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第27話 見初めて認めて看取られて
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「げほっ……くっ……」
「おやおや、さっきまでの威勢はどうしたのかな?」
――強い。これまで出会った誰よりも。
聖剣と魔剣を駆使し、奮闘したリーシェであったが、その結果は惨憺たるものであった。リーシェが、まるで子供扱い。傷ひとつ付けられない。首を鷲掴みにされ、高々と持ち上げられている。
「ぐ……ぇ……」
「もっとがんばりなよ。きみが負けると、世界も終わるよ? 人間界に、きみより強いのいる?」
「い……いるわ……よッ! 真の勇者フェミルッ――がッ! っていうか、あたしがあんたを倒すッ!」
「あはは、がんばれがんばれ。じゃないと、人間を皆殺しにしちゃうよぉ? きみには大事な人はいるかい? 家族は?」
大事な人。その言葉を耳にした時、リーシェの頭にカルマの姿が思い浮かんだ。そうだ、負けていられない。リーシェがあきらめたら、カルマに危険が及ぶ。
「う……らぁッ!」
爆発魔法による至近距離からの一撃。だが、ツェルギスは反射魔法を使った。爆発がリーシェに跳ね返ってくる。なんという反応速度と詠唱速度。彼女は派手に吹っ飛んで、大地に転がった。
「かはッ――」
――たぶん、あたしは死ぬ。
怖くはなかった。旅に出た時から覚悟はしていた。だから、死ぬことは許せる。許せないのは、こいつがカルマをも傷つけようとしていることだ。
頭が良いと、常に『効率』を考えるようになる。現時点において、リーシェに可能な最大幸福はなにかを計算してしまう。ただ死ぬのはくだらない。自己憐憫に浸るのも意味がない。あの世に持って行けるのは『思い出』だけ。
敗北が不可避なら、せめてツェルギスを道連れにする。カルマのためと思えば、悪くない行動。実に合理的。
――終局魔法ブラスターエンド。周囲一帯1kmの物質を完全消滅する魔法。これで奴を倒す。もちろん、リーシェ本人もただでは済まない。
「り……輪廻転生怪奇回帰。終焉を迎える魔の深淵……」
ゆらりと立ち上がり、リーシェが詠唱を始める。その瞬間、凄まじい痛みを彼女が襲う。
「なにをしようとしていたのかな? まあ、足掻いたところで無駄だと思うけど」
ツェルギスが魔剣デッドハートを拾い上げて投げる。リーシェの腹部へと突き刺さる。大地へと倒れるリーシェ。天を仰ぎながら、終局魔法を唱える。
「ぐっ……ふっ……。む、無駄だと……思うなら……ッ! ――足掻かせなさいよ……は、はは……ブラスタァ……エン――」
「やーだよ」
そう言って、ツェルギスはライフバーンも胸元めがけて突き刺し、昆虫の標本の如く抑えつけるのだった――。
「が……は……」
☆
「おやぁ? 動かなくなっちゃった……。ま、楽しめたよ。――さて、旅行の準備をしなくっちゃ」
――人間界か。楽しみだな。ダークドラゴンを連れて行ってみようかな。海戦もやってみたいからクラーケンも連れて行こうかな。でも、ゲートに入るかなぁ……。
リーシェに興味の失せたツェルギス。彼女に一瞥もくれず踵を返す。地面を蹴るようにして跳躍。そのまま飛翔して消えていく――。
その時。リーシェに突き立てられた魔剣と聖剣が、ほのかに光り輝いた。
☆
俺たちは暴走機関車を操って、フィッシングローズの町へとやってきた。早速とばかりに船を借りようとしたのだが、近隣の海賊にすべて奪われてしまったらしい。というわけで、姉ちゃんはそこら辺にある丸太に乗って、サーフィンのように大海へと出た。
そう、丸太だ。筏ではなく丸太。
イシュタリオンさんも同じように丸太に乗る。ふたりとも凄まじいバランス感覚だ。もちろん、推進力は魔法である。俺はというと、イシュタリオンさんの腰にしがみついていた。
