38 / 94
番外編 まだ魔術師ではなかった頃の幼い少女と幻影魔術
しおりを挟む
「幻影魔術……思いのままの幻や偽り、虚像、存在しないものを見せる魔術……」
それは今から数十年前、少女がまだ魔術を勉強し始めてまだ間もない頃のこと
予習のため一人で魔術書を読み込んでいる時に彼女は幻影魔術ページを見つけた。
幻影魔術とは、正体隠し魔術や気配遮断の術などのように実態を隠したり、また実態のない虚像を作るような魔術全般の大元に当たるような魔術だった。
「これを使えるようになったら、またお母様に会えるかな……?」
そして折しもそれは彼女が慕っていた母親を亡くしてから歳月が経過していない頃。
幼くして母親を亡くしてしまった少女は当然寂しさを感じていた。
しかし当時の彼女は本心では寂しいと思っていたとしても、周囲に心配を掛けまいと一切そのことを口にしなかった。
そんな中で募りに募った寂しさもあり、彼女はこっそりと幻影魔術の練習を始めたのだった。
例え魔術の幻でもいい、また母親の姿をみたい。
少女の中にある仄かな淡い願い……その一心だけが彼女を突き動かした。
そうして彼女は誰にも見つからないように練習を重ね、ついに幻影魔術を習得したのだった。
しかし……。
「なんで……上手く発動しているはずなのになんで何も見えないの?」
魔術を発動させても、彼女が望んでいた母親の姿を見ることは叶わなかった。
そう、まだ魔術の知識に乏しい彼女は知らなかったのだ。
幻影魔術の幻影は術者自身には目視が出来ないということを。
もし他の人に術を使って貰えれば幻影をみることも出来るが、一切弱音を吐かないようにしていた彼女にとってそれはどうしようもなく難しいことだった。
そして彼女の知らない重要な事実は他にもあった。それは術者自身に効果がある幻影魔術は禁術にあたるということだ……。
禁術というのは使用はもちろん、それに関わる術の研究自体が禁止されている魔術のことである。
なぜ禁術されているのかというと、まず一つ目の理由が術者自身まで自らの術に掛かれば、全ての感覚が狂ってしまい術の制御もままならなくなることが予測でき、周囲への影響を考えると大変危険だということが一つ。
そして禁術である二つ目の理由が、術者自身が自分の作り出した心地よい幻影に溺れてしまうことを防ぐためであった。現実ではありえない自分にとって都合のよい嘘は、とても危険だ。一度依存するようになってしまえば後戻りは出来ない。
少なくとも禁術を定めた人々はそう考えた。
「お母様……会いたいよ……」
ついに堪えきれなくなった少女は、たった一人の部屋の中でボロボロと涙をこぼし始めた。誰かが側にいてあげればと思うが、これは彼女が一人でいるからこそで他人がいればどんなに悲しくても絶対に泣いたりなどはしない。そういう子供だった。
奇しくもその二つ目の理由は、少女の『幻でもいいから母に会いたい』という幻影魔術を勉強し始めた動機を根本から否定するものであった。
だからこそ、その事実を初めて知った彼女の衝撃は大きかったという。
【魔術はヒトを助け発展させるためにあるものであり、精神を蝕み堕落させるような使い方は決して許されない。】
幻影魔術の禁術について説明した後に、締めくくりで書いてあったその一文。
それを初めて読んだ少女は、深い絶望に苛まれながらも自分の考えを悔いいるかのように、何度もその一文を噛みしめながら読み返して、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
これは彼女が自ら魔術師を名乗れるほど自負も知識もなかった頃の苦い記憶の話し。
それは今から数十年前、少女がまだ魔術を勉強し始めてまだ間もない頃のこと
予習のため一人で魔術書を読み込んでいる時に彼女は幻影魔術ページを見つけた。
幻影魔術とは、正体隠し魔術や気配遮断の術などのように実態を隠したり、また実態のない虚像を作るような魔術全般の大元に当たるような魔術だった。
「これを使えるようになったら、またお母様に会えるかな……?」
そして折しもそれは彼女が慕っていた母親を亡くしてから歳月が経過していない頃。
幼くして母親を亡くしてしまった少女は当然寂しさを感じていた。
しかし当時の彼女は本心では寂しいと思っていたとしても、周囲に心配を掛けまいと一切そのことを口にしなかった。
そんな中で募りに募った寂しさもあり、彼女はこっそりと幻影魔術の練習を始めたのだった。
例え魔術の幻でもいい、また母親の姿をみたい。
少女の中にある仄かな淡い願い……その一心だけが彼女を突き動かした。
そうして彼女は誰にも見つからないように練習を重ね、ついに幻影魔術を習得したのだった。
しかし……。
「なんで……上手く発動しているはずなのになんで何も見えないの?」
魔術を発動させても、彼女が望んでいた母親の姿を見ることは叶わなかった。
そう、まだ魔術の知識に乏しい彼女は知らなかったのだ。
幻影魔術の幻影は術者自身には目視が出来ないということを。
もし他の人に術を使って貰えれば幻影をみることも出来るが、一切弱音を吐かないようにしていた彼女にとってそれはどうしようもなく難しいことだった。
そして彼女の知らない重要な事実は他にもあった。それは術者自身に効果がある幻影魔術は禁術にあたるということだ……。
禁術というのは使用はもちろん、それに関わる術の研究自体が禁止されている魔術のことである。
なぜ禁術されているのかというと、まず一つ目の理由が術者自身まで自らの術に掛かれば、全ての感覚が狂ってしまい術の制御もままならなくなることが予測でき、周囲への影響を考えると大変危険だということが一つ。
そして禁術である二つ目の理由が、術者自身が自分の作り出した心地よい幻影に溺れてしまうことを防ぐためであった。現実ではありえない自分にとって都合のよい嘘は、とても危険だ。一度依存するようになってしまえば後戻りは出来ない。
少なくとも禁術を定めた人々はそう考えた。
「お母様……会いたいよ……」
ついに堪えきれなくなった少女は、たった一人の部屋の中でボロボロと涙をこぼし始めた。誰かが側にいてあげればと思うが、これは彼女が一人でいるからこそで他人がいればどんなに悲しくても絶対に泣いたりなどはしない。そういう子供だった。
奇しくもその二つ目の理由は、少女の『幻でもいいから母に会いたい』という幻影魔術を勉強し始めた動機を根本から否定するものであった。
だからこそ、その事実を初めて知った彼女の衝撃は大きかったという。
【魔術はヒトを助け発展させるためにあるものであり、精神を蝕み堕落させるような使い方は決して許されない。】
幻影魔術の禁術について説明した後に、締めくくりで書いてあったその一文。
それを初めて読んだ少女は、深い絶望に苛まれながらも自分の考えを悔いいるかのように、何度もその一文を噛みしめながら読み返して、溢れそうになる涙を必死に堪えた。
これは彼女が自ら魔術師を名乗れるほど自負も知識もなかった頃の苦い記憶の話し。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる