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2章
想いのゆくえ
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そうして訪れた地下牢は、暗く静かな、重い空気の漂う場所だった。
こんな恐ろしい場所に初めて来て、以前の僕だったら怯えていただろう。でも今は全く怖くない。それはきっとレオス様がいるからだ。
差し出された手をぎゅっと握って、反響する足音を聞きながら牢の前を歩いた。
一番奥の牢に、僕らの目的の人物はいた。
「…なんだ、来てくれたのか」
皮肉げに吐き出したカインは、僕らと目を合わすことなく下を向いている。
「僕はお前を許さない」
「分かっている。俺は死刑でいい」
「なんであんなことをした?」
「…俺の運命だ、宿命だ。為さねばならないことだった」
「どうして?」
「俺がカイン=ヴェルディアだからだ」
「それがどうした」
「取り戻さなければいけなかった。奪われたものを取り返さなければいけなかったんだ」
「…それを奪ったのは、シリアス様じゃないよ」
「あぁ、それももう分かった。それでも、俺には背負う想いがあった。それが間違っていようとどうでもよかった」
「それは、その想いは、お前のものではないよ」
「…は?違う、これは俺のものだ。俺が託された…!」
「違う。お前たちのそれは、呪いだ。植え付けられた憎しみを想いとは言わない」
知っているんだ。この人が苦しんでいたということを。
「お前がそれに勝たなければ、この争いは終わらない。自分の中にある本当の想いを、手放したらダメだ」
「俺は…」
迷子の子供のような、不安定に動揺する姿を見て胸が痛んだ。ねじ曲がった運命が、こうして人を苦しめている。
(これが苦しかったんですね…)
僕の中にいる初代夫人へ声をかけてみる。返事は帰ってこないけど、僕はそうだと確信していた。
「自分の想いを、歩みたい道を諦めないで」
そう言うと、カインは俯いて肩を震わせていた。
その姿に僕が何も言えないでいると、隣にいたレオス様が口を開いた。
「決して許されることはないと、自分でも分かっているはずだ。だが、お前がその罪を償いきったとき、お前自身の目で見たものを信じられるように、好きに生きられるようになって欲しいと…そう思う」
その言葉を最後に僕とレオス様はその場を離れようとした。しかしそれはカインの小さな声によって引き留められた。
「…ひとつだけ、伝えておいて欲しいことがある。俺は…シリアスは自身が助かるため竜王の伴侶になったのだと、兄を恨んで貶めようとしたのだと、そう信じていた」
「それは…」
「分かっている。全て間違いだったと。でもあの男は兄の罪に責任を感じて俺を哀れんでいた。それで俺を見捨てられない、あの男の砂竜王への想いはその程度のものだったのだと思った。でも違ったんだ。哀れんだから俺に着いてきたわけじゃなかった」
そう言葉を切って、カインは視線を上げた。ここに来て初めてしっかりと僕らを見据え、表情を歪めた。
「あの男は、愛される資格を得るために死ぬと言った。そばにいられなくてもずっと愛していると…あれを愛でなく何と言う。俺は間違っていた、あの二人の関係を壊しかけた。俺がお前たちに何かを頼むのは許されないことかもしれない…けれどどうか、あの二人に要らぬ誤解が生まれぬようにしてやってほしい」
カインはそう言って、深く深く頭を下げた。言葉が出ない僕を見て、レオス様が短く了承の言葉を口にする。するとカインは頭を上げて、ホッとしたように笑った。
「…ありがとう、本当に」
その感謝が何を示すのか、僕にははっきりとは分からない。けれど確かに、彼はもう大丈夫だと分かった。
それから僕とレオス様は暗い地下牢を出て、陽の当たる廊下へ戻っていった。静まり返ったそこで二人、少しの間立ち尽くしていた。
こんな恐ろしい場所に初めて来て、以前の僕だったら怯えていただろう。でも今は全く怖くない。それはきっとレオス様がいるからだ。
差し出された手をぎゅっと握って、反響する足音を聞きながら牢の前を歩いた。
一番奥の牢に、僕らの目的の人物はいた。
「…なんだ、来てくれたのか」
皮肉げに吐き出したカインは、僕らと目を合わすことなく下を向いている。
「僕はお前を許さない」
「分かっている。俺は死刑でいい」
「なんであんなことをした?」
「…俺の運命だ、宿命だ。為さねばならないことだった」
「どうして?」
「俺がカイン=ヴェルディアだからだ」
「それがどうした」
「取り戻さなければいけなかった。奪われたものを取り返さなければいけなかったんだ」
「…それを奪ったのは、シリアス様じゃないよ」
「あぁ、それももう分かった。それでも、俺には背負う想いがあった。それが間違っていようとどうでもよかった」
「それは、その想いは、お前のものではないよ」
「…は?違う、これは俺のものだ。俺が託された…!」
「違う。お前たちのそれは、呪いだ。植え付けられた憎しみを想いとは言わない」
知っているんだ。この人が苦しんでいたということを。
「お前がそれに勝たなければ、この争いは終わらない。自分の中にある本当の想いを、手放したらダメだ」
「俺は…」
迷子の子供のような、不安定に動揺する姿を見て胸が痛んだ。ねじ曲がった運命が、こうして人を苦しめている。
(これが苦しかったんですね…)
僕の中にいる初代夫人へ声をかけてみる。返事は帰ってこないけど、僕はそうだと確信していた。
「自分の想いを、歩みたい道を諦めないで」
そう言うと、カインは俯いて肩を震わせていた。
その姿に僕が何も言えないでいると、隣にいたレオス様が口を開いた。
「決して許されることはないと、自分でも分かっているはずだ。だが、お前がその罪を償いきったとき、お前自身の目で見たものを信じられるように、好きに生きられるようになって欲しいと…そう思う」
その言葉を最後に僕とレオス様はその場を離れようとした。しかしそれはカインの小さな声によって引き留められた。
「…ひとつだけ、伝えておいて欲しいことがある。俺は…シリアスは自身が助かるため竜王の伴侶になったのだと、兄を恨んで貶めようとしたのだと、そう信じていた」
「それは…」
「分かっている。全て間違いだったと。でもあの男は兄の罪に責任を感じて俺を哀れんでいた。それで俺を見捨てられない、あの男の砂竜王への想いはその程度のものだったのだと思った。でも違ったんだ。哀れんだから俺に着いてきたわけじゃなかった」
そう言葉を切って、カインは視線を上げた。ここに来て初めてしっかりと僕らを見据え、表情を歪めた。
「あの男は、愛される資格を得るために死ぬと言った。そばにいられなくてもずっと愛していると…あれを愛でなく何と言う。俺は間違っていた、あの二人の関係を壊しかけた。俺がお前たちに何かを頼むのは許されないことかもしれない…けれどどうか、あの二人に要らぬ誤解が生まれぬようにしてやってほしい」
カインはそう言って、深く深く頭を下げた。言葉が出ない僕を見て、レオス様が短く了承の言葉を口にする。するとカインは頭を上げて、ホッとしたように笑った。
「…ありがとう、本当に」
その感謝が何を示すのか、僕にははっきりとは分からない。けれど確かに、彼はもう大丈夫だと分かった。
それから僕とレオス様は暗い地下牢を出て、陽の当たる廊下へ戻っていった。静まり返ったそこで二人、少しの間立ち尽くしていた。
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