9 / 55
第9話 S級任務よりも厄介なお仕事
しおりを挟む
翌日、俺はテスラの執務室へと呼び出された。
「昨日は、従姉妹(ミトリ)が迷惑をかけたな」
「俺は楽しかったです。ククルも、友人ができたみたいで喜んでいましたよ」
「うむ。そうか。――で、おまえを呼び出したのは他でもない。仕事の話だ。……本来なら、私の経営する会社のひとつでも任せてみようと思ったのだがな。この前の手合わせで気が変わった。多少荒々しい仕事を頼みたい。おまえになら任せられそうだ」
「荒々しい仕事……。ギルドのS級任務でもやりますか?」
ギルドは、この町でも一般的だ。会社や個人が、報酬額と内容の条件を出して、ギルドに依頼する。それらをギルドに登録された『ハンター』と呼ばれる連中が受ける。別に、ハンターになるための資格はいらないのだが、依頼を受けたまま消えられても困るので、登録制にしてある。S級任務となると、ドラゴンの討伐とか、山賊団の壊滅とか、まあ普通の人間では成し遂げられないようなレベルだ。
「いや、それよりも厄介な仕事だ」
「S級よりも厄介?」
「……リークは、イシュフォルト図書館を知っているか?」
「ええ、歴史の授業で習いました。世界でもっとも巨大で偉大な図書館ですよね」
図書館というよりも遺跡だ。文献でしか存在しないと思っていたのが、昨年このシルバンティア領で発見されたのである。
経緯は『偶然』だった。数千年前もの魔法使いたちが、透明化魔法を使って現代に至るまで図書館を見えなくしていたのである。
それを、冒険者が偶然発見し、大勢の魔法使いによって、透明化を解除。世紀の大発見に至ったのだ。俺も機会があったら、見に行きたいと思っていた。
「歴史的建造物ゆえに、そのままにしておくつもりだったのだがな。所蔵してある本が、どれもすばらしく、諸国の学生や学者が閲覧したいと言ってきた。だが、クザンガ山という険しい立地ゆえに、往来にも不便。なので、このたび陛下の命によって、移転することになった」
「国王陛下から?」
国王陛下グラリオン・ラシュフォール。この大陸全土を束ねる最大権力者である。同時に世界最強の魔法使いとも言われている。俺なんか、きっと足下にも及ばないんだろうなぁ。
「ああ、このバルティアの町に大規模な図書館を建築し、イシュフォルトに所蔵してあるすべての本を運べとのお達しだ。――まったく、陛下の気まぐれも困ったものだよ。図書館建築も、本の移動の費用も、すべてこちらが負担せねばならないのだから」
苦笑するテスラ。
「俺の仕事は、その本の輸送ですか?」
「いや、そっちの方は問題ない。――おまえには別の仕事をやってもらう」
「別の仕事?」
「うむ。シルバリオル学院の生徒たちが、図書館の占拠をしてしまったのでな。そいつらとの和解を頼みたい」
シルバリオル学院とは、テスラの祖父が、若い魔法使いを育てるために創設した名門学校。超絶エリートの集まるところだ。
図書館発見から現在に至るまで、所蔵本の研究検査を名門シルバリオル学院に委託していた。だが、本の移動を告げると、強い反対があったそうだ。国王陛下の命令だと言っても首を縦に振らず、そのまま図書館を占拠。居座ってしまったらしい。
「なぜ、彼らは拒んでいるのですか?」
「連中は、建物と書物が揃ってこそのイシュフォルト図書館――つまり、遺跡的な価値や芸術的価値があると信じている。事実、私も見に行ったが、圧巻の一言だ。要塞のような建物の中に、1億冊にも届く本が収められている。感動すら覚えるぞ」
「1億冊……想像もできませんね」
「数は44名。リーダーは学院の教授ファンサだ。悪い奴らではない。歴史や文学への愛が強すぎるあまり、此度のような蛮行に走っただけだ。しかし、やっていることは国王陛下への謀反。あまり大事にしたくない」
ファンサが要求するのは、図書館の完全な保全。要するに、本を一冊たりとも移動させたくないということ。国王の命令に背いているのだ。これが知られたら、とんでもない咎めを受けるだろう。
もちろん、テスラがそれを承諾できるわけもない。だが、同時に彼女たちを反逆人にしたくないわけで、大事になる前に内々で収めたいようだ。
「交渉は?」
「何度も文を送っている。だが、お互いに妥協点はない」
「直接会いにいかないのですか?」
「行ったが、門前払いだ」
「テスラ様なら、力尽くで鎮圧できるのでは?」
「……この力を領民に向けたくない。嫌われるのは構わんが、領主が力尽くで捻じ伏せたとなれば、民に不安が広がる。それは最後の手段である」
「だから、俺にやれ、と?」
「そういうことだ」
「じゃあ、多少、怪我人が出てもいいということですか?」
「出ないにこしたことはない。だが、それらも含めて、おまえに任せる。言っておくが、シルバリオル学院の生徒は手練れだぞ。特に、ファンサは天才だ――」
要するに、自分ではできないことを俺にやれと言うことか。交渉が上手くいけば儲けもの。不可能ならば戦闘もやむなし。
「新参のおまえに任せる以上、結果がどうなっても文句は言わん。ただし、絶対に死人だけは出すな」
「結構、厳しい要求ですね」
「なにを言っている。おまえの実力なら、そう難しいことじゃないはずだ。頼むぞ」
そうなのかな? たしかに強い自覚はあるけど、相手はエリート学生だし、もしかしたら俺クラスの魔法使いもいるんじゃないかな?
