パーティからリストラされた俺が愛されすぎている件。心配だからと戻ってくるけど、このままだと魔王を倒しに行かないので全力で追い返そうと思います

倉紙たかみ

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第25話 バーニッシュ村ハンパないって!

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 ――バーニッシュ村ハンパないって。

 それが最初の感想だった。以前の情報だと、バーニッシュ村はただの漁村だ。数千人が、漁業でのんびり暮らす田舎町。平和なところだと聞いた。

 だが、機関車のせいか、村は賑やかになった。次々に人が集まっている。というか、線路や道路を敷いた作業員たちが、そのまま村に住居を構えたのか、爆発的に人口が増えた。嗅ぎつけた商人が、金になると踏んで次々に店を構えた。

 村の人たちも『今がチャンスだ!』と地魚を使ったレストランを経営しまくった。クレアドールのバブル経済が伝播していた。そして、俺たちはというと――。

 オーシャンフロントの木造の高級感溢れる巨大コテージ。部屋数も多く、バカンスを彷彿させる天蓋付きベッドのあるホテル。目の前、徒歩1分のところに海。そして、海があるのに敷地内にプライベートプール。恐ろしいほどの豪華な空間。そこの庭に、俺たちはいたのだった。

 うちの姉貴はビキニを纏って、サマーベッドに寝転がっている。顔を覆い隠さんばかりの大きなサングラスをかけて、トロピカルジュースをちゅーと吸っている。

「いやぁ。田舎だと聞いていましたが、なかなかいいところですねぇ」

「田舎じゃねえよ。最先端都市だよ。なんだよ、このコテージとかホテルの数は」

 広い海岸をなぞるようにして、大小様々なホテルが乱立している。城のようなホテルから、ビルとか呼ばれる地上20階建てのBOX型の建築物とか、俺たちが宿泊している木造の趣のあるログハウス風のコテージとか。

 ちなみに、イシュタリオンさんはというと、ビーチの方で『スイカ割り』なるものをしていた。なんでも、目隠し状態でスイカの気配を感じ取り、剣にて一刀両断するという修行らしい。割ったスイカは、子供たちに振る舞うのが流儀だそうだ。村の子供たちが、すでに割られているスイカを頬張っている。

「いやいやいやいや! いかんだろう! 俺たちは、魔王討伐の旅をしてるんだろ! 遊んでいる場合じゃない!」

 完全に旅行。完全にバカンス。こんなことをしている場合じゃない。一刻も早く、魔王を倒さなければならないのだ。泳いでいる暇があったら、ゴブリンの一匹でも討伐して、経験値を溜めなきゃならんだろう!

「カルマ様、落ち着いてくださいませ。ささ、ジュースをどうぞ」

 そう言って、トロピカルジュースを差し出してくるルリ。彼女もまた、成り行きで宿泊してくれることになった。パレオ付きのビキニで、俺たちの世話をしてくれている。

 俺は、憤懣やるかたない気持ちがありつつも、ジュースを受け取って飲む。美味い。なんの味かわからないけど、口の中にフルーツの甘みとほのかな酸味が広がる。こんな複雑な味のジュースは初めてだった。

「安心しろ。我々だってなにも考えていないわけではない」

「イシュタリオンさん?」

 スイカ割りを終えた彼女が、スタスタと戻ってくる。目隠しをしたままだ。この人、達人スキルを極めすぎて、五感のひとつやふたつ封じても、不便がないんだろうなぁ。

「現在、急ピッチでフィッシングローズの町への線路を敷いているところだ。明日の朝になれば完成する」

 そう言いながら、しゅるりと目隠しをほどくイシュタリオンさん。

「……相変わらず、早いっすね」

「我々の仕事は、あくまで魔王討伐。これは、他の者が変わることはできん。しかし、移動に関しては民の協力が得られる」

 現在、俺たちは資金を交通に全振りしている。そうすることで、旅を円滑に進めることができる。実を言うと、これが凄まじく効率的だった。

 移動時間が短縮するし、行く先々の町が発展していく。こうして滞在することによって、町の問題点や可能性を発見することもできるので、さらに資金を注ぐことができる。情報もたくさん入ってくる。休息もしっかりできているので、コンディションも良い。

「けど、こうしている間にも、リーシェは旅を続けているんだし……」

 俺は、もうひとりの仲間――リーシェのことを思い出す。『合理的』が口癖のちょっと素直になれない女の子。パーティの中でもっとも頭の良い、頼れる賢者。彼女は、果たしていったいどうしているのだろうか。

