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第22話 図書室にて-別視点- 1
しおりを挟む時間は少しさかのぼり説明が終わった辺りくらい
―――――――――――――――――――――――――――……
「それでは今必要な説明は済んだため、私は一旦失礼いたします」
そう言ってお辞儀をするとリアは身を翻して部屋を出ていた。
彼女が出て行った途端、静かな部屋は使用人たちの喋り声で一気に賑やかになった。
その内容は「これでようやく希望が見えてきましたね」「まさか大精霊様を呼び出す方法を知っているとは」「そんなに凄腕の魔術師様なら安心ですね」などの肯定的で明るいものが多く見受けられた。
確かに大精霊を呼び出す方法を知っている点は非常に気になる……なんなく普通ではないと思っていたが、まさかそこまでとは。
素人なりに呪いを解く方法を調べる過程で召喚術にも少しだけ手を出したことがある。動機はとりあえず出来そうなことは片っ端から試すという、どうしようもないものだったがお陰で多少の知識はある。
召喚とは大きな力を持つ存在を呼び出すのであれば相応の代償を用意しなければならないという代物だったはずだ。召喚で召喚するのは精霊ではないため精霊を召喚するのとはまた何か違うかも知れないが、それでも大精霊を呼び出すとなればそれなりに大きな何かが必要になるのは確かだろう。
私自身はどうにか手に入れた召喚術の情報を使って、最下級の召喚すら失敗させたわけだから下手なことは言えないがわけだが……。
そんなことを考える中でも、自分の心の中になんとなく消えずに残っているわだかまり、というかモヤモヤがあることを感じていた。
その原因はアレだ……長年我々は、呪いを解くためには真実の愛が必要だと考えてきたわけだ。
その手段が難しいと分かってから他の手段も考えたが、基本的にはそれが絶対条件だと思っていた。
だからそう思ってしまったと前置きをさせて欲しい……リアはそれを聞いたうえで自分が呪いを解くと言ってくれた。そうなれば多少なりとも、彼女がそっち方面のそれも考えてくれてると多少は思うわけだ……。
事実、私は思った……!! 多少だが期待もしてしまっていた……!!
ああ、確かに身の程知らずだとは分かってる……だが考えてみてくれ。
今まで散々な扱いを受けてきた、この容姿をあんな風に怖くないと言ってくれたり、やたら距離感が近かったんだぞ!? 全く意識しない方がおかしくないか?!
極めつけには呪いを解くのに真実の愛が必要だと聞いたうえで彼女は呪いを解いてくれると言ってくれただろう?
そこまで来れば、むしろ期待する方が自然じゃないかのか!?
それで話を聞いてみたら、そちらについてはほとんど取り合う気がなくて「呪いで眠らされている囚われのお姫様でも探しておきますね」とか言ってたからわけだからな……!!
モヤモヤしても仕方なかろう……。
ああ、なんだか思い返しただけで疲れた……。
もちろん勝手に期待してしまったことが悪いことは分かってる。
それにしても、もう少し…………いや、もうやめておこう。
これ以上、考えても不毛なうえに精神が摩耗してしまう。
もっと前向きに別のことを考えよう、他にもっとやるべきこととかを……。
…………そういえばリアに図書室のことを教えようと思っていたのだが、いつの間にかすっかり忘れていた。
そもそも、出て行ったリアは一体どこに行くつもりなのだろうか
順当に考えれば部屋に戻ってそうだが……とりあえず追いかけみるか。
そうして私はまだ使用人たちの雑談で賑わっている部屋を出てたのだった。
―――――――――――――――――――――――――――……
リアは何故か、割と近くの廊下の角で立ち止まって考え事をしていた。
アレだけ颯爽と出て行ったのに何なんだこの子は何を考えているんだ……。
話を聞くとちょうど、行く先を考えていたらしいので、図書室に案内することになった…………そもそも考えないで出て行ったのか、と思わずにはいられなかったが口出すことはしなかった。
その後は、本を探すのを手伝ったりと色々あった末に、最終的におススメの児童書を渡されて何故か読むことになった。
自分でもいまだに状況がよく分からない……。
とりあえず渡された本の表紙を眺めてみる。
題名は『騎士王レオンハルトの大冒険』……そうか、大冒険か。
表紙には題名とともに凛々しく剣を掲げ鎧を身に着けた壮年の男が影が濃い目のタッチで描かれている。おそらく主人公だろうが、こういう物語ってもう少し主人公を若めに設定するのが普通じゃないのか?
表紙を見て悶々としていると何やら気配を感じた。顔を上げるとローブを被っていてもハッキリと分かる程の視線でじーっとリアがコチラを見つめていた。その視線からは手に持っている本を早く読むようにという催促の意図がハッキリと見て取れた。
流石に気にし過ぎじゃないかと、流石にその熱意には呆れてしまった。
これは早くどうにかしないと自分の作業にも取り掛かりそうにないな……。
「分かっている、今から読む」
だから本を開いて見せてから、わざわざ読むことを宣言した。
本に視線を落とすふりをしつつ横目でリアをみると、ようやく満足した様子で手元の本に手を掛けて作業を始めるところだった。顔が隠れて表情は分かりづらくなっているのに目に見えて機嫌がよくなったのが分かる……そんなに嬉しいことなのか。
そんなリアの様子を確認しながらも嫌でも目に付くのが、積み上がった本のである。
これからこれを一人で全部目を通すと言っているのに、こんな調子でこの子は本当に大丈夫なのだろうか……?
…………何はともあれ今日中に終わらないことだけは何となく予想が付くな。
それはそれとして、ふと気付いた。先程の様子だとまた私が本を読んでいないことに気付けば自分の作業を中断しそうだということに……。
仕方ない今のところは、この児童書を読み終えてしまおう。
そんなこんなで私は特に読みたいわけでもない『騎士王レオンハルトの大冒険』を読むことになったのだった。
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