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第19話 最終防衛システムとされた人たち
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――今日、ラングリード騎士団は最後を迎えるかもしれない。
フランシェが、これほど危機感を覚えたのは初めてだった。
幾度となく危険にさらされてきたラングリード軍であったが、今回ほど追い詰められたことはない。城壁で敵の侵攻を食い止めていたのだが、それらも突破されようとしている。
さらには上空から鳥の魔物が次々と上陸。マジックサウナスチームシステムを使うも、熱に強い魔物たちを揃えているのか、効果が薄かった。
そうなると町のあちこちに兵を回す必要が出てきて、部隊の陣形が次々に乱れていく。
「なんという策士……。暗略のプリメーラとは、かくも恐ろしいものか」
未だ姿を見せぬ魔王軍幹部。
奴の居場所さえ掴めば、玉砕覚悟で向かっていけるのだが、その影すら見せない。現状、これだけの魔物を押し返さなければならないと思うと、さすがに絶望する。
――そして、最後の絶望が現れる。
「フ、フランシェ様! あ、あれを御覧ください!」
部下の指差す先には鬼《オーガ》がいた。ゴツゴツしたトゲを全身に纏って、怒りの表情を湛えている鬼。手には巨大なソードを持っていた。
「巨人……? いや、あれは……」
――ジャイアントオーガ。
神話に出てくる鬼の巨人だ。その巨剣は城を砕き、大地を裂く。奴の一撃を食らえば、城壁などビスケットのように粉砕されるだろう。最後の最後に、とんでもない厄災を用意していたものだ。
「フランシェ様……このままでは、ベイル様が戻ってくる前に――」
「下がってください」
フランシェは、勇ましく断じる。
「フランシェ様……?」
「ここは私が守ります。第一騎士団は、第三騎士団の傘下に入って、町に侵入した魔物の討伐をお願いします」
「し、しかし――!」
「急ぎなさい!」
「は、はッ!」
魔物を警戒しつつも、フランシェの部下たちは次々と城壁を降りていく。魔物たちも、それらを追いかけていった。ジャイアントオーガは歩くような速さで、ゆっくりと進撃してくる。
城壁に仲間がいないことを確認すると、フランシェは魔力を解放する。
剣で床をなぞるように横一線。その瞬間、城壁が凍り付いていく。兵士を追いかける魔物たちが凍り付いていく。
そして、氷柱のような巨大なトゲがウニのように展開。ジャイアントオーガへと向けられた。
「いにしえの厄災であろうが、ラングリードに牙を剥くものはこのフランシェが許さない。凍てつく世界にて、永年の眠りにつくがいい」
フランシェの背から、氷の翼が伸びていく。
「我々は勇者ベイルに頼りすぎた」
これまで、何度助けられてきただろうか。もし、彼がいなければ、滅びた数は両手では足りなかっただろう。
英雄に救われることがあたりまえになっていた。本来なら、もっと感謝すべき対象のハズなのだ。恩人は、いつしか騎士団という防衛システムの一部として組み込まれ、それを利用することで、我々は生きながらえてきた。
けど、この状況こそが普通なのだ。
――第一騎士団長フランシェ。本来なら、自分こそが民を守る最強のシステムなのである。
魔力のすべてを冷気に変えた。消耗が激しい上、仲間を巻き込んでしまうので、滅多に使うことのない最後の手段だ。しかも、この状態は長く続かない。
だが、それでもジャイアントオーガとは良くて相打ちかな?
