく今が、そのときなのだろう」
その書に記されていたのは、ファラディスとシェルリオン、そして故大国ヴェルディアの歴史だった。
何より驚いたのは、ヴェルディアの王族筋は未だ繋がれているということ。その子孫がヴェルディア王家に稀に現れるという力に目覚めたとき、我が国は厄災に巻き込まれるだろう、そう書いてあった。
「ヴェルディア王家の力…」
「あの国は魔術の発展で栄えた国。そしてその王家には、無尽蔵の魔力を持つ者が産まれる、と聞いたことがある」
「無尽蔵!?」
先日からずっと、自身の常識を覆すような話ばかりだ。無尽蔵の魔力と、今は葬り去られた高次元の魔術。これを駆使したからこそ今回の様々な犯行が可能になっていたのだろう。
(レオス、無事にカナリエ殿を助けてくれよ…!)
私も守りたいものを得てしまった。だから、カナリエ殿の存在がレオスを弱くも強くもし得るのだと知っている。彼が後者であることを祈って信じて、私は自分のやるべきことを見据えたのだった。
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