道中、海賊がアジトにしているという島があったので立ち寄った。海賊どもを一瞬で征伐し、港町から奪った船を返すように言った。そして、海賊船を一隻借りて再び大海へ。ここでようやく水着から普段の装備へと着替えた。
そのままホロヴィル大陸へ上陸。魔王城へ向かう。最後は徒歩だ。というか、ダッシュだ。俺は引き続きイシュタリオンさんにしがみついている。背負われる形だ。
ちなみに、こんなに早く到着できるのなら、クレアドールで遊んでんじゃねえよとか言いたいかもしれないが、これはリーシェのおかげだ。彼女が行くべき大陸、行くべき土地へと導いてくれた。魔剣も聖剣も手に入れてくれたし、魔王軍幹部や四天王を倒してくれた。情報収集もしてくれていたからだ。
――そして、バーニッシュ村から24時間後。俺たちは魔王城へと到着する。いや、正確には『魔王城だった場所』へと到着した。
「こ、これは……どういうことです……?」
惨状を見て、フェミル姉ちゃんがつぶやいた。魔王城は、すでに崩壊していた。瓦礫の山と化していたのだ。
「リーシェがやったのか……?」
警戒気味に瓦礫へと近づくイシュタリオンさん。
「カルマくん、お姉ちゃんから離れないでくださいね」
「ああ」
瓦礫を駆け上がる俺たち。すると、そこには『人間』がいた。筋肉隆々のモヒカン頭。いかにも山賊といった感じ。この人……新聞で見たことある。リーシェが率いていた軍勢の中にいた人だ。印象深いルックスのおかげで記憶に残っている。姉ちゃんが、恐る恐る声をかける。
「あの……ここで、なにがあったんですか――?」
☆
黒かった。暗かった。闇だった。
漆黒の世界で揺蕩うリーシェ。これが『死』の感覚かと思った。
――悔しい。
負けたのはどうでも良い。死ぬのもどうでもいい。けど、愛すべき人を守れなかったことが、ただただ悔しかった。
リーシェが不甲斐ないせいで、人間界がツェルギスに滅ぼされる。あいつを止められるのはリーシェだけだった。魔剣も聖剣も手に入れ、経験も積みまくったリーシェは、人間界最強だったはずだ。
リーシェが、ツェルギスを倒す以外に、世界平和の道はなかった。
――なのにッ!
「……ちくしょう……っ。ううっ……ぐすっ……。……ちくしょ……ぉ」
ぐしっ、と、袖で涙を拭うリーシェ。すると、暗闇の世界にふたつの光が見えた。涙で滲んだそれは、酷くまぶしく思えた。だが、次の瞬間、そのふたつの光が語りかけてきた。
『――生きたいですか?』
優しい女性の声だった。誰の声かわからない。けど、その『生きたいか』という言葉に魅力があって、リーシェは素直に返した。
「あたりまえよッ……。あたしには、やることが残ってる……ッ」
答えると、今度は重厚な男性の声が聞こえてきた。
『力が欲しいか――?』
「欲しい……カルマを守るための力が欲しい……ッ!」
『はは、正直な奴だな。ならば、与えよう。我らはずっとおまえの雄姿を見てきた。力を持つに値する存在だ』
「なによ、上から物を言って――」
いったいなにが起こっているのだろうか。そもそもリーシェは死んだのではないのだろうか。この空間も謎だ。
リーシェは漆黒の空間で姿勢を起こす。すると、見えない地面に立つことができた。
『これは失礼した。我が名はデッドハート。リーシェ様は我らが主であったな』
光のひとつが、褐色の筋肉質な青年の姿となって、リーシェの前に跪いた。そして、もうひとつの光は法衣を纏った女神の如き姿となって、同じく跪く。
『私はライフバーン。これより、私たちはリーシェ様のしもべとなります』
「……どういう……こと?」
『ここは、思念の世界だ。いわば主殿の精神の内側。実態を持たぬ魔剣と聖剣が、主殿と語らうことのできる世界。ぶしつけだが、火急であるからな』