「昨日は、従姉妹(ミトリ)が迷惑をかけたな」
「俺は楽しかったです。ククルも、友人ができたみたいで喜んでいましたよ」
「うむ。そうか。――で、おまえを呼び出したのは他でもない。仕事の話だ。……本来なら、私の経営する会社のひとつでも任せてみようと思ったのだがな。この前の手合わせで気が変わった。多少荒々しい仕事を頼みたい。おまえになら任せられそうだ」
「荒々しい仕事……。ギルドのS級任務でもやりますか?」
ギルドは、この町でも一般的だ。会社や個人が、報酬額と内容の条件を出して、ギルドに依頼する。それらをギルドに登録された『ハンター』と呼ばれる連中が受ける。別に、ハンターになるための資格はいらないのだが、依頼を受けたまま消えられても困るので、登録制にしてある。S級任務となると、ドラゴンの討伐とか、山賊団の壊滅とか、まあ普通の人間では成し遂げられないようなレベルだ。
「いや、それよりも厄介な仕事だ」
「S級よりも厄介?」
「……リークは、イシュフォルト図書館を知っているか?」
「ええ、歴史の授業で習いました。世界でもっとも巨大で偉大な図書館ですよね」
図書館というよりも遺跡だ。文献でしか存在しないと思っていたのが、昨年このシルバンティア領で発見されたのである。
経緯は『偶然』だった。数千年前もの魔法使いたちが、透明化魔法を使って現代に至るまで図書館を見えなくしていたのである。
それを、冒険者が偶然発見し、大勢の魔法使いによって、透明化を解除。世紀の大発見に至ったのだ。俺も機会があったら、見に行きたいと思っていた。
「歴史的建造物ゆえに、そのままにしておくつもりだったのだがな。所蔵してある本が、どれもすばらしく、諸国の学生や学者が閲覧したいと言ってきた。だが、クザンガ山という険しい立地ゆえに、往来にも不便。なので、このたび陛下の命によって、移転することになった」
「国王陛下から?」
国王陛下グラリオン・ラシュフォール。この大陸全土を束ねる最大権力者である。同時に世界最強の魔法使いとも言われている。俺なんか、きっと足下にも及ばないんだろうなぁ。
「ああ、このバルティアの町に大規模な図書館を建築し、イシュフォルトに所蔵してあるすべての本を運べとのお達しだ。――まったく、陛下の気まぐれも困ったものだよ。図書館建築も、本の移動の費用も、すべてこちらが負担せねばならないのだから」
苦笑するテスラ。
「俺の仕事は、その本の輸送ですか?」
「いや、そっちの方は問題ない。――おまえには別の仕事をやってもらう」
「別の仕事?」
「うむ。シルバリオル学院の生徒たちが、図書館の占拠をしてしまったのでな。そいつらとの和解を頼みたい」
シルバリオル学院とは、テスラの祖父が、若い魔法使いを育てるために創設した名門学校。超絶エリートの集まるところだ。
図書館発見から現在に至るまで、所蔵本の研究検査を名門シルバリオル学院に委託していた。だが、本の移動を告げると、強い反対があったそうだ。国王陛下の命令だと言っても首を縦に振らず、そのまま図書館を占拠。居座ってしまったらしい。
「なぜ、彼らは拒んでいるのですか?」
「連中は、建物と書物が揃ってこそのイシュフォルト図書館――つまり、遺跡的な価値や芸術的価値があると信じている。事実、私も見に行ったが、圧巻の一言だ。要塞のような建物の中に、1億冊にも届く本が収められている。感動すら覚えるぞ」
「1億冊……想像もできませんね」
「数は44名。リーダーは学院の教授ファンサだ。悪い奴らではない。歴史や文学への愛が強すぎるあまり、此度のような蛮行に走っただけだ。しかし、やっていることは国王陛下への謀反。あまり大事にしたくない」
ファンサが要求するのは、図書館の完全な保全。要するに、本を一冊たりとも移動させたくないということ。国王の命令に背いているのだ。これが知られたら、とんでもない咎めを受けるだろう。
もちろん、テスラがそれを承諾できるわけもない。だが、同時に彼女たちを反逆人にしたくないわけで、大事になる前に内々で収めたいようだ。
「交渉は?」
「何度も文を送っている。だが、お互いに妥協点はない」
「直接会いにいかないのですか?」
「行ったが、門前払いだ」
「テスラ様なら、力尽くで鎮圧できるのでは?」
「……この力を領民に向けたくない。嫌われるのは構わんが、領主が力尽くで捻じ伏せたとなれば、民に不安が広がる。それは最後の手段である」
「だから、俺にやれ、と?」
「そういうことだ」
「じゃあ、多少、怪我人が出てもいいということですか?」
「出ないにこしたことはない。だが、それらも含めて、おまえに任せる。言っておくが、シルバリオル学院の生徒は手練れだぞ。特に、ファンサは天才だ――」
要するに、自分ではできないことを俺にやれと言うことか。交渉が上手くいけば儲けもの。不可能ならば戦闘もやむなし。
「新参のおまえに任せる以上、結果がどうなっても文句は言わん。ただし、絶対に死人だけは出すな」
「結構、厳しい要求ですね」
「なにを言っている。おまえの実力なら、そう難しいことじゃないはずだ。頼むぞ」
そうなのかな? たしかに強い自覚はあるけど、相手はエリート学生だし、もしかしたら俺クラスの魔法使いもいるんじゃないかな?
0
あなたにおすすめの小説
『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~
鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。
そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。
母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。
双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた──
前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる