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第1話 風呂から始まるファンタジー生活
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「はあ、今日からこの屋敷に住むのか……」
大浴場。湯船に浸かりながら、俺は気怠そうにつぶやいた。
――俺の名前はリーク・ラーズイッド。
ラーズイッド伯爵の嫡男だ。俺の家では16歳になると、奉公に出されるという風習がある。要するに、偉い人にお仕えして、社会勉強という名のタダ働きをするのだ。まあ、人脈も広げられるし、勉強にもなる。なんだったら、嫁さんまで見つけたりすることもある……らしい。
そんなわけで、該当年齢に達した俺は、ラシュフォール大陸でも中堅クラスの領主――シルバリオル侯爵の屋敷へと送り込まれた。
正直なところ、シルバリオル侯爵はあまり良い噂を聞かない。最近、女領主に代替わりしたのだが、魔法が苦手という噂だ。
基本的に貴族は、強力な魔法が使えないと話にならない。敵国や魔物から民を守らなくちゃいけない。民が反乱を起こした時も、魔法が使えなければ鎮圧ができない。実力のない領主だと、統治力に疑問を持たれるのである。
それに差別するわけじゃないけど、女性領主は珍しいので、ちょっと不安。あと、めっちゃ厳しい人だって聞いてる。近隣諸侯の間でも、彼女のことをよく言う人はいない。
「悪くはないではありませんか。部屋も広かったですし、この大浴場も素敵だと思いませんか? リーク様」
洗い場で、ククルはそう言いながらタオルを泡立て、その白い肌をゆっくりと撫でていく。
「あー……まあ、実家よりは金があるしなぁ。けど、問題は領主様だよ。怖い人だっていうし……仲良くできるかな」
「立派な人だとも聞いていますよ。――それに、もしリーク様を虐めるようなことがあれば、このククルが許しませんから、心配しなくても大丈夫ですよ」
身体を洗いながら、俺を安心させるようにっこりと微笑むうら若き女性。彼女はククル。俺の幼馴染み。うちの屋敷に出入りしていた鍛冶屋の娘だった。家も近く、子供の頃から一緒に遊んでいたせいで仲良し。歳は俺よりもふたつ上の18歳。気がつけば、親父が召使いとして雇っていたのだ。俺専属の。
昔はちんちくりんだったのに、いまでは胸も膨らんで、足もすらりと伸びて、すげー美人になった。長い髪も、銀色が映えるよう綺麗に手入れするようになったし。顔もちっちゃくて瞳も吸い込まれるかのように美しい。
いつからか、俺のことを『リーク様』なんて、恭しく呼ぶようになっていた。俺にとっては姉弟のような存在なので、こうして一緒に風呂に入るのはいつものことである。
「さ、リーク様。背中をながしますね。こっちへどうぞ」
「んー」と、適当に唸って、俺は湯船から上がる。椅子に腰掛けると、俺の背中をタオルで洗いながら、ククルは言う。
「明日には、領主様とお会いできると思うのですが……あまり、プライドを刺激しないようにしてあげてくださいね」
「プライドを刺激?」
「リーク様の魔法は凄すぎますから」
「ああ、魔法が苦手な領主の前で、得意ぶっていたら感じ悪いもんな」
「得意とかいう次元じゃないですよ。リーク様以上の魔法使いは、この世に存在しないかと……」
「買いかぶりすぎだって。俺ぐらいの魔法使いなら、王都に行けば、たぶんたくさんいるぜ?」
俺の家系は、貴族らしくそこそこ魔法に秀でている。その中でも俺個人は突然変異レベルの魔力を誇っている。それは俺も否定しない。ラーズイッド家では、俺よりも強力な魔法を使える人間が存在しないのだから。
しかし、それが世界に通用するかどうかは別の話だ。ククルは俺を評価しているけど、彼女は世間を知らなさすぎるんだ。まあ、俺も世間を知らないから、こうして奉公に出されるんだけどね。
「明日は、失礼のないようにしないとな」
「普段どおりで大丈夫ですよ。リーク様は、そのままでも立派です」
今日到着したばかりの俺たちなのだが、領主様は多忙ということで会えなかった。御対面は明日以降。屋敷に部屋を用意してくださったので、とりあえずくつろがせてもらっている。