『はい、リーシェ様の御命が尽きる前に、我々は最後の使命を果たさせていただきます』
「最後の……使命……?」
『リーシェ様を復活させます』
『ああ、我らの魔力すべてを受け取ってもらうぞ』
魔剣と聖剣に内在する、すべてのエネルギーをリーシェに還元する。そうすることで、以前の何倍もの力を手に入れることができる。生き返ることもできる。
「あなたたちはどうなるの?」
『神器としての役目を終えます』
「消えるってこと?」
『気にすることはない。剣としてのカタチを失うだけだ。これからは、リーシェ様の魔力となって生き続ける』
『リーシェ様の生き様を見させていただきました。我らが魂を預けるに相応しい御方』
「まだ……戦える?」
『リーシェ様の御心のままに』
デッドハートとライフバーン。ふたりが再び光となった。そして、リーシェの身体へと吸い込まれていく。そして、次の瞬間――視界が白に包まれ、彼女は目を覚ますのだった。
☆
魔界。死にかけていたはずのリーシェが目を見開いた。次の瞬間、光芒の柱が天へと伸びた。ふらりと彼女は起き上がり、地面から浮遊するように佇む。
「これが……神器の力……」
突き刺さっていたはずの剣たちが消えていた。リーシェの肉体に吸収されてしまったのがわかる。そして、自身が以前の自分ではないことも理解する。己の掌を見やって、それを強く握る。
――この力なら届く。あのいけ好かない魔界の王に。
「世界は……カルマは、あたしが守る――」
ツェルギスが去って行った方を一瞥する。この魔力なら空だって飛べるだろう。
「……りぃ……しぇ」
声の方を見やると、そこにはボロボロのヘルデウスの倒れた姿があった。かろうじて生き残っていたらしい。
「しぶといわね。……もう、あんたには興味ない。二度と人間界に手を出すんじゃないわよ」
哀れみを抱いたわけではない。だが、とどめを刺すという気持ちにはならなかった。
「じゃあね。私には、やることがあるから」
そう言って、踵を返す。だが、呼び止められる。
「待て……俺の魔力を吸収していけ……」
「魔力を……吸収……?」
「見ていたぞ……神器が貴様と一体化するのを……。アレには魔力を奪う力がある。俺の魔力を根こそぎ持っていけ」
可能だが、実行したらヘルデウスは干からびて死ぬだろう。
「どういう意味かわかって言ってるの?」
「……どうせ、俺に時間は残されておらん。……ならば利用しろ。そして兄者を止めてくれ……いや、殺してくれ」
元々、彼ら兄弟は人間界とも魔界とも違う別世界から転移してきたという。その際、ツェルギスはチート級と呼ばれる異能力を与えられていた。ツェルギスは力を使い、世界のすべてを自分のおもちゃした。
そんな兄から離れたかった。逃げたかった。だから人間界に活路を見た。けど、人間からも蔑まれ、唯一心許せるのは動物――魔物しかいなかった。ゆえに、人間を滅ぼして魔物の世界を創りたかった。その世界を守るためにもツェルギスは倒しておきたかった。
「なんで、あんたの言うことなんか――」
「俺はおまえに魅せられた。愛する人を守るために、命を捨て、ここまでひとりでやってきた。その力が、俺を完膚なきまでに叩き潰した。俺に足りないものを持っていた」
「どーも」
「だから使え。使える物はすべて使え。カルマとやらを守りたいのだろう」
リーシェは考えた。こういう時、自分のドライさを再認識させられる。常に合理的。放っておいても、こいつは魔物の餌になるだけだろう。ならばと、有効利用してやる方が、リーシェのため。ヘルデウスのためだとも思ってしまう。
「礼は言わないわよ」
「言われる筋合いもない」
ククッと笑うヘルデウス。その腹部にリーシェは掌を置いた。
「さよなら、ヘルデウス」
「ああ、さらばだ、勇者リーシェよ」
掌を介して、魔王の魔力を吸い上げる。そして、魔王は徐々に干からびた。わずかな風でも肉体が朽ちていく。灰となって、故郷の大地へと還っていく。
