魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~

朝霧 陽月

文字の大きさ
62 / 94

第61話 貧民街でのこと-別視点-3

しおりを挟む

 戻ってきたリアは再び掃除に入ったが、彼女はあの子供の方にいる。
 先程あれが近づいていった後に、そのまま連れて行かれた形になってしまったのだ。

 そしてその時、一瞬あの子供と目があうことがあったが勝ち誇ったような顔をしてたのが忘れられない……完全に悪意がにじみ出ていた。
 完全にしてやられた……子供だと思っていたら図に乗りおってからにっ!?
 ゆ、ゆるさん……さっきのことも含めてゆるさん!!

「この辺の汚れあまり落ちないなぁ」

「どれどれ見せて……ああ、なるほど」

 しかしリアは相変わらず優しいな。
 こんな生意気な子供に親切に接する必要なんてないのに……。

「これは他の汚れと違ってベトベトしてるから、濡らしただけの布だと落としづらそうだね……」

 そう言いながらリアは荷物からガサゴソと何かを取り出した。

「そういう時はね、これを使うといいよー!」

「え……なにそれ草?」

 そう、リアが取り出したのは草だった……。
 正確には茎がやたら長く、その先に丸っこい葉っぱがワサワサとついている植物で、わざわざ掘り起こして採取したのか下には根まで残っている。

 私もあの子供ではないが、リアが謎の植物を取り出したことに少し戸惑っている……いや、だって草だし……。

「そうそう、草なんだけど……ちょっと見ててみて」

 リアがその植物の茎を折ると、そこから透明なとろっとした液体が出てきた。

「で、出てきた液を水に入れて混ぜるの」

「うん」

「ロイくんこれの水面をちょっとバシャバシャしてみてよ」

「バシャバシャ? こう……わっ!!」

「ほら、泡が立ったでしょ?」

「うん、立っためっちゃ泡あわしてる」

 確かにその会話通り、桶の水面には細かい泡が立って残っている。
 まるで洗剤のようだな……。

「この泡が汚れを綺麗にしてくれるんだよ、だからこの水に布を付けてからもう一度同じ所を掃除してみようね~」

「うん、分かった!!」

 例の子供はリアの言葉に頷いて、泡の立った桶の水で布を濡らしてから改めて汚れた壁を拭いた。

「凄い!! 汚れが落ちたよ!?」

「ふふ、そうでしょ~」

 ……やっぱり洗剤だな。
 しかしこんな植物があるとは……リアはよく知ってるな。前々から思っていたが彼女はなかなか博識はくしきだ。
 そして何より『ふふ』って笑ってるところが可愛いのもいい……。

「ちなみにこの草はシャポン草というんだ。実はこの辺でも生えているのを見掛けたから、使いたくなったらまた取ってきて使うといいよ~ 取るときのポイントは、茎を折らないように根ごと掘り起こすってところだね」

「へぇー、そうなんだ!! あ……でも忘れちゃいそうだ……」

 は? リアが丁寧に説明してくれてるのだから、一度でしっかり覚えるべきでは…… ? むしろ覚えて当然ではっ?

「それじゃあ、メモを書いてあげるよ!! 紙もペンも持ってるし」

「メモ……」

 はぁ、リアは本当に優しいな……それなのに、この子供はなんで引っ掛かりがありそうな言い草なんだ……?
 そこは素直にうなずくべきでは? 感謝が足りないぞ?

「それってさ、文字を使うの?」

「ん? まぁ、基本はそうだね」

「じゃあダメだ……おれは字が読めないから」

「あ……そっか……」

 悩ましそうに視線を落としたリアを見ながら、私もそこで納得がいった。

 ああ、そうか……。
 食うのもやっとであるのが、貧民の暮らしだ。読み書きが出来ないのは、よく考えれば当然だったな。

 しかしそうすると、彼女の反応は……。
 やや不安を感じつつリアの様子を伺っていると、彼女は何か思い付いたのかパッと顔をあげて微笑んだ。
 あ、可愛い……。

「それなら特徴が分かるように絵を描いてあげるよ。ほら、絵なら字が読めなくても分かるでしょ」

 リアはにこにこしながら身振りを交えてそういう。
 うん、可愛いな……って、ん? 絵だと?

「……いいの?」

「もちろん、これにそうした方がロイくんの役にも立つでしょ?」

「うん……!!」

 ……え、絵を描く!?
 仮に出来るとしても、それは流石に優しすぎないか!?

 こちらが戸惑ってる間に、リアは荷物から紙とペンを取り出してサラサラと絵を描き始めた。
 本当に何か書いてるようだが、ここからではよく見えないな……。

「…………はい、描けたよ~」

 どうにか見えないものかと位置を動いたりしていたところ、リアのそんな声が聞こえてきた。

 は、早いな……!?
 そんなすぐに出来るものなのか……?

「草の特徴と生えやすい場所に、あと採取の時の注意も入れてみたんだけど、これで分かるかな?」

 しかもこの短時間で、そんなに描き込んだのか!?

「すごいー!! ちゃんと分かるよ!!」

 き、気になる!?
 よし、もう少しこっちに行けば……おお、ここならば上手く見える。

 紙に描かれていたのは、確かにさっきリアが取り出した草と同じモノだ。
 長い茎を持ちながら、特徴的な丸っこい小さな葉っぱが生えてる先端。
 その隣には、特徴的を抑えてデフォルメされたその草が、木陰に生える様子が描かれ矢印で示されてる。おそらく生えやすい場所を表しているのだろう……。
 そしてその下には、同じデフォルメされた草が根まで掘り起こされた状態のものにマルが付いてる絵と、対照的に茎が折れた状態の草にバツが付いている絵があった……。
 いや、これは絵というより図というものか……?

 で、でもこの僅かな間にこれを描けるって凄過ぎないか!? もしかして私が知らないだけで魔術師だと、これが普通なのだろうか……?

 ……まぁリアが優秀なのはいいとして、この失礼で生意気な子供にそこまでする必要があるのだろうか?
 何よりもそこが釈然としないのだが……。

 モヤモヤしつつリアの様子をみると、彼女は何故かあの子供へ微妙な表情を向けていたような気がした。
 気がしたと言うのも、それはあまりに一瞬のことで確証を持てるようなものではなかったからだ。
 このタイミングで、あの子供の本性に気付いたというわけでもなさそうだが……。

「さぁ、残りはもう少しだから掃除の続きも頑張ろうね」

 そういう、彼女はいたって今まで通りだ。
 なんだろうか、リアは一体何を……。

「うん、頑張る!!」

 丁度私が色々と考えようとしたその瞬間、あの子供がリアに抱きついたため、あらゆることがどうでもよくなった 。

 な、な、なんてことをっ!?

「こら、そうされると動けないからやめようね~」

「はーい」

 そうしてその子供は抱きつくのはやめたものの、代わりにリアへベタベタし始めた……。

 はぁぁ!?
 こ、この子供、子供だからと調子に乗り過ぎではないか!?

「ほらほら、続きをやるよー」

「うん」

 そしてリアはもっと言うべきことがあるのでは!? なぜ、そのまま掃除を再開しようとする……!?

 でも、しかし本人が文句を言わない以上、今から間に入るのも…………ぬ、ぬぐぐぐっ!!
 ぐっ……これもツケということにしておいてやろう、今はな? 今はなっ!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...