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最終話 今日も勇者はととのった
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ラングリードの町から離れた丘の上。
元五大魔将のひとり、不死身のバージャムがほくそ笑んでいた。
「くくっ……これで終わったと思うなよ、勇者ベイル」
魔王城で大敗北を喫したバージャム。完全に殺されたかと思っただろうが、彼の不死身さを侮ってはならない。甦ったバージャムは、散り散りになった魔王軍の残党を再編成した。
「俺は……この一戦で世界の魔王となる」
平和を迎えたと勘違いし、のうのうと活きる人間共に危機感は皆無。
すでに、新魔王軍は、町を中心に包囲が完了している。東西南北、空中地中、ありとあらゆる角度から、ラングリードの町を攻撃することができる。
新生魔王軍の数は10万。これは、魔王ゲルギオラスが率いていた頃よりも多い。魔王が死に、魔物たちは危機感を覚えた。
毎日の餌だけを心配しているだけの、非好戦的な連中も、このままでは人間の支配が始まると懸念し、一念発起したのであった。
「さあ、魔王バージャムによる、魔物による魔物の世界の始まりだ! 全軍突撃ッ!」
魔物たちが強襲する。人間たちは、魔法や弓矢で応戦していたが、予期していなかったせいか、準備不足で抵抗が弱い。
屈強な魔物たちが、城門に身体をぶつけてこじ開けようとする。
「ふははははッ! 圧倒的ではないか、我が軍は!」
だが、その時だった。城門が弾けるように吹っ飛ぶ。
――うん。内側から開いた? ふつう、こちらから攻めているのだから、扉は城壁の向こうに飛んでいくよね? なのに、なんでこっちに飛んでくるの?
扉の勢いは凄まじく、バージャムめがけて飛んできた。「うおわぉッ!」という情けない声を漏らしながら、バージャムはかろうじて回避する。
門の奥から、禍々しいオーラが漂ってくる。
――な、なんだ?
ゴゴゴゴゴという擬音さえも聞こえてきそうな重圧に満ちた空気。周囲にいた魔物たちも、警戒してしまう。
「ほう、バージャム……生きていたか……」
門の向こうから現れたのは、ヴァルディスだった。漆黒のオーラを纏いながら、緩やかに、たったひとりでやってくる。奴を目の当たりにした魔物たちは、恐れおののき、数歩後退した。
「ヴァヴァヴァ、ヴァルディスゥッ?」
なぜ、奴がここに? 勇者に敗れて死んだのではなかったのか? というか、どういう状況なのだ?
「き、貴様ッ! なぜ、町から出てくるッ?」
「俺は、ラングリードを守護する五大魔将がひとり、魔人ヴァルディスだ。サウナを愛し、サウナに愛された男。この世界のサウナ守るために、俺は人生を捧げた。ラングリードを滅ぼすというのなら、この俺が相手になってやる」
「な、なななッ!?」
――なにを言っているのかわからない。
バージャムが混乱していると、ヴァルディスが端的に説明してくれる。
「もう、魔王とか勇者とか、そういう時代ではないのだ。これからは、快楽を追い求める時代。戦争など必要はない。争うというのなら、この魔人ヴァルディス、魔を断つ剣となってすべてを滅するまでよ」
要するに、このバカは寝返った。
――ふざけるな! 散々辛酸を舐めさせられてきた人間共に、いまさら屈することなどできるわけがない!
「ぬぐぐぐぐッ! 日和ったかヴァルディスッ! 魔王軍として誇りを忘れたか!」
「もとより、俺は魔王様を裏切った身だ。誇りなど、遠くの昔に捨ててきた」
「この逆賊がッ! ものどもッ、ヴァルディスを始末しろッ」
怯んでいた魔物たちが、バージャムの一言で戦意を吹き返す。一気に襲いかかる。しかし、ヴァルディスの戦闘力は凄まじかった。
向かっていく魔物たちが、まるでゴミのようだ。路傍の空き瓶のように軽く蹴飛ばされ、新聞紙を貫くかのように拳を打ち込まれる。魔物たちを駆逐しながら、歩くような速さで、近寄ってくる。
「ひぃぃぃッ! 後続の部隊を投入しろ」
こうなったら、民を人質にして、こいつの侵攻を止めてやる!
