まおう様、めんどくさい

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第8話 やれやれ、一息

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第8話 やれやれ、一息

雪原の真ん中で、氷のかけらがふわりとピンク光を放った。
それは、砕け散った勇者の体の破片だった。
光はゆっくりと破片を拾い集め、人の形をつくる。

「……あれ?」

勇者は起き上がり、冷たい風の中で淡くピンク色に光る自分の手を見た。
手首には、王女の祈りが込められたリボンが結ばれていた。
それは旅立ちの朝、王女が勇者の手首に巻いてくれたお守りだった。

「王女さまのリボンが……」
勇者はそのリボンを握りしめ、次の目的地、神聖な祠(ほこら)へ向かった。

──暗黒の城。

「まおう様、また生き返りました」
秘書が冷静に報告すると、魔王は頭をかかえた。

「はぁ!? 今度は粉々だったでしょ!? どうやって!?」
「王女の“愛の力”によって復活のようです」

「あっ、あいぃぃ!?」
魔王は立ち上がると、大きくため息をついた。
「もう……じゃあ、王女を動物に変えよう。かわいいネコとかで…」

ピカッ!

「ブヒィィィィィ!!」

魔王が言い終わる前に、秘書が無言で手をかざしていた。
水晶玉の中、王女が突然ピンク色の光に包まれ──
次の瞬間、醜い豚に変わっていた。

「ちょ、ちょっと!? 話は最後まで…」
「問答無用です。醜い生物に変えてやりました。」
「……やりすぎじゃない?」
「いえ、お似合いです。」
魔王は苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

「……まぁ、これでもう愛の力は通じないか…はぁ」

──雪原を抜けた先、神聖な祠。

白い氷壁に囲まれた静かな空間。
勇者はそこで、淡く光る祠の祭壇に祀られているクリスタルを見上げていた。

勇者はそのクリスタルに近づき自分の姿を投影した。

その瞬間、祠の光がスッとかき消えた。
空気が冷たく、重く沈む。

「グゥゥゥ……魔王さまノ命ニヨリ……勇者、滅スル」

扉の隙間から黒い霧が流れ込み、部屋中を覆った。
暗闇になった部屋から突然、ぼろぼろのローブをまとった“リッチ”が現れた。
その目には紫の炎がゆらめいている。

勇者は慌てて剣を構えた。

リッチは闇の光を放つ杖を高く掲げ、円を描くように振り回した。
「闇ニノマレテ、押シ潰サレルガイイ!」

闇の魔法陣が勇者の足元に描かれ“ボウゥ”と青黒く光り出した。
勇者は剣を振りかざしたが、すでに闇に覆われていた。
勇者は身動きができなくなり、闇が徐々に収縮し始めた。

ギュウゥゥゥゥッ!!

「うわっ──!」

迫りくる闇の壁を勇者は必死に押しとどめようとした。
闇の中ではビカビカと黒い稲妻が飛び散り
勇者の手首に当たりリボンが焼け、光の粒となって舞い散る。
さらに闇は勇者を押し潰す。

ギュウゥゥゥゥッ!!

「くっ…そっ…」

やがて勇者の声は風に消え、祠の中に静寂が戻った。

──暗黒の城。

秘書が水晶玉を閉じながら報告する。
「勇者の完全消滅を確認しました」

「ふぅ……やっと終わったか」

魔王はソファに倒れ込み、天井を見つめぼそりとつぶやいた。
「でもさ……祠ごと消滅させたほうが良かった気がするんだよね」

秘書は無表情のまま手帳を閉じる。
「……では、次の“復活報告”の準備をしておきますね」

魔王は頭を抱えた。
「ちょっとやめてよ……勇者が聞いたら本気にしちゃうよ」

そしてまた、“めんどくさい夜”が静かに始まった。
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