華子の笑顔レシピ

朝霧 陽月

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05 昼食に誘われて

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「……定休日?」

 藤澤から指定された店の前まで来てみると、入り口には定休日という札が掛けられていた。
 もしかして藤澤が何か間違えたのだろうか?

 悩みながら、定休日の札を眺めていると唐突に入り口の引き戸ががらがらと開いた。

「やっぱり佐藤くんだったのね、いらっしゃい!!」

 そう言って、中から出てきたのは藤澤だった。

「なんで中から……?」

「なんでって……この店はお父さんの店だから、ほら名前だって藤澤亭でしょ」

 言われてみれば、そうだな……。
 というか、藤澤の家って飲食店だったのか

「ささ、入って!! 今日は佐藤くんのためだけに貸し切りなんだから」

「貸し切り!?」

 はっ? え……!?
 なんで、そんな大袈裟なことに……。

「そうよ!! とは言っても、定休日で使わない店を少し貸してもらえるようにお父さんに頼んだだけなんだけどねー」

「貸してもらったって、もしかして料理は藤澤が作るのか?」

「そうよ、これでも私料理にはちょっと自信があるんだから」

 そう言って、藤澤はパチッとウインクをしてみせた。

「期待しててよね!!」

「ああ……」

 自信満々な様子の藤澤の様子に『いきなり料理を作るなんて言われても困る』という気持ちを飲み込んで俺は頷いた。
 こんなノリノリのやつにどうこう言えるわけないだろうが……!!

 そうして藤澤に促されるまま、店内に入る。
 店内にはカウンター席とテーブル席あり、俺はカウンター席の方に案内された。

「今日はエプロンを着てるんだな」

 先程まで別のことに気を回していたため気付かなかったが、今日の藤澤は私服にエプロン姿のようだった。
 いつも学校で会うからすっかり制服のイメージが強くなっていたが、そう言えばスーパーで会った日も私服だったな……。
 その時はまさかエプロン姿を見ることになるとは思いもしなかったが……。

「そうそう、料理をするためにねー!」

 そう言った直後「ちなみにー」と口にした藤澤が、エプロンの胸元をグイッと引っ張って見せてきた。
 えっ、なんだ……刺繍か?

「このエプロンには花柄の刺繍がしてあるんだー。私の名前が華子だから花柄なんだけど、そこが結構気に入ってるんだー」

「そういえば、藤澤の名前は華子だったな……」

「そう華子! 自分では可愛い名前だと思ってるのに、よく古臭いとかいう人がいてねー」

「わざわざ本人に、そんなこと言うやつがいるのか……」

「いるんだよ!!ホント信じられないよねー」

 華子は何やら思い出してしまったらしく「もうー本当に酷いよねー」とか言ってプンプン怒っている。

 まぁ確かに今風の名前とは違うが……。

「……俺はいい名前だと思うけどな」

 口に出すつもりはなかったのに、いつの間にかそんな言葉がこぼれていた。
 あ、しまった……そう思って藤澤の方をみると、彼女はキラキラと目を輝かせて俺の方を見つめていた。

「ようやく、分かってくれる人がいた!!」

 ギュッと手を握りしめた藤澤は、感激を言葉の端々ににじませながらそう言った。
 俺は予想外の反応に驚きながら、どうにか口を開いた。

「そんな、大げさな……」

「大げさなじゃないよー、だって今の友達とかも初めに名前を聞いた時は大体『えっ』みたいな顔されたもん~」

 そう言って距離を詰めてきた、藤澤は勝手に俺の手を握って上下にブンブン振り回した。
 い、痛い!! 向こうは振り回してる側だから、いいかも知れないけどコチラは腕がもげてあさっての方向に飛んで行きそうなんだが……!!

「わ、分かったから……人の手を振り回すのを止めてくれ!」

「あー、ごめんごめん」

 藤澤はどうにか手を離してくれたが、何度も上下させられた腕には若干痺れのようなものが残った。
 こいつと接してて今までで一番ビックリしたんだが……興奮するとこんな行動も取るのか、以後気を付けよう。

「それで出来れば、聞きたいんだけど……」

 先程までだいぶ思い余った行動を取っていたクセに、今度は打って変わっておずおずとした口調でそう言ってきた。

「は……?」

「具体的に名前のどこら辺がよかった?」

「具体的にって……」

 いきなり何を言い出すかと思えば、本当に何を言っているだ……?
 俺が藤澤の名前に対して、具体的にどこら辺がいいと思ったか知りたいってことだよな? よく分からないけどそうだよな?

「お願い、物凄く知りたいからお願い!!」

 顔の前で手を合わした藤澤が必死さがにじみ出た口調で言う。
 これはたぶん言うまで引いてくれないやつだよな……。
 はぁ仕方ない……。

「華やかで可愛らしくて明るいイメージで、藤澤にピッタリ……だと思って…………」

 とりあえず思ったままを正直に口にして見たのだが、言ってる途中でふと気付いた。
 あれ? このセリフってもしかしてメチャクチャ恥ずかしくないか……?

「あ、ありがとう……!! そんな風に思ってくれてただなんて……」

 しかしもう色々と手遅れで、俺の言葉のせいかあきらかに照れた様子の藤澤が、ちょっとしどろもどろになりながらそう礼を言ってきた。
 いや、違うからな……!? たぶん藤澤が受け取ったそれとは違うぞ!!

「一応言っとくと名前を褒めたんだからな……!! 他の意図はないぞ!?」

「うん、分かってるって……! じゃあ、私はちょっとお茶入れてくるから待ってて」

「ああ……!!」

 自分でも訳が分からない妙に力の入った返事をして、店の奥に入っていく藤澤を見送った俺は頭を静かに抱えた。

 何をしているんだ、俺は……!!
 なぜ藤澤に告白紛いのセリフを言うことに!?
 …………待てよ、そもそも休日に女の子と二人っきりってまるで、デ……っ!!

 いやいやいや違う、たぶん違う!! お互いにそういう意図がなきゃデなんとかは成立しない……!!
 だから今日のこれは違う!! なんだ、これはいうなれば……。



「はーい、お茶を入れてきたのでどうぞ!!」

 ゴチャゴチャと色々と考え込んでいた俺の思考を断ち切るように、藤澤の声が聞こえる。
 顔を上げると、目の前には湯気が立ちのぼる湯呑が置かれていた。

「ああ、ありがとう……」

 気を紛らわすため、すぐさま湯呑みに手を付ける。
 ああ、やっぱりお茶は落ち着くな……。

 藤澤も戻ってきたことだし、一旦そういうこと考えるのはよそう……。
 そうしよう。
 そんな決意のもと、俺はもう一度湯呑みのお茶をグイグイと飲み込んだ。
 いやー、本当にお茶はいいな……!!
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