新米薬師は義家族から逃げるために王子様と結婚します…!?

あまさき

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 それから、ルシアン殿下は事の経緯を話してくれた。

 初めて会ったときから、僕が運命の番だと気付いてたということ。王家のαは性が強く出るため、薬で抑え込まれたフェロモンでも気付けたらしい。

 番を見つけたことを陛下に伝えると、とても喜ばれたらしい。しかし、それだけで僕を正婿にできるほど政治の世界は甘くない。重役の貴族たちはもちろん、喜んでいたはずの陛下も僕を婚約者に据えることに反対した。

「君が苦労するくらいなら、と諦めていた。けど君はとても努力家で、学園で学んだはずの貴族たちよりよっぽど素晴らしい人材だと思ったんだ」
「殿下…」
「エルヴァン、殿下なんて呼び方やめてくれ。ルシアンでいい」
「る、ルシアン…様」
「ふふ、今はそれで我慢しよう」

 綺麗な笑顔が月明かりに照らされて、妖艶な雰囲気を醸し出している。余裕そうな表情に少し悔しいと思いながらも、そこに滲む喜色が愛おしくて胸が締め付けられる。

「スノリア殿は早々に僕の目的に気づいてね。利害が一致した私たちは今日のことを計画したんだ」
「利害?」
「彼は君が義弟になるのを強く希望してたんだよ」
「え?!」

 少し困ったように笑ったルシアン殿下は、そのときのスノリア様がどれだけその事を切望していたか教えてくれた。

 たしかに兄だと思って接してと言われてたけど、まさか本当に義弟にしたがっていたとは…むず痒い気持ちになる。

「今日の計画が成功したのは彼のおかげだ。また後でお礼をしに行かなきゃね」
「そうですね」

 まだパーティ会場にいるであろう元上司兼義兄に思いを馳せる。そしてあることに気が付いた。

「…あれ、僕エルランド侯爵にご挨拶をしなきゃいけませんよね?!」

 完全に失念してしまっていた。どんな経緯であれ、僕はこれからエルランド侯爵家の一員になるのに当の侯爵に会ったことすらないのはまずい。

 慌てて立ち上がって扉の方を向くと、座ったままのルシアン様に腕を引かれてベッドに引き戻された。否、座らされているならまだしも今は完全にベッドに乗り上げて寝かされているので、さっきよりむしろ扉は遠のいている。

「え、と…?ルシアン様?」
「ふふ、エルヴァン、私が侯爵の許可もなしに君を部屋に連れ込んでると思うかい?」
「へ?」
「侯爵への挨拶は、また明日でもいいと言われているから今日は私に時間をくれないか」

この部屋に来て、初めて真近にルシアン様の顔を見た。細められた瞳に宿るのは、深い深い欲のような、愛のような何か。それは僕の体の芯を震え上がらせた。

「安心して、今日は絶対に手を出さないから…君を感じさせてくれ」
「ひゃ、はい…」

みっともなく噛んでしまったのも、声がなんだか上擦っているのも、力が抜けた僕には仕方がないことで。それを笑ったルシアン様が全く僕をからかってるようには見えないことが、更に僕を溶かした。

「エルヴァン…抱きしめても?」
「~!は、はぃ」

手を伸ばして顔を背けた瞬間、温かい体温と甘美な匂いが僕を包んだ。
隙間なく巻き付けられた腕に、負けじと僕もルシアン様の背中へ手を伸ばす。

「ずっとこうして抱きしめたかった」
「ルシアン様…嬉しい」
「今日はこのまま、抱きしめて眠りたい。いいかい?」
「はい…僕もそうしたいです」

僕がそう言うと、ルシアン様はすごく嬉しそうな顔をして、強く強く僕を抱きしめ直した。

「じゃあもう眠る準備をしよう。時間も遅いだし、今日はたくさん無理をさせてしまったからね」

そう言って立ち上がったルシアン様は、僕を姫抱きにしながら歩き出した。

「あ、あの?どこへ…?」
「離宮にある湯殿だよ。あそこは誰もいないから二人でゆっくり入れるだろう?」
「ふ、二人で?!」

思わず裏返った声で叫べば、ルシアン様は首を傾げて不思議そうな顔をしていた。

(え、え?!今日は何もしないんだよね…!?)

さも当然かのようにスタスタと歩くルシアン様。僕が今困惑のままに拒絶してしまえば、彼はとても悲しむだろう。それは出来そうもなかった。

(だ、だって…嫌じゃ、ないんだもん…!)

頭を駆け巡るのは、湯を滴らせた愛しい人の姿。高揚と困惑と焦りと恥ずかしさが代わる代わる訪れて、わけがわからなくなってきた。

そうこうしているうちに、恐らく目的地であろう離れの建物が目の前にそびえ立っていた。
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