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第15話 特徴のある頭対決
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なんとか警察官からの逃走に成功する京史郎。その後、彼は茶縞通りのバランタイナという店へと向かった。
「へえ、マジで存在したのか」
駅前の茶縞通りは飲食街だ。昼間は、数店のラーメン屋がのれんを掲げているだけなのだが、夜になるとネオンが主張し始め、仕事帰りのサラリーマンの憩いの場所になる。個人店舗が多く、地元からも愛されている。
「この御時世に新築とは、やる気が感じられるな。ドアは……開いてるみたいだが……」
喫茶店のようなベルが鳴る。一階は、バーを経営しているらしい。シックな雰囲気で、広い割には高級感もある。これなら、ライブのない日でも売り上げが見込めるだろう。ステージは地下だろうか。
「お、いいウイスキーが揃ってんじゃん。ラフロイグにアードベッグ。青いジョニーもある」
棚に並んでいる酒を見て、テンションが上がる京史郎。
「――ウイスキーがお好きですか?」
地下の階段から、足音と一緒に穏やかな声がやってくる。
「あんたが店主か?」
マスターという表現は似合わないか。かといって、その女性はママと呼ぶほど歳がいっているようにも見えない。
「ええ、暮坂蒼ともうします」
夜会巻きの、いかにも女将といった風な着物姿の女性。ほのかに幼さの残る顔は、二十代前半を思わせる。だが、落ち着いた雰囲気からは、人生経験豊富な三十代を思わせる。
「榊原京史郎だ。芸能事務所をやってる」
名刺を交換するふたり。
「芸能事務所の社長さんですか……」
「この辺りに、期待のニュースポットができるって聞いたもんでな。挨拶しにきたんだ。これ、つまらねえものだが」
途中のスーパーで買った菓子折を渡す京史郎。
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、ぜひともごひいきに。――本当でしたら、ウイスキーの一杯も御馳走したいのですが、なにぶん来客中でしたので」
「そいつは邪魔したな。んじゃ、用件だけ。――近いうちに、うちのアイドルがデビューライブをやるもんで、会場を探してるんだ」
「それはちょうどいいかもしれませんね。ただし、うちは真っ当なライブハウスですので……そのアイドルは、口から火を吹いたり、急に脱ぎ出したりはしませんか?」
「クリーンなライブハウスなら、ウチみたいなクリーンなアイドルとピッタリだ。国営放送でも通用するようなメンバーばかりだからな」
京史郎の頭を見て、拒絶反応を起こさないとこを見ると、彼女は余所者だろうか。この町の人間なら、京史郎を知らない奴はいない。余所者なら、悪い噂が耳に入る前に仲良くなるか、契約してしまった方がいいと思ったのだが――。
「――なにやら懐かしい声が聞こえるなぁ」
ふと、地下への階段の奥から、野太い声が聞こえてくる。上がってきたそいつを見て、京史郎は苦い笑みを浮かべ、皮肉を飛ばす。前言撤回だ。
「……なにが真っ当なライブハウスだよ」
現れた男の、岩石の如き無骨な顔には、猫の大群と喧嘩をしたかのような傷が無数に迸っている。頭のてっぺんというてっぺんまで見事にハゲあがっており、照明の光を煌びやかに反射していた。その眩しさが、見る者の眼球を激しく損傷させる。身体が無駄にでかいのは、無駄な筋肉を付けるために、無駄な時間を費やしているからだろう。似合わない青スーツを纏っているのは、いずれくる水中戦での迷彩効果を狙ってのことである。要するに、外見からして馬鹿丸出しなのだ。
「京史郎。死んだものだと思っていたぜ」
明らかに極道のその男は、京史郎に対して悪意ある笑みを浮かべた。
「誰だッ? くそっ! ハゲ頭が眩しくて直視できねえ!」
「……相変わらず口が悪いな。堅気ンなったんなら、少しは態度を改めろ」
親しげに言葉を交わす京史郎と巨漢を見て、暮坂がきょとんとした顔で尋ねた。
「伊南村さんのお知り合いですか?」
「この野菜は、柄乃組に潰された、城島組の下っ端だよ」
柄乃組。それは、京史郎の所属していた城島組と敵対関係にあった組織。伊南村直之は、柄乃組の若頭である。要するに組織のナンバー2だ。
立場は違えど、双方が組織のキーマンである。お互いが目の上のコブであるという認識はあった。京史郎は、柄乃の構成員を何人も病院送りにした。それでも柄乃組が覇権を握ったのは、若頭である伊南村が精力的に動いたからである。
城島組にとっては因縁の間柄。昔だったら、この場で殺し合いが始まってもおかしくないほどの関係。もっとも、京史郎はそんな極道時代の因縁を蒸し返す気はないのだが、伊南村が同じ気持ちだとは限らないわけで――。
