女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。

倉紙たかみ

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第35話 女子大生のたしなみ

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 荘厳な門がある。門の隅には監視カメラが一台。いかにも極道の屋敷といったつくりだった。門前には、柄シャツの若い男が気怠そうに佇んでいた。

 そんな彼の前に、ブルーメタリックのバイクが停止する。

「あ? なんだ、おまえ」

 ライダーが、ひょいとバイクから降りる。ヘルメットを取って問いかける。

「よぉ、柄乃組長はいるかい?」

「て、てめえは京史郎ッ! なぜ、おまえ――がふッ!」

 すかさず鳩尾へと蹴りを入れる京史郎。

「いいよ。いるのは知ってんの。スケジュールは調べたし、さっき電話にもでたしね」

 倒れゆくそいつの後頭部をグシャリと踏みつける京史郎。そして、正面の門から堂々と入る。玄関にまで続く石畳の通路。騒動を聞きつけたのか、屋敷の中から何事かと若衆がゾロゾロと現れる。

「な……京史郎ッ? こ、この野郎、カチコミか!」

「組長さんに挨拶しにきたんだ。いやあ、柄乃組長様々だよ。城島の子分だった俺に、新築のライブハウスを使わせてくれるとはなぁ」

「この野郎! ふざけやがって! やっちまえ!」

 若衆が、一斉に向かってくる。中には刃物を持っている奴もいた。

「死ねや、ゴルァッ!」

 容赦なく突いてくる。京史郎はジャケットを被せるようにして放り投げる。ドスによって切り裂かれてしまう――が、視界の塞がった一瞬を利用し、京史郎は姿勢を低くする。

 そいつからは消えたように見えただろう。すかさず足払い。転んだところにストンピングを食らわせる。顔面に。ぐしゃりと気持ちの悪い音がした。

 すぐさま、京史郎は集団の中へと飛び込んだ。あえて囲まれるという愚行。だが、それは京史郎にとって、もっとも戦いやすい形であった。

 正面の敵を叩きのめし、背後からの敵に応対。密集すれば、刃物を振り回すことはできなくなって動きを限定できる。

「がはッ!」「囲め!」「おい、刃物を振り回すな! 危ねえだろうが!」「つ、強いッ!」

 京史郎が最強たる所以はいくつかある。その中でも特筆すべきは『勘』だ。言い換えれば喧嘩においてのセンス。

 理論的に説明するのであれば『観察眼』だ。仕事でも喧嘩でも、自分のコトだけでなく仲間や敵のことも考える。囲まれた状況で、敵がどう動くのか。どういう気持ちでいるのかをリアルタイムで観察する。

 例えば、背後にいる奴は、不意打ちを食らわせたがっている。隙を見せてやれば、ルアーに食いつくブラックバスのように襲いかかってくる。そこにカウンターを食らわせる。敵からすれば、うしろに目が付いているのではないかと錯覚するだろう。

 顔面に攻撃を集中させることによって、ボディをガラ空きにさせるよう誘導する。そういった心理的センスが抜群に上手い。それはもはや『考えて行動している』というレベルではない。考えた時にはすでに終わっている。