ああ、その可能性も限りなく低いかな――。
☆
脱衣所への扉が、ゆっくりと開いた。開けてくれたのはメリアだった。彼女は、目に涙を浮かべながら、ポツリとつぶやいた。
「……ベイルくん……無事で良かった……」
俺は抱えていたアスティナを、脱衣所のベンチへと寝かせる。衣服が完全に湿ってしまっている。呼吸も荒い。意識も混濁しているようで、彼女は目も開けられないほど衰弱しきっていた。
「メリア……アスティナを頼めるか」
「はい」
俺は身体を拭いて、通気性のあるインナーに腕を通す。厚手のシャツを纏い、最後にジャケット。ズボンは伸縮性があって動きやすく、なおかつ魔法防御にも優れている。腰のベルトをギシリと締める。
最後に、剣を背負うと、彼女がこう問いかけた。
「ベイルくん、この国に仇成す魔物に鉄槌をお願いします――」
俺は、出口ののれんを潜りながら、こう言い残すのだった。
「――ああ」
フランシェが、これほど危機感を覚えたのは初めてだった。
幾度となく危険にさらされてきたラングリード軍であったが、今回ほど追い詰められたことはない。城壁で敵の侵攻を食い止めていたのだが、それらも突破されようとしている。
さらには上空から鳥の魔物が次々と上陸。マジックサウナスチームシステムを使うも、熱に強い魔物たちを揃えているのか、効果が薄かった。
そうなると町のあちこちに兵を回す必要が出てきて、部隊の陣形が次々に乱れていく。
「なんという策士……。暗略のプリメーラとは、かくも恐ろしいものか」
未だ姿を見せぬ魔王軍幹部。
奴の居場所さえ掴めば、玉砕覚悟で向かっていけるのだが、その影すら見せない。現状、これだけの魔物を押し返さなければならないと思うと、さすがに絶望する。
――そして、最後の絶望が現れる。
「フ、フランシェ様! あ、あれを御覧ください!」
部下の指差す先には鬼《オーガ》がいた。ゴツゴツしたトゲを全身に纏って、怒りの表情を湛えている鬼。手には巨大なソードを持っていた。
「巨人……? いや、あれは……」
――ジャイアントオーガ。
神話に出てくる鬼の巨人だ。その巨剣は城を砕き、大地を裂く。奴の一撃を食らえば、城壁などビスケットのように粉砕されるだろう。最後の最後に、とんでもない厄災を用意していたものだ。
「フランシェ様……このままでは、ベイル様が戻ってくる前に――」
「下がってください」
フランシェは、勇ましく断じる。
「フランシェ様……?」
「ここは私が守ります。第一騎士団は、第三騎士団の傘下に入って、町に侵入した魔物の討伐をお願いします」
「し、しかし――!」
「急ぎなさい!」
「は、はッ!」
魔物を警戒しつつも、フランシェの部下たちは次々と城壁を降りていく。魔物たちも、それらを追いかけていった。ジャイアントオーガは歩くような速さで、ゆっくりと進撃してくる。
城壁に仲間がいないことを確認すると、フランシェは魔力を解放する。
剣で床をなぞるように横一線。その瞬間、城壁が凍り付いていく。兵士を追いかける魔物たちが凍り付いていく。
そして、氷柱のような巨大なトゲがウニのように展開。ジャイアントオーガへと向けられた。
「いにしえの厄災であろうが、ラングリードに牙を剥くものはこのフランシェが許さない。凍てつく世界にて、永年の眠りにつくがいい」
フランシェの背から、氷の翼が伸びていく。
「我々は勇者ベイルに頼りすぎた」
これまで、何度助けられてきただろうか。もし、彼がいなければ、滅びた数は両手では足りなかっただろう。
英雄に救われることがあたりまえになっていた。本来なら、もっと感謝すべき対象のハズなのだ。恩人は、いつしか騎士団という防衛システムの一部として組み込まれ、それを利用することで、我々は生きながらえてきた。
けど、この状況こそが普通なのだ。
――第一騎士団長フランシェ。本来なら、自分こそが民を守る最強のシステムなのである。
魔力のすべてを冷気に変えた。消耗が激しい上、仲間を巻き込んでしまうので、滅多に使うことのない最後の手段だ。しかも、この状態は長く続かない。
だが、それでもジャイアントオーガとは良くて相打ちかな?
ああ、その可能性も限りなく低いかな――。
☆
脱衣所への扉が、ゆっくりと開いた。開けてくれたのはメリアだった。彼女は、目に涙を浮かべながら、ポツリとつぶやいた。
「……ベイルくん……無事で良かった……」
俺は抱えていたアスティナを、脱衣所のベンチへと寝かせる。衣服が完全に湿ってしまっている。呼吸も荒い。意識も混濁しているようで、彼女は目も開けられないほど衰弱しきっていた。
「メリア……アスティナを頼めるか」
「はい」
俺は身体を拭いて、通気性のあるインナーに腕を通す。厚手のシャツを纏い、最後にジャケット。ズボンは伸縮性があって動きやすく、なおかつ魔法防御にも優れている。腰のベルトをギシリと締める。
最後に、剣を背負うと、彼女がこう問いかけた。
「ベイルくん、この国に仇成す魔物に鉄槌をお願いします――」
俺は、出口ののれんを潜りながら、こう言い残すのだった。
「――ああ」
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