後続の巨人部隊が、ズシンズシンと轟音を踏みならしながら、城壁へと近づいていく。奴らが取り付いたが最後、城壁などスナック菓子のように粉砕できるだろう。
しかし、その時だった。ダークエルフの軍団が、城壁の上へと、見慣れない兵器を並べ始める。
「ほう、ウルフィの奴。さすがに仕事が早いな」
感心したかのようにヴァルディスが言った。
「あ、アレはなんだ……?」
バリスタのような重々しい形状。先端には砲身のようなものが伸びている。
巨人が近づくと、砲身が地面へ向けられた。そして、白い光線のようなものが発射される。すると、それは白刃のように、巨人の股間から頭頂部へと一気に切り裂いたのだった。
「なッ!」
「アレは、ウォーターカッターという兵器らしい。ラングリードを巡る温泉水を、超高圧力で勢いよく射出すると、まるで刃物のような切れ味になるそうだ」
まるで防御力を無視しているかのように、巨人たちが次々と切り刻まれていく。
「ぬぐぐぐッ! しかし、これだけで終わると思うなよ!」
バージャムには、まだまだ策があった。現在、地中からモグラやミミズ、土竜たちを侵攻させている。これらが、大地を抜けて町へと出現した時、ラングリードは大パニックになる。そうなれば戦況は変わるのだ。
――だが――。
「バージャム様ッ! 大変です!」
副将の魔族が、慌てふためきながら報告にきた。
「ど、どうしたッ!」
「地中からは侵攻できませんッ!」
「どういうことだ?」
困惑していると、ヴァルディスが教えてくれる。
「こっちにはプリメーラがいるのだぞ? 魔物相手の想定はできている」
温泉都市ならではの地熱を利用。魔石や魔力を使って、大地の熱を微妙にコントロールしている。
もし、地面から侵攻してきたとしても、地熱によってゆであげてしまうという地獄のシステム。ラングリードの地下は、天然の防御壁となっているのだった。
「な、なななッ……そんなッ!」
さらに、城壁からヒャッハーと、腰にタオルを巻いた半裸の男たちが飛び降りてくる。奴らはサウナ騎士団と言うらしい。
四六時中、誰かしらがサウナを楽しんでいるラングリードには、ととのっている連中が大勢いるのだ。そいつらが、剣を持って魔物たちを次々に駆逐していく。人間とは思えないほどのポテンシャルを持っている。
さらにはフランシェの騎士団も出てきた。
なんで、こいつらこんなに強いの?
「うぐぐぐッ! 撤退だッ! ここは一度退いて、態勢を立て直す!」
バージャムが声を荒げる。すると、副将の魔族が反論する。
「な、なりませんバージャム様! ここで撤退など、許されません!」
「黙れ! このまま時間をかければ、やがてベイルまで現れるのだぞ! 再起して、次こそ奴らを討ち滅ぼす!」
「しかし……バージャム様には次がございません!」
「は?」
次の瞬間、副将の魔族が剣を抜いて、喉元に突きつけてくる。
「な、なにを……?」
「再起する? 体勢を立て直す? いやいや、そんなチャンスはないですよ」
副将が、溶けるように姿を変えていく。そして、見覚えのある少年へとカタチをつくっていった。
「き、貴様は……変幻のトーレスゥッ?」
「いやいや、バージャムさん。さすがに、五大魔将4人を相手をするなんて無茶です。しかも、あなた、最弱なんでしょ?」
――え? なに? 俺って、そんなに評価が低いの? 少なくとも、ヴァルディスの次ぐらいに強いと思ってたんだけど?
「そんなわけで、次があると思わないでくださーい。そろそろ、あの御方もいらっしゃられるんで――」
☆
温泉施設ラングリオンのサウナ。
「フー……」
98度の灼熱空間に8分24秒。
良いコンディションだ。身体の芯まで熱が帯びている。立ち上がると、背中の汗がツゥと腰へ伸びていく。
身体が十分に温まると、俺はようやっと外へと踏み出す。冷たい風も、いまの俺にはご褒美だ。肌が心地よさを感じている。
――とても有意義な時間だった。
これまでは、魔王軍が攻めてくるたびに、焦りを感じていた。けど、いまの俺には、強力な仲間がいる。安心して戦闘態勢をととのえられるのは初めてのことかもしれない。
水風呂に浸かり、そして外気浴。
脳の奥側がぼんやりとしてきた。
快楽物質が溢れてくる。
――ああ、気持ちよい。
内側から魔力が溢れてきた。
肉体が歓喜を始める。