「で、このルッコラ頭さんは、どういったご用件だ?」
京史郎が答える前に、暮坂が言った。
「このライブハウスを使いたいそうです」
京史郎はバツが悪そうに「あーあ、言われちゃった」と、肩を落とした。
「へえ、マジで存在したのか」
駅前の茶縞通りは飲食街だ。昼間は、数店のラーメン屋がのれんを掲げているだけなのだが、夜になるとネオンが主張し始め、仕事帰りのサラリーマンの憩いの場所になる。個人店舗が多く、地元からも愛されている。
「この御時世に新築とは、やる気が感じられるな。ドアは……開いてるみたいだが……」
喫茶店のようなベルが鳴る。一階は、バーを経営しているらしい。シックな雰囲気で、広い割には高級感もある。これなら、ライブのない日でも売り上げが見込めるだろう。ステージは地下だろうか。
「お、いいウイスキーが揃ってんじゃん。ラフロイグにアードベッグ。青いジョニーもある」
棚に並んでいる酒を見て、テンションが上がる京史郎。
「――ウイスキーがお好きですか?」
地下の階段から、足音と一緒に穏やかな声がやってくる。
「あんたが店主か?」
マスターという表現は似合わないか。かといって、その女性はママと呼ぶほど歳がいっているようにも見えない。
「ええ、暮坂蒼ともうします」
夜会巻きの、いかにも女将といった風な着物姿の女性。ほのかに幼さの残る顔は、二十代前半を思わせる。だが、落ち着いた雰囲気からは、人生経験豊富な三十代を思わせる。
「榊原京史郎だ。芸能事務所をやってる」
名刺を交換するふたり。
「芸能事務所の社長さんですか……」
「この辺りに、期待のニュースポットができるって聞いたもんでな。挨拶しにきたんだ。これ、つまらねえものだが」
途中のスーパーで買った菓子折を渡す京史郎。
「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、ぜひともごひいきに。――本当でしたら、ウイスキーの一杯も御馳走したいのですが、なにぶん来客中でしたので」
「そいつは邪魔したな。んじゃ、用件だけ。――近いうちに、うちのアイドルがデビューライブをやるもんで、会場を探してるんだ」
「それはちょうどいいかもしれませんね。ただし、うちは真っ当なライブハウスですので……そのアイドルは、口から火を吹いたり、急に脱ぎ出したりはしませんか?」
「クリーンなライブハウスなら、ウチみたいなクリーンなアイドルとピッタリだ。国営放送でも通用するようなメンバーばかりだからな」
京史郎の頭を見て、拒絶反応を起こさないとこを見ると、彼女は余所者だろうか。この町の人間なら、京史郎を知らない奴はいない。余所者なら、悪い噂が耳に入る前に仲良くなるか、契約してしまった方がいいと思ったのだが――。
「――なにやら懐かしい声が聞こえるなぁ」
ふと、地下への階段の奥から、野太い声が聞こえてくる。上がってきたそいつを見て、京史郎は苦い笑みを浮かべ、皮肉を飛ばす。前言撤回だ。
「……なにが真っ当なライブハウスだよ」
現れた男の、岩石の如き無骨な顔には、猫の大群と喧嘩をしたかのような傷が無数に迸っている。頭のてっぺんというてっぺんまで見事にハゲあがっており、照明の光を煌びやかに反射していた。その眩しさが、見る者の眼球を激しく損傷させる。身体が無駄にでかいのは、無駄な筋肉を付けるために、無駄な時間を費やしているからだろう。似合わない青スーツを纏っているのは、いずれくる水中戦での迷彩効果を狙ってのことである。要するに、外見からして馬鹿丸出しなのだ。
「京史郎。死んだものだと思っていたぜ」
明らかに極道のその男は、京史郎に対して悪意ある笑みを浮かべた。
「誰だッ? くそっ! ハゲ頭が眩しくて直視できねえ!」
「……相変わらず口が悪いな。堅気ンなったんなら、少しは態度を改めろ」
親しげに言葉を交わす京史郎と巨漢を見て、暮坂がきょとんとした顔で尋ねた。
「伊南村さんのお知り合いですか?」
「この野菜は、柄乃組に潰された、城島組の下っ端だよ」
柄乃組。それは、京史郎の所属していた城島組と敵対関係にあった組織。伊南村直之は、柄乃組の若頭である。要するに組織のナンバー2だ。
立場は違えど、双方が組織のキーマンである。お互いが目の上のコブであるという認識はあった。京史郎は、柄乃の構成員を何人も病院送りにした。それでも柄乃組が覇権を握ったのは、若頭である伊南村が精力的に動いたからである。
城島組にとっては因縁の間柄。昔だったら、この場で殺し合いが始まってもおかしくないほどの関係。もっとも、京史郎はそんな極道時代の因縁を蒸し返す気はないのだが、伊南村が同じ気持ちだとは限らないわけで――。
「で、このルッコラ頭さんは、どういったご用件だ?」
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