「意思は受け取った。ま、ツェルギスはぶっ殺してあげるわ」
「おやおや、さっきまでの威勢はどうしたのかな?」
――強い。これまで出会った誰よりも。
聖剣と魔剣を駆使し、奮闘したリーシェであったが、その結果は惨憺たるものであった。リーシェが、まるで子供扱い。傷ひとつ付けられない。首を鷲掴みにされ、高々と持ち上げられている。
「ぐ……ぇ……」
「もっとがんばりなよ。きみが負けると、世界も終わるよ? 人間界に、きみより強いのいる?」
「い……いるわ……よッ! 真の勇者フェミルッ――がッ! っていうか、あたしがあんたを倒すッ!」
「あはは、がんばれがんばれ。じゃないと、人間を皆殺しにしちゃうよぉ? きみには大事な人はいるかい? 家族は?」
大事な人。その言葉を耳にした時、リーシェの頭にカルマの姿が思い浮かんだ。そうだ、負けていられない。リーシェがあきらめたら、カルマに危険が及ぶ。
「う……らぁッ!」
爆発魔法による至近距離からの一撃。だが、ツェルギスは反射魔法を使った。爆発がリーシェに跳ね返ってくる。なんという反応速度と詠唱速度。彼女は派手に吹っ飛んで、大地に転がった。
「かはッ――」
――たぶん、あたしは死ぬ。
怖くはなかった。旅に出た時から覚悟はしていた。だから、死ぬことは許せる。許せないのは、こいつがカルマをも傷つけようとしていることだ。
頭が良いと、常に『効率』を考えるようになる。現時点において、リーシェに可能な最大幸福はなにかを計算してしまう。ただ死ぬのはくだらない。自己憐憫に浸るのも意味がない。あの世に持って行けるのは『思い出』だけ。
敗北が不可避なら、せめてツェルギスを道連れにする。カルマのためと思えば、悪くない行動。実に合理的。
――終局魔法ブラスターエンド。周囲一帯1kmの物質を完全消滅する魔法。これで奴を倒す。もちろん、リーシェ本人もただでは済まない。
「り……輪廻転生怪奇回帰。終焉を迎える魔の深淵……」
ゆらりと立ち上がり、リーシェが詠唱を始める。その瞬間、凄まじい痛みを彼女が襲う。
「なにをしようとしていたのかな? まあ、足掻いたところで無駄だと思うけど」
ツェルギスが魔剣デッドハートを拾い上げて投げる。リーシェの腹部へと突き刺さる。大地へと倒れるリーシェ。天を仰ぎながら、終局魔法を唱える。
「ぐっ……ふっ……。む、無駄だと……思うなら……ッ! ――足掻かせなさいよ……は、はは……ブラスタァ……エン――」
「やーだよ」
そう言って、ツェルギスはライフバーンも胸元めがけて突き刺し、昆虫の標本の如く抑えつけるのだった――。
「が……は……」
☆
「おやぁ? 動かなくなっちゃった……。ま、楽しめたよ。――さて、旅行の準備をしなくっちゃ」
――人間界か。楽しみだな。ダークドラゴンを連れて行ってみようかな。海戦もやってみたいからクラーケンも連れて行こうかな。でも、ゲートに入るかなぁ……。
リーシェに興味の失せたツェルギス。彼女に一瞥もくれず踵を返す。地面を蹴るようにして跳躍。そのまま飛翔して消えていく――。
その時。リーシェに突き立てられた魔剣と聖剣が、ほのかに光り輝いた。
☆
俺たちは暴走機関車を操って、フィッシングローズの町へとやってきた。早速とばかりに船を借りようとしたのだが、近隣の海賊にすべて奪われてしまったらしい。というわけで、姉ちゃんはそこら辺にある丸太に乗って、サーフィンのように大海へと出た。
そう、丸太だ。筏ではなく丸太。
イシュタリオンさんも同じように丸太に乗る。ふたりとも凄まじいバランス感覚だ。もちろん、推進力は魔法である。俺はというと、イシュタリオンさんの腰にしがみついていた。