実家暮らしは退屈だったので、まあ、こういった人生のイベントも悪くはないか。これから2年。俺はシルバンティア領・バルティアの町で過ごすことになる――。
大浴場。湯船に浸かりながら、俺は気怠そうにつぶやいた。
――俺の名前はリーク・ラーズイッド。
ラーズイッド伯爵の嫡男だ。俺の家では16歳になると、奉公に出されるという風習がある。要するに、偉い人にお仕えして、社会勉強という名のタダ働きをするのだ。まあ、人脈も広げられるし、勉強にもなる。なんだったら、嫁さんまで見つけたりすることもある……らしい。
そんなわけで、該当年齢に達した俺は、ラシュフォール大陸でも中堅クラスの領主――シルバリオル侯爵の屋敷へと送り込まれた。
正直なところ、シルバリオル侯爵はあまり良い噂を聞かない。最近、女領主に代替わりしたのだが、魔法が苦手という噂だ。
基本的に貴族は、強力な魔法が使えないと話にならない。敵国や魔物から民を守らなくちゃいけない。民が反乱を起こした時も、魔法が使えなければ鎮圧ができない。実力のない領主だと、統治力に疑問を持たれるのである。
それに差別するわけじゃないけど、女性領主は珍しいので、ちょっと不安。あと、めっちゃ厳しい人だって聞いてる。近隣諸侯の間でも、彼女のことをよく言う人はいない。
「悪くはないではありませんか。部屋も広かったですし、この大浴場も素敵だと思いませんか? リーク様」
洗い場で、ククルはそう言いながらタオルを泡立て、その白い肌をゆっくりと撫でていく。
「あー……まあ、実家よりは金があるしなぁ。けど、問題は領主様だよ。怖い人だっていうし……仲良くできるかな」
「立派な人だとも聞いていますよ。――それに、もしリーク様を虐めるようなことがあれば、このククルが許しませんから、心配しなくても大丈夫ですよ」
身体を洗いながら、俺を安心させるようにっこりと微笑むうら若き女性。彼女はククル。俺の幼馴染み。うちの屋敷に出入りしていた鍛冶屋の娘だった。家も近く、子供の頃から一緒に遊んでいたせいで仲良し。歳は俺よりもふたつ上の18歳。気がつけば、親父が召使いとして雇っていたのだ。俺専属の。
昔はちんちくりんだったのに、いまでは胸も膨らんで、足もすらりと伸びて、すげー美人になった。長い髪も、銀色が映えるよう綺麗に手入れするようになったし。顔もちっちゃくて瞳も吸い込まれるかのように美しい。
いつからか、俺のことを『リーク様』なんて、恭しく呼ぶようになっていた。俺にとっては姉弟のような存在なので、こうして一緒に風呂に入るのはいつものことである。
「さ、リーク様。背中をながしますね。こっちへどうぞ」
「んー」と、適当に唸って、俺は湯船から上がる。椅子に腰掛けると、俺の背中をタオルで洗いながら、ククルは言う。
「明日には、領主様とお会いできると思うのですが……あまり、プライドを刺激しないようにしてあげてくださいね」
「プライドを刺激?」
「リーク様の魔法は凄すぎますから」
「ああ、魔法が苦手な領主の前で、得意ぶっていたら感じ悪いもんな」
「得意とかいう次元じゃないですよ。リーク様以上の魔法使いは、この世に存在しないかと……」
「買いかぶりすぎだって。俺ぐらいの魔法使いなら、王都に行けば、たぶんたくさんいるぜ?」
俺の家系は、貴族らしくそこそこ魔法に秀でている。その中でも俺個人は突然変異レベルの魔力を誇っている。それは俺も否定しない。ラーズイッド家では、俺よりも強力な魔法を使える人間が存在しないのだから。
しかし、それが世界に通用するかどうかは別の話だ。ククルは俺を評価しているけど、彼女は世間を知らなさすぎるんだ。まあ、俺も世間を知らないから、こうして奉公に出されるんだけどね。
「明日は、失礼のないようにしないとな」
「普段どおりで大丈夫ですよ。リーク様は、そのままでも立派です」
今日到着したばかりの俺たちなのだが、領主様は多忙ということで会えなかった。御対面は明日以降。屋敷に部屋を用意してくださったので、とりあえずくつろがせてもらっている。
実家暮らしは退屈だったので、まあ、こういった人生のイベントも悪くはないか。これから2年。俺はシルバンティア領・バルティアの町で過ごすことになる――。
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