華子の笑顔レシピ

朝霧 陽月

文字の大きさ
4 / 8

04 特別なメール

しおりを挟む
『今日のクラス対抗リレーお疲れ様~
 佐藤くんって以外と足が早かったんだね!!
 私、ビックリしちゃった~
 これは体育祭での活躍も期待出来そうだね?
 今から楽しみだな~!!

 それで明日の数学なんだけど、教科書63ページの問2を授業の始めに答え合わせするらしいから解いて来るようにだってー。

 ところで佐藤くんって揚げ物、例えば唐揚げとかって好き?』


 もはや日常の一部と化してきた、家に帰ってくると藤澤から届くメール。内容自体は今までとほぼ変わらないものだ……。
 だけど、今回のそれには読んだ瞬間に俺を引きつけてやまない単語があった。

「唐揚げ……」

 そうつぶやいた瞬間、パッと思い出した。

 もう随分と思い出さなくなって久しい母との記憶だ……。

 そうだ母の生前、俺は母の作った唐揚げが好きでよくねだっていたな……。

 そして母が亡くなってしまって、それでも俺はまた同じ味の唐揚げが食べたくて、市販品を片っ端から試したけど全然ダメで……最終的に自分で作って当然失敗して……。
 ああ、あれから一度も唐揚げなんて食べてないな。

 思えばすっかり忘れてた……。

 あの唐揚げなら好きだ…………好きだった。

 ……きっと二度と食べられないだろうけど。

 とりあえず、藤澤のメールに返事をしなくちゃな。

『体育祭はあまり出たくない。
 ありがとう。
 唐揚げは普通。』

 亡くなった母の唐揚げが好きだなんて書けるわけなくて、俺はそのように返信した。

 そしてやや時間を置いて自分の送信したメールを後から見返して思った。
 やっぱりあのメールへの返信が3行っておかしかったかも知れない……。

 でも今はそう思っていても、あとあと絶対直せないんだよな……。


―――――――――――――――――――――――――――……


 それから数日後、藤澤からこんなメールが届いた。

 いつもに連絡メールのあとに、こんな内容の別のメールもう一通。

『いつも私のメールや雑談に付き合ってくれてありがとう!!
 次の日曜って空いてる?

 もし空いてたら私から御礼に食事をご馳走したいんだけど……どうかな?』

 なんだコレは?
 御礼に食事って……。
 どちらかって言えば、世話になってるのって俺の方じゃないのか?

 しかし、そうだな……次の週末なら空いているし、世話になっている相手が誘ってくれたのだか行った方がいいだろう……。

 難点は食事って部分と、向こうがご馳走したがってることだが……。

 とりあえず量の少ないメニューを選ぶのと、その場で上手く説得して支払いは俺が持とう……。
 説得、出来るのか俺……?

 ……………………。

 まぁ……行くことは決めたのだから了解の返事を送って置こう。

『コチラこそありがとう。
 空いてる。
 分かった、付き合う。』

 俺がそう返信してから、まだそんなに経たない内にまたメールが届いた。

『ありがとう!!
 とっても嬉しいよ!!

 実はもう場所は決めてあって、当日の12時にこの店の前で待ち合わせでよろしく!!

 最後に地図のURLも添付しておくねー』

 親切に向こうが全部決めてくれたな……。
 コチラとしては助かるのだが、そこはかとなく強引さを感じるのは気のせいだろうか……。

 とりあえず、こちらにも返信しておこう。

『ありがとう
 了解。』

 かくして次の週末に藤澤と食事することが決まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...