魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

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第54話 貧民の少年と魔術師2

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「実は私、あれくらいの年で母を亡くしているんです……」

 そう口にした瞬間、アルフォンス様の表情が明らかに変わった。
 あっ、よし、効いてるね……?

 この手の話題って大抵の人が弱いもんね?
 そうは言っても、事実だからこそ私も本当は使いたくなかったんだけどな…… 。

「だから彼がツライだろうと余計に思って……だから放っておけないんです」

 アルフォンス様が明らかに気まずそうな顔をしている。
 うん、気まずいよね……? 分かるよ、私も気まずいもん。

「だからごめんなさい」

 ダメ押しの謝罪、これでどうですか!?
 いや、例えダメでもこのまま行くけどね……!!

 ああ…………お母様もごめんなさい。
 その代わりに、あの子のお母さんは助けますので……。
 お母様には何も出来なかったけど、その代わりに今度こそは……。

 あっ、そういえばアルフォンス様にはあの件も謝らないとな

「あと先程、今度は貴方に付き合うと言っていたところでこうなってしまい申し訳ありません……本当に申し訳ありませんが、待っていて下さいませ」

「っ!」

 そうして私はアルフォンス様の返事も待たずに、彼に背を向けて走り出した。
 見るとロイくんはもう随分遠くにいる。

 これは急いだ方がよさそうだね。

 ロイくんを追いかけて走り出すと、ふと頭の中にある過去の記憶がよみがえった。


『ねぇお父様、どうしてお母様は亡くなってしまったのですか……』

 聞こえてきたのは幼い私の声。
 これは確かお母様を亡くして間もない頃のことだ……こんなことを思い出したのは久々にお母様の話しをしたせいだろうか。

『私が良い子じゃなかったからですか……私がもっとお勉強を頑張らなかったからですか……』

 何を馬鹿なことを言っているのだろうか……そんなことを言っても何にもならないのに……。

『ああ、違うんです。お父様を困らせたいわけじゃなくて……ただ……ただ私は……』

 …… はぁ、ヤダな。
 結局これはどうしようもないことばかりをグズグズ言うだけ言って、泣くに泣けなかった私がお父様に優しく背中を撫でてもらっただけの思い出だ。
 それ以上のことはない、ただお父様の手が優しくて暖かかっただけの……。

 本当になんでこんなことを思い出すのかな……。


 おっといけない、今はそんな場合じゃないんだ。
 軽く頭を振って私は余計な考えを振り払い前を見た。

 そして気が付くと、視線の先ではロイくんが立ち止まってこちらを見ている。
 ずっと私が着いてきていないのに気付いたようだ……いや、ごめんね。

「ようやくきた!! もうこないのかと思ったぞ……」

そういう彼の言葉には安堵あんどにじんでいた。まぁ、さっきのお医者さんのあの対応のあとじゃ不安にもなるよね……申し訳ない。

「うん、遅くなってごめんね……!! それじゃあ改めて案内してくれる?」

「こんどは、おくれるなよ」

「そうだね、分かった」

 そんな軽い会話をロイくんと交わしつつ、私は再び歩き出そうとしたが……。

「ま、待ってくれ……」

 しかしそこに息を切らしたアルフォンス様が駆け寄って来たため、私は思わず足を止めた。
 あれ……え、なんで?

「アルっ……アルさん?」

 驚き過ぎて呼び方がアルフォンス様に戻りそうになってしまった……。
 まぁ頭の中だとずっとアルフォンス様だからその影響もあるかもしれないけど、いや本当に驚いた。

「私も一緒にいく……」

 まだ完全に息が整っていないアルフォンス様だったが、真剣な目で私を見つめてそう言った。

 ……どういう心境の変化だろうか?
 あそこまで貧民街に嫌悪感を示していたのに……。

「いいのですか?」

 その変わりように、流石に不安になった私は思わず聞き返した。

「ああ……何よりキミ一人で行かせるわけにはいかない……」

 えっ、私を気にして下さってる感じなんですか……?
 正直全然平気なのですけれど…… 。

「私に気をつかう必要はありませんよ?」

「違う、私が一緒にいたいんだ……」

一緒にいたい……? あれ、私が心配だからいてあげたい的なことですかね……。

「分かりました、そこまで仰るのであれば……」

 うーん……もしかしてさっきの話が効きすぎた感じかな。
 私が物凄い傷心だと思われているのでは? いや、別にそんなことはないんだけどな……わざわざ自分で話したわけだから否定も出来ないけれども。

「なに、その人もくるの?」

 話しが一旦途切れたところで、それまでは黙ってくれていたロイくんが、そんなことを聞いてきた。
 うん、話が終わるまで待ってくれていた辺り彼はなかなかいい子だね。

「うん、そうだよ大丈夫かなー?」

「別に診てくれるならなんでもいいよ、こっちだ」

 それだけ答えてロイくんは早足で歩き出す。
 あら気が早い……まぁ今までに結構待たせちゃってるから焦る気持ちも分かるけどね。

「はいはーい……では行きましょうか」

 私は振り返ってアルフォンス様に声を掛ける。

「ああ……」

 そしてアルフォンス様は神妙な面持ちで頷いた。
 ……本当に無理してません?

 ついつい心配になり、私はじっとアルフォンス様のことを見つめる。
 すると彼が顔を上げ私と目があった。が、その瞬間にくるっと視線をらして、更には私より先に歩き出してしまった。

 えっ、なんで?
 なんで目を逸らすの、なんで先に行っちゃうの……!!
 どこがどうしてそうなったのか、分からないのですけれど……!?

「ちょっと……アルさんっ」

 ついさっきまで嫌がってたはずなのに、なんで私が後を追う形になるのかな……もうっ!!
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