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僕の周り
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先程の公爵とは比にならないほどの怒りを含んだ叫び声が、聞こえた。
その場にいる全員が呆気にとられ、声の主一人だけが激情をばら蒔いているという不思議な環境が出来上がる。
一方僕は、聞き覚えのありすぎる声に固まっていた。
「なんでお前が、ここにいるんだッ!!!」
「か、義母さん…」
義母がずかずかとこちらへ向かってくる。人々を押しやって出てくる義母の後ろには、慌てて着いてくる義姉たちもいた。
僕を一直線に見つめる瞳に、嫌な汗が吹き出て体中から熱が引く。
今にも僕を害そうとしているのがひしひしと伝わる。動けない僕を守るように、ルシアン殿下が前へ出た。
さすがに王子に不敬を働く勇気はないのか、目の前で止まった。それでも僕に近づくのを諦めず、必死な様子でルシアン殿下に喋りかけた。
「ルシアン様!そこをどいて下さいまし!」
「退くわけがないだろう。貴方は誰だ?」
「わ、私はそのエルヴァンの母ですわ!」
(ふ、不敬の連続すぎる…!)
断りもなく話し始め、ましてや命令形。極めつけには、面識もないただの一市民が王子を様付けで呼ぶなんて。頭が痛い思いで眺める。
周囲からも痛い視線が突き刺さり、義母は居心地の悪さに焦りを濃くした。
「そ、そこのエルヴァンはですね!?とんでもないビッチだと市囲では有名なのですわ!とてもじゃありませんが、殿下の婚約者になんてふさわしくないと存じます!」
「そんなことしてな…!」
「そうよそうよ!男を食いまくりだっていうから姉として困ってたのよ!」
もちろん事実無根だ。そんなことするわけがない。
どうしても自分たちの駒を手放したくなくて、王族に嘘をつくという大罪を犯してまで僕を貶めようとしているのだ。
優しくなっていた僕への視線が、また鋭く卑下するものに変わった。
僕は悔しさで涙を滲ませながら、どうしても誤解して欲しくない人に必死で弁明しようとした。
「殿下、僕ほんとにっ…!」
「大丈夫、分かっているよ」
見上げたルシアン殿下は、溢れ出る怒りをその目に宿していた。
僕の言葉に振り返り、安心させるように微笑んでくれたけれど、この状況は想定外だったのか少し眉根を寄せていた。
すると、どよめいていた聴衆の中から一人の女性が出てきた。
「嘘よ。私、エルヴァンさんが殿下の婚約者になりたがってたのを見たもの!」
「あ、あなたは…!」
あの時、このパーティの知らせを見た時に話しかけてきたお姉さんだった。何だか憤慨した様子で義母たちを睨みつけている。
「それに、町でそんな噂聞いたことないわ!市囲で噂になってるって、あなたの言う市囲って、一家分の敷地しかないのではなくて?」
そう言ったお姉さんの言葉に、周りの女性たちも声を上げた。
「私も聞いたことないわよ!」
「そんなに焦って出てきて、口から出任せにも程があるわ」
「自分の息子を貶めようだなんて最低ね!」
段々大きくなっていく非難の声に、義母たちは顔を青くして後退る。
僕が聴衆の先頭に立っているお姉さんに目を向けると、彼女は満足そうな顔で僕に笑いかけた。
(ありがとう、お姉さん…!)
外に出てみれば、僕の周りはこんなにも温かい人達で溢れていた。気付かずに取り零すところだった物が今は沢山目の前にあって、胸がいっぱいになった。
涙を流す僕を見てその涙を拭ったあと、ルシアン殿下は立ち上がった。
「さて、エルヴァンの母君と姉君たちよ。私と、この場にいる全員を謀ろうとした罪…何より、未来の王子妃を貶めようとした罪は、重いぞ」
「「「ひっ!」」」
「衛兵、この者たちを地下へ!」
その掛け声に応えて出てきた衛兵たちに、義母たちはあっという間に連れていかれてしまった。
その場にいる全員が呆気にとられ、声の主一人だけが激情をばら蒔いているという不思議な環境が出来上がる。
一方僕は、聞き覚えのありすぎる声に固まっていた。
「なんでお前が、ここにいるんだッ!!!」
「か、義母さん…」
義母がずかずかとこちらへ向かってくる。人々を押しやって出てくる義母の後ろには、慌てて着いてくる義姉たちもいた。
僕を一直線に見つめる瞳に、嫌な汗が吹き出て体中から熱が引く。
今にも僕を害そうとしているのがひしひしと伝わる。動けない僕を守るように、ルシアン殿下が前へ出た。
さすがに王子に不敬を働く勇気はないのか、目の前で止まった。それでも僕に近づくのを諦めず、必死な様子でルシアン殿下に喋りかけた。
「ルシアン様!そこをどいて下さいまし!」
「退くわけがないだろう。貴方は誰だ?」
「わ、私はそのエルヴァンの母ですわ!」
(ふ、不敬の連続すぎる…!)
断りもなく話し始め、ましてや命令形。極めつけには、面識もないただの一市民が王子を様付けで呼ぶなんて。頭が痛い思いで眺める。
周囲からも痛い視線が突き刺さり、義母は居心地の悪さに焦りを濃くした。
「そ、そこのエルヴァンはですね!?とんでもないビッチだと市囲では有名なのですわ!とてもじゃありませんが、殿下の婚約者になんてふさわしくないと存じます!」
「そんなことしてな…!」
「そうよそうよ!男を食いまくりだっていうから姉として困ってたのよ!」
もちろん事実無根だ。そんなことするわけがない。
どうしても自分たちの駒を手放したくなくて、王族に嘘をつくという大罪を犯してまで僕を貶めようとしているのだ。
優しくなっていた僕への視線が、また鋭く卑下するものに変わった。
僕は悔しさで涙を滲ませながら、どうしても誤解して欲しくない人に必死で弁明しようとした。
「殿下、僕ほんとにっ…!」
「大丈夫、分かっているよ」
見上げたルシアン殿下は、溢れ出る怒りをその目に宿していた。
僕の言葉に振り返り、安心させるように微笑んでくれたけれど、この状況は想定外だったのか少し眉根を寄せていた。
すると、どよめいていた聴衆の中から一人の女性が出てきた。
「嘘よ。私、エルヴァンさんが殿下の婚約者になりたがってたのを見たもの!」
「あ、あなたは…!」
あの時、このパーティの知らせを見た時に話しかけてきたお姉さんだった。何だか憤慨した様子で義母たちを睨みつけている。
「それに、町でそんな噂聞いたことないわ!市囲で噂になってるって、あなたの言う市囲って、一家分の敷地しかないのではなくて?」
そう言ったお姉さんの言葉に、周りの女性たちも声を上げた。
「私も聞いたことないわよ!」
「そんなに焦って出てきて、口から出任せにも程があるわ」
「自分の息子を貶めようだなんて最低ね!」
段々大きくなっていく非難の声に、義母たちは顔を青くして後退る。
僕が聴衆の先頭に立っているお姉さんに目を向けると、彼女は満足そうな顔で僕に笑いかけた。
(ありがとう、お姉さん…!)
外に出てみれば、僕の周りはこんなにも温かい人達で溢れていた。気付かずに取り零すところだった物が今は沢山目の前にあって、胸がいっぱいになった。
涙を流す僕を見てその涙を拭ったあと、ルシアン殿下は立ち上がった。
「さて、エルヴァンの母君と姉君たちよ。私と、この場にいる全員を謀ろうとした罪…何より、未来の王子妃を貶めようとした罪は、重いぞ」
「「「ひっ!」」」
「衛兵、この者たちを地下へ!」
その掛け声に応えて出てきた衛兵たちに、義母たちはあっという間に連れていかれてしまった。
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