そして、勇者の血が騒ぎ出すのだった。
ととのうという至高の気分を味わうと、俺はゆっくりと目を開いた。
「はい、ベイルくん」
そう言って、メリアが特製オリポを差し出してくる。透明なグラスに氷をギッシリと詰められていて、ほのかに水滴が滲んでいた。
「ありがとう」
それを受け取ると、俺は一気に飲み干した。火照った身体に、キンキンに冷えた命の水が染みこんでくる。
「気をつけてくださいね」
俺は、衣服を纏い、こう告げるのだった。
「――ああ、ととのった」
元五大魔将のひとり、不死身のバージャムがほくそ笑んでいた。
「くくっ……これで終わったと思うなよ、勇者ベイル」
魔王城で大敗北を喫したバージャム。完全に殺されたかと思っただろうが、彼の不死身さを侮ってはならない。甦ったバージャムは、散り散りになった魔王軍の残党を再編成した。
「俺は……この一戦で世界の魔王となる」
平和を迎えたと勘違いし、のうのうと活きる人間共に危機感は皆無。
すでに、新魔王軍は、町を中心に包囲が完了している。東西南北、空中地中、ありとあらゆる角度から、ラングリードの町を攻撃することができる。
新生魔王軍の数は10万。これは、魔王ゲルギオラスが率いていた頃よりも多い。魔王が死に、魔物たちは危機感を覚えた。
毎日の餌だけを心配しているだけの、非好戦的な連中も、このままでは人間の支配が始まると懸念し、一念発起したのであった。
「さあ、魔王バージャムによる、魔物による魔物の世界の始まりだ! 全軍突撃ッ!」
魔物たちが強襲する。人間たちは、魔法や弓矢で応戦していたが、予期していなかったせいか、準備不足で抵抗が弱い。
屈強な魔物たちが、城門に身体をぶつけてこじ開けようとする。
「ふははははッ! 圧倒的ではないか、我が軍は!」
だが、その時だった。城門が弾けるように吹っ飛ぶ。
――うん。内側から開いた? ふつう、こちらから攻めているのだから、扉は城壁の向こうに飛んでいくよね? なのに、なんでこっちに飛んでくるの?
扉の勢いは凄まじく、バージャムめがけて飛んできた。「うおわぉッ!」という情けない声を漏らしながら、バージャムはかろうじて回避する。
門の奥から、禍々しいオーラが漂ってくる。
――な、なんだ?
ゴゴゴゴゴという擬音さえも聞こえてきそうな重圧に満ちた空気。周囲にいた魔物たちも、警戒してしまう。
「ほう、バージャム……生きていたか……」
門の向こうから現れたのは、ヴァルディスだった。漆黒のオーラを纏いながら、緩やかに、たったひとりでやってくる。奴を目の当たりにした魔物たちは、恐れおののき、数歩後退した。
「ヴァヴァヴァ、ヴァルディスゥッ?」
なぜ、奴がここに? 勇者に敗れて死んだのではなかったのか? というか、どういう状況なのだ?
「き、貴様ッ! なぜ、町から出てくるッ?」
「俺は、ラングリードを守護する五大魔将がひとり、魔人ヴァルディスだ。サウナを愛し、サウナに愛された男。この世界のサウナ守るために、俺は人生を捧げた。ラングリードを滅ぼすというのなら、この俺が相手になってやる」
「な、なななッ!?」
――なにを言っているのかわからない。
バージャムが混乱していると、ヴァルディスが端的に説明してくれる。
「もう、魔王とか勇者とか、そういう時代ではないのだ。これからは、快楽を追い求める時代。戦争など必要はない。争うというのなら、この魔人ヴァルディス、魔を断つ剣となってすべてを滅するまでよ」
要するに、このバカは寝返った。
――ふざけるな! 散々辛酸を舐めさせられてきた人間共に、いまさら屈することなどできるわけがない!
「ぬぐぐぐぐッ! 日和ったかヴァルディスッ! 魔王軍として誇りを忘れたか!」
「もとより、俺は魔王様を裏切った身だ。誇りなど、遠くの昔に捨ててきた」
「この逆賊がッ! ものどもッ、ヴァルディスを始末しろッ」
怯んでいた魔物たちが、バージャムの一言で戦意を吹き返す。一気に襲いかかる。しかし、ヴァルディスの戦闘力は凄まじかった。
向かっていく魔物たちが、まるでゴミのようだ。路傍の空き瓶のように軽く蹴飛ばされ、新聞紙を貫くかのように拳を打ち込まれる。魔物たちを駆逐しながら、歩くような速さで、近寄ってくる。
「ひぃぃぃッ! 後続の部隊を投入しろ」
こうなったら、民を人質にして、こいつの侵攻を止めてやる!
