推しまで2ミリ

静香

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第一章 鍵を拾う夢

第二話 推しは酸素

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「つまり俺は、ここから出てきたと」

ケイト様はテレビを繁々と眺める。

「はい…」
「お前にとって俺はこの中の住人だった
という解釈で間違っていないか?」
「う…うーん…それもちょっと違う…」

私はテレビを消したり点けたりした。

「この中の住人だったら、ケイト様達は
私がテレビを消せば存在諸共消えた事に
なってしまいます。」
「この中はどうなってるんだ?」
「どこかで撮った映像を電磁波を使って
各家に送信しているんです。」
「その中から俺が…ダメだ、わからん」

ケイト様は、私に同じアニメの同じ
シーンを流すよう指示した。私は
言われた通り、ケイト様がテレビから
飛び出してきたシーンを再生した。

「…やはりダメか…」

ケイト様は同じシーンから戻ろうと
したけど、テレビに触れる事はできても
中に入れる様子は無い。

「ケイト様、あの…」

私が声をかけると、私を睨み付けた。

「お前が何か、俺にしたのか?」
「え?」
「何故俺を知っている。お前さては…
敵国の奇術師だな!?」

剣を抜くケイト様に、私は手を挙げた。

「あ、いや、ケイト様…「問答無用!」

斬りつけようとしたその瞬間、
テレビから大きな音が流れる。

『スタープリンス、オンラインストア
開設!!ケイト様のあんな姿やこんな
姿を描いた画集も販売中だぜ!?』
『絶対にチェックしてくれよな!!』

第4王子と第8王子の宣伝に、ケイト様の
動きが止まる。買わなきゃ、と呟く私。

「…?…ホルムとスツーシャ…なんだ?
今のは…誰に対して何を呼びかけた…?
俺のあんな姿やこんな姿とは…?」
「見てみます?」
「は?」
「オンラインストアで見れますよ」

私はパソコンを開き、オンラインストア
をケイト様に見せた。



「なんという事だ…」
「ケイト様…」

ケイト様の画集は着替えや入浴シーン、私服などを描かれていた。
それを見て混乱するケイト様に、
ケイト様はこの世界でどういう存在か
教えた。スタープリンスも、王子も
魔法も、この世界には無いと。

「あんな姿をたくさんの人間に…」
「ケイト様…大丈夫です、他人の描いた
妄想ですよ。実際のお姿はケイト様しか
知りません。そんな事より、怪我の
手当をしましょう。戦いのシーンから
ここにきたので、傷だらけでしょう?」
「怪我はこのポーションで…」

ケイト様は懐から出した小瓶に入ってる
水を、自分の傷にかけた。

「…治らない」
「…この国に、魔法は無いんです。
王子もいないし、戦争もないんです」
「…そうか…」

ケイト様は、驚いた様な悲しいような
顔をした。救急箱を取り、ケイト様の
服の袖を捲し上げた。

「うわ…ひどいじゃないですか」

消毒をしながら手を触れると

「!!…ケイト様、熱が…!?」
「…平気だ…なんて事無い…」

グラリとケイト様が揺れる
私はケイト様の体を支えた。






巣奈すな

私は友人の営む個人院にケイト様を
連れて来ていた。夜中だったけど、
友人の巣奈は快く受け入れてくれた

「どうだった?」
「なんて事ない。ただの風邪よ。
一応あんたの話信じて予防接種やら
なんやらしといたよ。」
「ありがとう…!!」
「ったく、吐くならもっとマシな嘘
吐きなさいよね!ワケありの彼って」
「ごめん、何も聞かないで…私も混乱
してて…今日一晩寝かせて大丈夫?」
「大丈夫だけど、あんたまたなんか
面倒な事に巻き込まれてるんじゃ…」
「そんなんじゃないよ「純恋」

巣奈ちゃんは私の肩をギュッと持った

「なんかあったらちゃんと言ってよね」
「…わかってるよ…」

深く刻まれたクマ、痩せた頬、肌荒れ、
パサついた髪の毛。実年齢よりもずっと
年上に見える。相談できなかった。
できるはずなかった。巣奈の心配そうな
顔が、私の中にこびりつくようだった。

「…大丈夫だから」
「純恋…」

私は病室に入り、ベッドに眠る彼を
見つめた。深く刻まれたクマ、青白い顔
真っ黒な髪は夜空を吸い込んだ様だった
口の中に入りそうな髪を払い、汗を拭う
熱が高く、息も荒い。苦しそうだ。

「…大丈夫」

私は布団の上から彼の胸に手を当てた

「今度は私が、助けるから」







翌日私はケイト様と私の家に帰った。
リビングの椅子に座ってもらい、彼に
コーヒーを淹れた。彼は疲れきった
表情で、起きてから今までひとことも
発していない。少しずつ、自分の
状況を受け止めているんだろう。

「…ケイト様」
「どうすればいいのかわからない」

こんなに弱ってるこの人を見るのは
初めてだった。ケイト様は眉間を押さえ
深くため息を吐いた。

「ここの部屋が一部屋空いてるので、
ここで過ごして下さい。」
「それは絶対にありえない」

ケイト様は速攻拒否したが、私には
ケイト様が出ていく事に不安があった

「ケイト様、ケイト様が外で働くには
この世界での身分証明書が必要です。」
「身分証明書…?」
「自分がどこの誰かという証明書です。
今出て警察に職務質問をされたら、
ケイト様が何者か証明する事は誰にも
できません。そもそも、ケイト様は
この世界の人間じゃないんです。
外の世界に出ていく事は危険です。」
「しかし…」

真面目な性格だ。独身の私の家に
転がり込む形になるのに抵抗がある
私はケイト様に畳み掛けにいった。

「それに、ケイト様がテレビから
出てきたのは4期のラスト…スタプリの
5期のアニメ放送は既にケイト様が
出演する事は決定してます。」
「!!…もしそれまでに戻れないと…」
「もう戻れない可能性も出てきます。
5期までに残された時間は約1ヶ月…
ケイト様に必要なのは外で暮らす為の
家や仕事ではなく、協力者です。」
「…君を、頼って大丈夫なのか?」

ケイト様は、まだ戸惑っていた。
私はケイト様の目をまっすぐ見た

「絶対に元の世界に返してみせます。
だから私といてください。この世界で、
私がケイト様を守ります。」
「何故そこまで…」
「私は何度も、助けて貰いましたから」

私の含みのある笑みに、ケイト様は
不思議そうな顔をしていた。





こうして、私と推しの奇妙な生活が
開始される事となった。
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