道中、海賊がアジトにしているという島があったので立ち寄った。海賊どもを一瞬で征伐し、港町から奪った船を返すように言った。そして、海賊船を一隻借りて再び大海へ。ここでようやく水着から普段の装備へと着替えた。
そのままホロヴィル大陸へ上陸。魔王城へ向かう。最後は徒歩だ。というか、ダッシュだ。俺は引き続きイシュタリオンさんにしがみついている。背負われる形だ。
ちなみに、こんなに早く到着できるのなら、クレアドールで遊んでんじゃねえよとか言いたいかもしれないが、これはリーシェのおかげだ。彼女が行くべき大陸、行くべき土地へと導いてくれた。魔剣も聖剣も手に入れてくれたし、魔王軍幹部や四天王を倒してくれた。情報収集もしてくれていたからだ。
――そして、バーニッシュ村から24時間後。俺たちは魔王城へと到着する。いや、正確には『魔王城だった場所』へと到着した。
「こ、これは……どういうことです……?」
惨状を見て、フェミル姉ちゃんがつぶやいた。魔王城は、すでに崩壊していた。瓦礫の山と化していたのだ。
「リーシェがやったのか……?」
警戒気味に瓦礫へと近づくイシュタリオンさん。
「カルマくん、お姉ちゃんから離れないでくださいね」
「ああ」
瓦礫を駆け上がる俺たち。すると、そこには『人間』がいた。筋肉隆々のモヒカン頭。いかにも山賊といった感じ。この人……新聞で見たことある。リーシェが率いていた軍勢の中にいた人だ。印象深いルックスのおかげで記憶に残っている。姉ちゃんが、恐る恐る声をかける。
「あの……ここで、なにがあったんですか――?」
☆
黒かった。暗かった。闇だった。
漆黒の世界で揺蕩うリーシェ。これが『死』の感覚かと思った。
――悔しい。
負けたのはどうでも良い。死ぬのもどうでもいい。けど、愛すべき人を守れなかったことが、ただただ悔しかった。
リーシェが不甲斐ないせいで、人間界がツェルギスに滅ぼされる。あいつを止められるのはリーシェだけだった。魔剣も聖剣も手に入れ、経験も積みまくったリーシェは、人間界最強だったはずだ。
リーシェが、ツェルギスを倒す以外に、世界平和の道はなかった。
――なのにッ!
「……ちくしょう……っ。ううっ……ぐすっ……。……ちくしょ……ぉ」
ぐしっ、と、袖で涙を拭うリーシェ。すると、暗闇の世界にふたつの光が見えた。涙で滲んだそれは、酷くまぶしく思えた。だが、次の瞬間、そのふたつの光が語りかけてきた。
『――生きたいですか?』
優しい女性の声だった。誰の声かわからない。けど、その『生きたいか』という言葉に魅力があって、リーシェは素直に返した。
「あたりまえよッ……。あたしには、やることが残ってる……ッ」
答えると、今度は重厚な男性の声が聞こえてきた。
『力が欲しいか――?』
「欲しい……カルマを守るための力が欲しい……ッ!」
『はは、正直な奴だな。ならば、与えよう。我らはずっとおまえの雄姿を見てきた。力を持つに値する存在だ』
「なによ、上から物を言って――」
いったいなにが起こっているのだろうか。そもそもリーシェは死んだのではないのだろうか。この空間も謎だ。
リーシェは漆黒の空間で姿勢を起こす。すると、見えない地面に立つことができた。
『これは失礼した。我が名はデッドハート。リーシェ様は我らが主であったな』
光のひとつが、褐色の筋肉質な青年の姿となって、リーシェの前に跪いた。そして、もうひとつの光は法衣を纏った女神の如き姿となって、同じく跪く。
『私はライフバーン。これより、私たちはリーシェ様のしもべとなります』
「……どういう……こと?」
『ここは、思念の世界だ。いわば主殿の精神の内側。実態を持たぬ魔剣と聖剣が、主殿と語らうことのできる世界。ぶしつけだが、火急であるからな』
『はい、リーシェ様の御命が尽きる前に、我々は最後の使命を果たさせていただきます』
「最後の……使命……?」
『リーシェ様を復活させます』
『ああ、我らの魔力すべてを受け取ってもらうぞ』