後続の巨人部隊が、ズシンズシンと轟音を踏みならしながら、城壁へと近づいていく。奴らが取り付いたが最後、城壁などスナック菓子のように粉砕できるだろう。
しかし、その時だった。ダークエルフの軍団が、城壁の上へと、見慣れない兵器を並べ始める。
「ほう、ウルフィの奴。さすがに仕事が早いな」
感心したかのようにヴァルディスが言った。
「あ、アレはなんだ……?」
バリスタのような重々しい形状。先端には砲身のようなものが伸びている。
巨人が近づくと、砲身が地面へ向けられた。そして、白い光線のようなものが発射される。すると、それは白刃のように、巨人の股間から頭頂部へと一気に切り裂いたのだった。
「なッ!」
「アレは、ウォーターカッターという兵器らしい。ラングリードを巡る温泉水を、超高圧力で勢いよく射出すると、まるで刃物のような切れ味になるそうだ」
まるで防御力を無視しているかのように、巨人たちが次々と切り刻まれていく。
「ぬぐぐぐッ! しかし、これだけで終わると思うなよ!」
バージャムには、まだまだ策があった。現在、地中からモグラやミミズ、土竜たちを侵攻させている。これらが、大地を抜けて町へと出現した時、ラングリードは大パニックになる。そうなれば戦況は変わるのだ。
――だが――。
「バージャム様ッ! 大変です!」
副将の魔族が、慌てふためきながら報告にきた。
「ど、どうしたッ!」
「地中からは侵攻できませんッ!」
「どういうことだ?」
困惑していると、ヴァルディスが教えてくれる。
「こっちにはプリメーラがいるのだぞ? 魔物相手の想定はできている」
温泉都市ならではの地熱を利用。魔石や魔力を使って、大地の熱を微妙にコントロールしている。
もし、地面から侵攻してきたとしても、地熱によってゆであげてしまうという地獄のシステム。ラングリードの地下は、天然の防御壁となっているのだった。
「な、なななッ……そんなッ!」
さらに、城壁からヒャッハーと、腰にタオルを巻いた半裸の男たちが飛び降りてくる。奴らはサウナ騎士団と言うらしい。
四六時中、誰かしらがサウナを楽しんでいるラングリードには、ととのっている連中が大勢いるのだ。そいつらが、剣を持って魔物たちを次々に駆逐していく。人間とは思えないほどのポテンシャルを持っている。
さらにはフランシェの騎士団も出てきた。
なんで、こいつらこんなに強いの?
「うぐぐぐッ! 撤退だッ! ここは一度退いて、態勢を立て直す!」
バージャムが声を荒げる。すると、副将の魔族が反論する。
「な、なりませんバージャム様! ここで撤退など、許されません!」
「黙れ! このまま時間をかければ、やがてベイルまで現れるのだぞ! 再起して、次こそ奴らを討ち滅ぼす!」
「しかし……バージャム様には次がございません!」
「は?」
次の瞬間、副将の魔族が剣を抜いて、喉元に突きつけてくる。
「な、なにを……?」
「再起する? 体勢を立て直す? いやいや、そんなチャンスはないですよ」
副将が、溶けるように姿を変えていく。そして、見覚えのある少年へとカタチをつくっていった。
「き、貴様は……変幻のトーレスゥッ?」
「いやいや、バージャムさん。さすがに、五大魔将4人を相手をするなんて無茶です。しかも、あなた、最弱なんでしょ?」
――え? なに? 俺って、そんなに評価が低いの? 少なくとも、ヴァルディスの次ぐらいに強いと思ってたんだけど?
「そんなわけで、次があると思わないでくださーい。そろそろ、あの御方もいらっしゃられるんで――」
☆
温泉施設ラングリオンのサウナ。
「フー……」
98度の灼熱空間に8分24秒。
良いコンディションだ。身体の芯まで熱が帯びている。立ち上がると、背中の汗がツゥと腰へ伸びていく。
身体が十分に温まると、俺はようやっと外へと踏み出す。冷たい風も、いまの俺にはご褒美だ。肌が心地よさを感じている。
――とても有意義な時間だった。
これまでは、魔王軍が攻めてくるたびに、焦りを感じていた。けど、いまの俺には、強力な仲間がいる。安心して戦闘態勢をととのえられるのは初めてのことかもしれない。
水風呂に浸かり、そして外気浴。
脳の奥側がぼんやりとしてきた。
快楽物質が溢れてくる。
――ああ、気持ちよい。
内側から魔力が溢れてきた。
肉体が歓喜を始める。
そして、勇者の血が騒ぎ出すのだった。
ととのうという至高の気分を味わうと、俺はゆっくりと目を開いた。
「はい、ベイルくん」
そう言って、メリアが特製オリポを差し出してくる。透明なグラスに氷をギッシリと詰められていて、ほのかに水滴が滲んでいた。
「ありがとう」
それを受け取ると、俺は一気に飲み干した。火照った身体に、キンキンに冷えた命の水が染みこんでくる。
「気をつけてくださいね」
俺は、衣服を纏い、こう告げるのだった。
「――ああ、ととのった」
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