 反射にも近い神速の判断は、神速の身体能力によって行われる。それはもはや未来予知とも形容できる。

 連中の一人が拳銃を抜いた。
 京史郎は抜く前に対応していた。

 近くにいた若衆を突き飛ばして相手を怯ませる。そして接近。拳銃を蹴り上げて無力化すると、速やかに叩きのめした。さらに、周囲の連中も制圧。一気に殲滅する。

「思ったよりも数が多いな。ま、それでもマシな方か」

 予定通り、組員の多くは港に向かっているか。あるいはライブハウスを襲撃しているか。

 片づくと、京史郎は倒れている若衆の胸ぐらを持ち上げ、尋問する。

「おい、柄乃はどこだ? ガキの方じゃねえぞ。偉い方だ」

「し、死ね、クソ野郎……」

 顔面めがけて、とどめの一撃を食らわせる京史郎。

 庭の方へと回る京史郎。高い塀に囲まれたそこは、砂利が敷き詰められている。まるで時代劇の白州だ。塀の側には立派な松の木が生え渡っている。

「――京」

 聞き慣れた声で呼び止められた。視線をやると、京史郎は思わず目を丸くした。

「げ!」

 縁側に正座するのは、柄乃夜奈であった。射殺さんばかりの眼光で睨んでくる。

「……ほんま、命知らずやな」

「な、なんでおまえがここにいるんだよ」

「おどれこそ、なんでここにおるんや? 港で決着つけるんやなかったんか?」

 さらに、彼女の背後からその親父が登場する。

「――ガキの考えることなんてお見通しだ」

 老齢でありながら、存在感は圧倒的。並のチンピラなら、凄まれただけで漏らすだろう。

「柄乃組長……。こうして会うのは久しぶりっすね」

「おう、相変わらず派手にやってるじゃないか、え? 城島の緑」

「城島なんて組はもうねえっすよ。誰かさんに解散させられちまったもんで」

「じゃあ、ただの緑だな」

 からからと笑う柄乃組長。夜奈は、ゆっくりと立ち上がった。すると、傍らにあった仕込み木刀を持って、足袋のまま玉砂利の庭園へと降りてくる。

「おとんを舐めたらあかんわ。おどれの計画を全部見抜いてくれた。うちのおらん間にカチコミかけるつもりやったんやろけどな。そうは問屋がおろさへん」

 今回の計画の最大の障害は夜奈だった。極道時代であれば、いつか誰かを殺す日がくるかもしれないと思っていた。それもある意味『箔』だと思えた。

 けど、堅気となったいまは違う。人を殺す覚悟のない京史郎に、柄乃夜奈を殺せるのか――。絶対に避けるべき相手のハズだった。

「柄乃組長。ライブハウスの一件。あんたの力で終わらせてはくれませんかね?」

「知らんな。そのことは、すべて夜奈に任せてある」

「その『夜奈』は、あんたの一言でどうにでも動く。知らないってことはないでしょ」

「俺になんの得がある?」

「ライブハウスの売り上げに貢献できますよ。それに、俺と仲良くした方が、こういったトラブルも少ない」

「おとん。トラブルもなにも、こいつを始末したら仕舞いやんか」

 口を挟む夜奈。木刀から刀身を引き抜き、鞘を放り投げる。白銀の刃がすらりと姿を現した。切っ先が玉砂利に触れ、チリと音を奏でる。

「それもそうだな。――ま、この件は任せると言ったんだ。おまえの好きにしろ」

 縁側にどっかりと腰掛ける柄乃組長。その顔はどこか楽しげだった。

「あーあ。おまえとだけは喧嘩したくなかったんだけどな。愛し合う者同士、喧嘩をするなんてこれほど悲しいことはあるかぁ?」

「誰と誰が愛しおうとるんや? あ? その軽口、すぐに叩けんようにしたるわ」

 手に握るは紛う事なき真剣。殺すために使う武器だ。殺さずが前提なら、木刀を握った方がよっぽど戦いやすい。こいつは、殺すことで決着を付けようとしている。

「死なすで、京」

 向かい合う両雄。
 間合いは十五歩。
 死への距離が十五歩――。

 夜奈が構えた。すると、京史郎は懐から拳銃を取り出す。先刻ぶちのめした若衆から、拝借させてもらった。

「――卑怯とは言わねえよな。そっちもポン刀、握ってんだ」

 間髪入れず、京史郎はトリガーを引く。ただし、夜奈の足元をめがけてだ。あてるつもりなどない。恐怖を煽りたいだけ。そうすることで揺さぶりをかけるつもりだったのだが。

 ――キィン!

 金属のぶつかる音。そして、玉砂利が二箇所弾ける。

「……なにしたんすか、夜奈さん」

「斬ったんや。……なんや、おかしいか?」

「……別におかしくねえよ。女子大生のたしなみだもんな」

 ――やばい。剣道が全国レベルとかいう次元じゃない。昔の数倍強くなってる!
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