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足りないもの
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「そ、そんなの!許されるわけがなかろう!」
突然の怒号に、その場の全ての人間が振り返る。
僕らを取り巻く形で形成された輪の外れに、声の主は居た。
痩せ細ったその身に合わない豪勢で重そうな服を身につけ、老人らしいよろよろとした足取りで近づいてくるその人は、おそらくこの国の重鎮。彼は焦りと怒りを滲ませた表情で大声を上げた。
「ルシアン殿下!そんな出処もしれない男を婚約者に置くなんて、そのような蛮行、私は許しませぬぞ!」
「…グスタル公爵。私は今、国王である父からお許しをいただいたのだ。それを批難するおつもりか?」
「ぐっ…」
ルシアン殿下の冷静な指摘に、グスタル公爵と呼ばれた老人は怯みを見せた。しかし、公爵の発言を機に最初から不満気だった他の貴族たちも声を上げ始める。
「公爵の仰る通りだわ」
「そのような男を王子妃にするなんてあんまりよ!」
騒がしく僕を非難する声に、ルシアン殿下は眉をひそめた。
「へ、陛下も陛下です!このような下賎な者、王家の血筋を汚すだけだ!」
「ほう…?」
公爵の叫びを聞いて、ルシアン殿下の額に青筋が浮かぶ。今にも立ち上がって詰め寄りそうな勢いだ。
「で、殿下!僕は大丈夫ですから…」
「しかしこんなのあんまりだ…!」
そう言ってルシアン殿下が立ち上がろうとしたとき、それを抑えるようにスっと前に出た人影があった。
「いやはや、皆さん好き放題仰りますね。陛下、私からご提案がございます。発言をお許しいただけますか?」
そう朗々と話し出したのは、今僕らの目の前に立ち、流れるような動作で陛下に敬礼したスノリア様だった。
「スノリア=エルランド公か。発言を許そう」
「ありがとうございます。つきましては、エルヴァンを私の生家、エルランド侯爵家へと迎え入れるのはいかがでしょうか?」
(………は?)
顎が外れそうなほど口が開いた顔でスノリア様を見つめる。すると視線に気づいたスノリア様が『任せて』とでも言うように軽くウインクを返してきた。
(いや、いやいやいやいや…どういうことぉ?)
人生一困惑しているといっても過言ではない。先程の番騒動よりも困惑している。
「…ほう。養子ということか」
「左様でございます。僭越ながら、我がエルランド家であれば、エルヴァンがルシアン殿下の婚約者として立つに充分な後ろ盾となれる、と自負しております」
「たしかに、エルランド侯爵家との縁が出来るのはこちらとしても喜ばしいものだな」
その方向で話がまとまりそうな雰囲気になってきている。
(僕が…侯爵家に?)
信じられない思いと、それほどまでにスノリア様は僕を想ってくださっているのだという感激が胸を占めた。
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
綺麗にお辞儀したスノリア様。これで貴族たちも反対は出来ないだろうと思われたが、そう甘くはなかった。
「いくら身分がそれ相応になったとて、王子妃になれるほどの教養が備わっているはずもありません!どうするのですか!」
「ああ、その事でしたら問題ありません。エルヴァンとは長い間共に仕事をしてきましたが、彼は優れた薬学の知識を独学で得ており、知識面でも人柄の面でも素晴らしい子だと、常々思っておりました」
(しゅ、主任そんなこと思ってたの…?!)
嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちで、刺さる視線から隠れたくなった。
「それに彼は、王宮で働いているうちに知り合った多くの貴族たちから、社交界のマナーや様々な作法を学んでいるのです。下手すれば下位の貴族たちなんかよりよっぽど…あぁすみません、口を滑らせてしまいました」
お茶目に口を塞いだスノリア様は、本当に口を滑らせたようには見えなかった。
そしてその発言を聞いた貴族たちの中には、思い当たる節があるのか息を飲んで顔を赤くした者たちがいた。
「おっほっほ!そうかそうか。そのような者と我が息子が縁を持てるというのなら、それ以上に素晴らしいことはない」
陛下とスノリア様の会話を聞いて、グスタル公爵や他の貴族も終に口を出せなくなっていた。
「さて、他に異を唱える者はいるか!」
辺りを見回せば、陛下の呼びかけに手を上げる者はいないように思われた。
(本当に僕、ルシアン殿下の婚約者になれるんだ)
希望の光が差したような気持ちになった。
しかし僕は忘れていたのだ。何よりも誰よりも、僕のことを陥れようとする人達の存在を。
「エルヴァン…お前ぇぇぇ!!!」
突然の怒号に、その場の全ての人間が振り返る。
僕らを取り巻く形で形成された輪の外れに、声の主は居た。
痩せ細ったその身に合わない豪勢で重そうな服を身につけ、老人らしいよろよろとした足取りで近づいてくるその人は、おそらくこの国の重鎮。彼は焦りと怒りを滲ませた表情で大声を上げた。
「ルシアン殿下!そんな出処もしれない男を婚約者に置くなんて、そのような蛮行、私は許しませぬぞ!」
「…グスタル公爵。私は今、国王である父からお許しをいただいたのだ。それを批難するおつもりか?」
「ぐっ…」
ルシアン殿下の冷静な指摘に、グスタル公爵と呼ばれた老人は怯みを見せた。しかし、公爵の発言を機に最初から不満気だった他の貴族たちも声を上げ始める。
「公爵の仰る通りだわ」
「そのような男を王子妃にするなんてあんまりよ!」
騒がしく僕を非難する声に、ルシアン殿下は眉をひそめた。
「へ、陛下も陛下です!このような下賎な者、王家の血筋を汚すだけだ!」
「ほう…?」
公爵の叫びを聞いて、ルシアン殿下の額に青筋が浮かぶ。今にも立ち上がって詰め寄りそうな勢いだ。
「で、殿下!僕は大丈夫ですから…」
「しかしこんなのあんまりだ…!」
そう言ってルシアン殿下が立ち上がろうとしたとき、それを抑えるようにスっと前に出た人影があった。
「いやはや、皆さん好き放題仰りますね。陛下、私からご提案がございます。発言をお許しいただけますか?」
そう朗々と話し出したのは、今僕らの目の前に立ち、流れるような動作で陛下に敬礼したスノリア様だった。
「スノリア=エルランド公か。発言を許そう」
「ありがとうございます。つきましては、エルヴァンを私の生家、エルランド侯爵家へと迎え入れるのはいかがでしょうか?」
(………は?)
顎が外れそうなほど口が開いた顔でスノリア様を見つめる。すると視線に気づいたスノリア様が『任せて』とでも言うように軽くウインクを返してきた。
(いや、いやいやいやいや…どういうことぉ?)
人生一困惑しているといっても過言ではない。先程の番騒動よりも困惑している。
「…ほう。養子ということか」
「左様でございます。僭越ながら、我がエルランド家であれば、エルヴァンがルシアン殿下の婚約者として立つに充分な後ろ盾となれる、と自負しております」
「たしかに、エルランド侯爵家との縁が出来るのはこちらとしても喜ばしいものだな」
その方向で話がまとまりそうな雰囲気になってきている。
(僕が…侯爵家に?)
信じられない思いと、それほどまでにスノリア様は僕を想ってくださっているのだという感激が胸を占めた。
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
綺麗にお辞儀したスノリア様。これで貴族たちも反対は出来ないだろうと思われたが、そう甘くはなかった。
「いくら身分がそれ相応になったとて、王子妃になれるほどの教養が備わっているはずもありません!どうするのですか!」
「ああ、その事でしたら問題ありません。エルヴァンとは長い間共に仕事をしてきましたが、彼は優れた薬学の知識を独学で得ており、知識面でも人柄の面でも素晴らしい子だと、常々思っておりました」
(しゅ、主任そんなこと思ってたの…?!)
嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちで、刺さる視線から隠れたくなった。
「それに彼は、王宮で働いているうちに知り合った多くの貴族たちから、社交界のマナーや様々な作法を学んでいるのです。下手すれば下位の貴族たちなんかよりよっぽど…あぁすみません、口を滑らせてしまいました」
お茶目に口を塞いだスノリア様は、本当に口を滑らせたようには見えなかった。
そしてその発言を聞いた貴族たちの中には、思い当たる節があるのか息を飲んで顔を赤くした者たちがいた。
「おっほっほ!そうかそうか。そのような者と我が息子が縁を持てるというのなら、それ以上に素晴らしいことはない」
陛下とスノリア様の会話を聞いて、グスタル公爵や他の貴族も終に口を出せなくなっていた。
「さて、他に異を唱える者はいるか!」
辺りを見回せば、陛下の呼びかけに手を上げる者はいないように思われた。
(本当に僕、ルシアン殿下の婚約者になれるんだ)
希望の光が差したような気持ちになった。
しかし僕は忘れていたのだ。何よりも誰よりも、僕のことを陥れようとする人達の存在を。
「エルヴァン…お前ぇぇぇ!!!」
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