「リー……シェ?」

 イシュタリオンさんが、不思議そうに首を傾げる。姉ちゃんも、頭上に『?』が浮かんでいるようだった。

「カルマくん……? なにを言ってるんですか?」

 心底理解できていないような顔をする姉ちゃん。イシュタリオンさんと顔を向き合わせている。こいつら、忘れてんじゃねえだろうな。

「こうしている間にも、ひとりで旅をしてるんだろ? いま、どこにいるんだろ。ルリ、情報が入っていないか?」

 すると、ルリは目をそらして汗をだらだらとかき始めた。

「……ルリ?」

 不思議そうに眺めていると、やがてルリはバツが悪そうに新聞を持ってきてくれる。

「……リーシェ様でしたら、ホロヴィル大陸にいらっしゃるそうですよ。こちらの新聞で記事になっております」

 俺が新聞を広げる。姉ちゃんとイシュタリオンさんも覗き込む。そこには、リーシェの記事がデカデカと載っていた。

 彼女は、四天王のロット、アークルードなどを撃破。その後、地図には載らぬホロヴィル大陸へ渡り、魔王城を発見。討伐まであと一歩のところまできているとのこと。

 写真も掲載されていた。聖剣と魔剣を背負い、放浪軍を率いて荒野を雄々しく進軍する彼女の姿がある。瞳には使命感が漂っている。まるで平和な未来を見据えているようだ。どこかの勇者以上に勇者していた。

「う、ううっ……り、りーしぇ……?」

 リーシェの写真を見て、姉ちゃんもようやくなにかを思い出したようだ。

「うわぁあああぁぁぁッ……あ、ああっ……」

 イシュタリオンさんも、膝を突いて頭を抱えている。こいつら、マジで忘れていたのかよ。

「リーシェだよ! 俺たちの大事な仲間だろうが!」

「リーシェ……仲間……そ、そうです……わ、私たちは、仲間をリストラして、それが……リーシェ――」

「違えよ! リストラされたのは俺だよ! しっかりしろ!」

 俺は、姉ちゃんの肩をぐわんぐわんとゆらす。っていうか、現状だと、魔王討伐の御一行からリストラされたのって、姉ちゃんたちの方じゃねえのかな。リーシェ、めっちゃがんばってたんだな……。――――ん?

「ルリ、もしかして知ってた?」

「……」

 ルリって、めちゃくちゃ優秀なメイドだよね。魔王討伐の記事ぐらい、教養として毎日確認してるよね。

「……知ってたよな?」

「は……い……」

「なんで、黙ってた?」

「そ、その……心配をかけたくなくて……それに、カルマ様がいなくなってしまうのが寂しかったので……ご、ごめんなさい……」

 しゅんと俯いてしまうルリ。

「ああッ! そ、そうでした……わ、私たちはリーシェと一緒に旅をして……」と、姉ちゃんが言った。

「あいつが『カルマのことが心配だから、様子を見てきて欲しい』と、私に依頼したから――」と、イシュタリオンさんも言う。

 たぶん違うだろう。こいつらが、リーシェに任せて勝手に戻ってきたのだろう。俺は仲間だからわかる。なんとなく察する。

「な、なぜ、私たちは大事な仲間のことを忘れていたのでしょうか……」

 表情を青ざめさせる姉ちゃん。理由は簡単だ。アホだからだ。

「おそらく精神攻撃……はっ……! まさか、フォルカスか! 奴が、私たちの記憶からリーシェを消し去ったのだ!」

「なんと! やはり、彼女は魔王の呪縛から逃れていなかったのですね!」

 違えよ。アホだからだよ。

 ルリが、俺に耳打ちをする。

「……フォルカスに、逃げるよう言いますか?」

「いいよ。二、三日すれば忘れるから。こいつらアホだから」

 まあ、リーシェのことを思い出してくれたのはありがたい。魔王討伐の使命も忘れていなかったようだ。

「姉ちゃん、イシュタリオンさん。気を引き締めようぜ。休息も悪くないが、ここからは効率を維持しつつも、なるべく早く――」

「こうしちゃいられません! カルマくん! イシュタリオン! 急いでホロヴィル大陸とやらに向かいましょう!」

「もちろんだ! ルリ、準備を頼む!」と、イシュタリオンさんも深く頷く。

「は……かしこまりました。……うう、ついに行ってしまわれるのですね……」

「待て待て。明日には、新しい線路が完成するんだろ。とりあえず、今日は――」

「なに悠長なことを言ってるんですか! こうしている間にもリーシェは、ひとり寂しく旅を続けているんですよ!」

 ひとりじゃねえよ。新聞見たろ。放浪軍まで引き連れているんだぞ。……まあ、心細いだろうから……早く合流して、心の支えになってあげたいところだけど。

「すぐに出発するッ! 線路などいらんッ! 一刻も早くリーシェの元へ向かうぞ!」

「え……? 今から?」
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