魔剣と聖剣に内在する、すべてのエネルギーをリーシェに還元する。そうすることで、以前の何倍もの力を手に入れることができる。生き返ることもできる。
「あなたたちはどうなるの?」
『神器としての役目を終えます』
「消えるってこと?」
『気にすることはない。剣としてのカタチを失うだけだ。これからは、リーシェ様の魔力となって生き続ける』
『リーシェ様の生き様を見させていただきました。我らが魂を預けるに相応しい御方』
「まだ……戦える?」
『リーシェ様の御心のままに』
デッドハートとライフバーン。ふたりが再び光となった。そして、リーシェの身体へと吸い込まれていく。そして、次の瞬間――視界が白に包まれ、彼女は目を覚ますのだった。
☆
魔界。死にかけていたはずのリーシェが目を見開いた。次の瞬間、光芒の柱が天へと伸びた。ふらりと彼女は起き上がり、地面から浮遊するように佇む。
「これが……神器の力……」
突き刺さっていたはずの剣たちが消えていた。リーシェの肉体に吸収されてしまったのがわかる。そして、自身が以前の自分ではないことも理解する。己の掌を見やって、それを強く握る。
――この力なら届く。あのいけ好かない魔界の王に。
「世界は……カルマは、あたしが守る――」
ツェルギスが去って行った方を一瞥する。この魔力なら空だって飛べるだろう。
「……りぃ……しぇ」
声の方を見やると、そこにはボロボロのヘルデウスの倒れた姿があった。かろうじて生き残っていたらしい。
「しぶといわね。……もう、あんたには興味ない。二度と人間界に手を出すんじゃないわよ」
哀れみを抱いたわけではない。だが、とどめを刺すという気持ちにはならなかった。
「じゃあね。私には、やることがあるから」
そう言って、踵を返す。だが、呼び止められる。
「待て……俺の魔力を吸収していけ……」
「魔力を……吸収……?」
「見ていたぞ……神器が貴様と一体化するのを……。アレには魔力を奪う力がある。俺の魔力を根こそぎ持っていけ」
可能だが、実行したらヘルデウスは干からびて死ぬだろう。
「どういう意味かわかって言ってるの?」
「……どうせ、俺に時間は残されておらん。……ならば利用しろ。そして兄者を止めてくれ……いや、殺してくれ」
元々、彼ら兄弟は人間界とも魔界とも違う別世界から転移してきたという。その際、ツェルギスはチート級と呼ばれる異能力を与えられていた。ツェルギスは力を使い、世界のすべてを自分のおもちゃした。
そんな兄から離れたかった。逃げたかった。だから人間界に活路を見た。けど、人間からも蔑まれ、唯一心許せるのは動物――魔物しかいなかった。ゆえに、人間を滅ぼして魔物の世界を創りたかった。その世界を守るためにもツェルギスは倒しておきたかった。
「なんで、あんたの言うことなんか――」
「俺はおまえに魅せられた。愛する人を守るために、命を捨て、ここまでひとりでやってきた。その力が、俺を完膚なきまでに叩き潰した。俺に足りないものを持っていた」
「どーも」
「だから使え。使える物はすべて使え。カルマとやらを守りたいのだろう」
リーシェは考えた。こういう時、自分のドライさを再認識させられる。常に合理的。放っておいても、こいつは魔物の餌になるだけだろう。ならばと、有効利用してやる方が、リーシェのため。ヘルデウスのためだとも思ってしまう。
「礼は言わないわよ」
「言われる筋合いもない」
ククッと笑うヘルデウス。その腹部にリーシェは掌を置いた。
「さよなら、ヘルデウス」
「ああ、さらばだ、勇者リーシェよ」
掌を介して、魔王の魔力を吸い上げる。そして、魔王は徐々に干からびた。わずかな風でも肉体が朽ちていく。灰となって、故郷の大地へと還っていく。
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