新米薬師は義家族から逃げるために王子様と結婚します…!?

あまさき

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僕の好きな人

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僕はそれから、大人しくスノリア様の後ろをついて歩いていた。

「というか、これどこに向かってるんですか…?」
「ん?そんなの決まってるじゃないか。王城のパーティさ」
「ええええ?!」

軽々と言ってのけたスノリア様を、信じれないという目で見る。

「む、無理ですよぉ!だってあそこには…」
「ご家族がいるんだろう?ふふ、分かってるさ」
「じゃあなんで!」
「大丈夫、必ず全て上手くいくから。私を信じなさい。といっても君のその格好じゃ場違いすぎるから、まず君を飾りつけることからかな」

そう言って、スノリア様はパーティ会場と反対側にある一室へ僕を連れてきた。

蝋燭一つと月明かりのみに照らされた薄暗い部屋の真ん中には、明らかに高そうなスーツがあった。ベージュの生地にオレンジのタイ、そして胸元の琥珀色の宝石のブローチ。部屋の全ての光を集めて散らしているような、キラキラと静かな光りに目を奪われる。

「さぁ、君にはこれを着てもらうよ」

そう言われて、早くも逃げ出したくなった。こんな素敵なもの、僕には勿体なさすぎる。

「す、スノリア様、さすがにこんな高そうなもの受け取れません…!」
「ごめんねエルヴァン、これは僕からのものじゃないんだ。断りを受けるべき相手はここにいない、だからもう着る以外に選択肢は無いよ」
「そんな理不尽な…!」

これを着る以外ない、そう言われて渋々だが従うしかなかった。

「あ、そうだそうだ。最後にこれを飲んでくれ」

そう言って差し出されたのは、小さな錠剤。普通だったら怪しいことこの上ないのだが、王宮薬室の薬剤師長の出す薬だ。怪しいものではないと信じて、一思いに飲み込んだ。

「うん、これでよし。じゃあ行こうか、パーティへ」
「は、はい…」

スノリア様が僕の腕を取って、エスコートするように歩き出した。

スノリア様は、これが僕がいちばん幸せになれる道だと言っていたけれど、今のところそれが何なのかは全く分からない。

そんな不安を抱えながら、僕たちは既に音楽が流れているパーティ会場へ足を踏み入れた。


途端、フワッと香った匂いに体が電撃を受けたかのような衝撃が走った。

「ぁ、え…?」

(すっごくいい匂いがする…頭がふわふわして、何これ…?)

ぼんやりとした頭で匂いの元を辿ろうとしたその時、鋭い声が僕を突き刺した。

「そこの君!」
「へ、ぁ…?ルシアン殿下…?」
「スノリア=エルランド!その腕を離せ、それは僕の番だ!」

(つが、い…?)

ぼんやりと見つめたルシアン殿下は、こちらに来ようと急いでいるようだった。
周囲には、僕とスノリア様、そしてルシアン殿下を見守るように人だかりができていて、皆遠巻きに僕らを見ていた。僕らが来る前から分かれていたのか、右側に貴族、左側に平民の女性たち、というように分かれていて、右側からは冷たい目線、左側からは興奮したような目線が送られていた。

「番ですって…?」
「男の…Ωかしら?なんであんな子が…」
「どういうこと?」

ひそひそとした話し声は纏まって大きくなり、少しづつ冴えてきた頭に重く伸し掛った。

番、ということは、僕のこれは運命の番に出会った時の発情なのか。
抑制剤は飲んでるはずなのに、と考えたところでハッとした。ここに来る前にスノリア様に飲まされた薬。

(スノリア様なんで…僕はルカ様じゃなきゃ嫌なのに!)

僕が困惑している間にも、ルシアン殿下は近づいてきている。

「こ、来ないで、くださ…」

小さく放った声は喧騒に掻き消され、ルシアン殿下は僕の手を取った。

しかし握られた手に恐怖を抱いたのは一瞬だけで、僕はすぐに、この手は僕が求めていたものだと分かった。

「ルカ様…?」
「シッ、いいかい、あとは私とスノリアに合わせるんだ」

(どういうこと…?)

ルシアン殿下はルカ様だったということ?
いや、本当はその逆?ルカ様は、ルシアン殿下の裏の顔だったということ?

でも、二人は髪の色も目の色も違う。
いつも見ていた栗色の髪は、ルシアン殿下の煌めくような銀髪とは見間違うはずないし、焦げ茶色のはずの瞳は、今は鮮やかなエメラルドだ。

何が何だか全く分からないけれど、でもこの人が僕の運命の人で、好きな人ルカ様だっていうことは分かる。

「あぁ、こんなところに私の番がいたなんて…」
「なんと、ルシアン殿下の番が私の部下だったとは!」
「そうだったのか!私も早く王宮薬室に赴くべきだったな」

僕からすれば違和感しかない会話が、目の前の二人によって繰り広げられている。
僕はルシアン殿下(ルカ様の姿だけど)と会ったことがあるし…合わせろって、この演技のような会話に乗れってこと?

「婚約者を見つけるパーティで運命の番に会えるだなんて、なんて幸福なんだ…!」

そう言って涙を流すルシアン殿下。あまりにも綺麗な表情と涙に、嘘だとわかっているのに僕まで感動してきた。周囲の女性が色めき立つ声も聞こえる。

「ルシアン殿下…!僕、嬉しいです!」
「あぁ、愛らしい私の番!貴方の名前を教えてくれ」
「僕はエルヴァンです、ルシアン殿下」
「エルヴァン、名前もなんと愛らしい。父上!私はこのエルヴァンを婚約者に決めたいと思います!」

そう力強く放ったルシアン殿下の言葉に、周囲がどよめき立った。

「なんて素敵なの…!」
「平民から王子の番になるなんて!ドラマチックね…!」
「おめでとう、エルヴァンさん!」

左側からは祝福と歓喜の声が。

「ルシアン殿下の婚約者が平民…!?」
「いくら番だからってそんなの許されるの?」
「無教養な男が王子妃なんて、どうせ途中で投げ出すわよ」

右側からは、批難と侮蔑の声が上がった。

その全ては、玉座で静観しておられた陛下による制止の声でぴたりと止まった。

「静まれ皆の者!…ルシアンよ、そなたは本気で、その者を婚約者にすると言っているのだな?」
「…はい、その通りです」
「…うむ。そなたがそう言うのなら、その者を第二王子ルシアン=カスタニエ=グレイシルの婚約者として、今ここに認めよう!」

わぁぁ!と歓声が巻き起こった。
おめでとう、そんな声が聞こえてきたとき、僕は信じられない幸せに胸がいっぱいになった。

見上げたルシアン殿下の顔は、いつもあの薬室で見た笑顔を浮かべている。僕はこの幸せをどうにかルシアン殿下に伝えたくて、手を伸ばした。

その瞬間、嗄れた低い声が焦ったような響きを持って喧騒を裂いた。
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