溺愛王子はシナリオクラッシャー〜愛する婚約者のためにゲーム設定を破壊し尽くす王子様と、それに巻き込まれるゲーム主人公ちゃんを添えて~

朝霧 陽月

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17話 とある密談

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 ジメジメとしてカビ臭い、城下に存在する遥か昔に作られ存在を忘れ去られた地下施設。僅かな蝋燭の光のみを光源とする空間は仄暗く、昼であろうと陽の光が差し込まない。それはまるで、今の自身の立場を暗示しているようにも思える。

「久方振りの帰郷だというのに、このような場所に居なければならんとは……」

 椅子に深く腰を掛け、自嘲気味にそう呟くと、付き合いの長い部下がすかさず「貴方様がこのような立場に追いやられたのも、全てはあの男のせいです……!!」と憎々しげな声を上げた。それに続いて他の者たちも「そうだ、そうだ」と同調した。

「ああ、確かに全てはアイツのせいだ。だが、この計画が成功すれば時期にそれも終わる」
「ええ、我が主が再び脚光を浴びる日が待ち遠しいです。早く我々を陥れた奴らを絶望させましょう!!」
「そうだな、だがそれにはまだ不足していることがある。奴らの中枢で働いてくれる同志が足らんのだ……」

 その言葉に辺りはスッと静まり返る。
 俺は本件を担当していたはずの部下に目を向けて声を掛ける。

「件の第二王子と、王や異母兄との間に本当にわだかまりはないのか?あの男が妾の子にわざわざ配慮しているとは到底思えないが……」
「……それが残念ながら、調べによると第一王子が、後ろ盾にない第二王子の立場を向上させるために色々と立ちまわったそうです」
「ハッ、あの第一王子のお坊ちゃんは相当な甘ちゃんだとは聞いていたが、自分の未来の敵のためにそんなことをしたのか?もはや信じられない頭の悪さだな」

 あまりにも愚かな甥へ、憐れみと侮蔑その両方の感情が込み上げてきて、俺は天を仰ぎながら片手で顔を覆った。

「兄弟の絆など儚いものだ。アイツらの父親が自らの保身のため、年の離れた弟にわざわざ刃を向けたようにな」

 そう口にしつつ、俺は永遠に光を奪われた左目へ、眼帯越しに手を添える。
 二十余年前のあの日、仲が良いとまでは言わないまでも、少なくとも兄弟と尊重しあえると思っていた愚かな自分は、兄王から突然の裏切りを受けることになった。理由は新しく生まれた我が子に、俺が害をなす可能性を憂いてのことだったとは後から知った。

 そうして俺はあの日死んだ。事実、対外的に死んだことにされたのだった。
 運悪く、王政に不満を持つものに襲われて命を落としたという名目で。周到に存在を消し去られたのだ。

 予定通りなら本当に葬られる予定だった俺は、側近の助けもあって命からがら首都から逃れることとなった。最初は何か誤解があったのだろうと、微かな希望に縋ったが後から伝え聞いた、首都に残った何の罪もないはずの側近の護衛が【俺を守れなかったという理由】で処刑されたことと、既に自分の葬儀が行われたという話を聞いて、ようやく実の兄に裏切られたのだという現実を受け入れた。

 血の繋がりのある政敵の抹殺というやつだ……ああ、権力争いなどで昔からよくある話だ。だが到底許せる行為ではなかった!!
 だからその日以来、俺は何に変えても復讐を成し遂げると決め、そのためだけに生きてきた。俺を裏切り踏みにじり、大切な側近の命までを奪ったアイツを、その行為によって幸福や利益を享受した、アイツの大事にしているもの、その全てを!!絶対に踏みにじり壊して絶望させてやるのだと、殺された者たちに誓ったのだ!!!!

「付け入る隙が無いのであれば作ればいい、理由がないなら適当に作ればいい……かつて、あの男もそうしたようにな」

 そう言いながら俺は立ち上がり、傍らのテーブルに置いてあったグラスを手に取った。側の従者に目をやると、流れるような動作でワインをグラスに注いだ。

「あの王国は欺瞞と虚飾に満ちている、ならば壊すべきだろう。今あるもの全てをことごとくな…!!」

「その通りです!!」
「やってやりましょう!!」

「最後に玉座を得るのに相応しい真の王は、貴方様以外にいらっしゃいません……我らのカネフォーラ様」

 部下たちの賛辞とともに俺は、グラスに注がれたワインを一息に飲み干した。
 ああ、この昔から好きだったワインも久々にまともに味を感じたような気がする……もうじきだ失ったものを取り戻し、更に手に入れる。

 裏切り者たちよ、待っていろ。
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