女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。

倉紙たかみ

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第38話 別に殺してしまってもかまわんのだろう

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 ――あーあ。うちの社長は何をしてるのかね。

 喧嘩をしながら、和奏は、ふとそんなことを考えた。

 アイドルやっていたはずなのに、なぜ殴り合いをしているのだろう。やっていることは実家の道場と変わりないではないか。いや、自分の意思でやっているぶん、ずっとマシか。

「このっ! ゴリラ女がッ!」

「ボキャブラリーのねえ罵声浴びせてんじゃねえぞ、ドチンピラがぁッ!」

 またひとり、極道だかケツモチしてる暴走族だかわからない敵を殴り飛ばす和奏。倒しても倒しても、一向に数が減らない。倒したら、倒した数だけ、扉の向こうから増援がやってくる。終わりの見えない喧嘩に辟易してくる和奏。

 だが、あきらめたらそこでアイドル終了。やってのけるしかないのだろう。穂織も心音もエミルも、がんばってくれている。

 穂織など、ながらく実戦から離れていただろう。空手の黒帯というだけで、普通のかよわい女子高生でしかないのに、和奏の背中を守ってくれていた。

 心音も、この日のために大量の武器を仕込んでいたようだ。スタンガンだのサバイバルナイフなどを振り回して、必死に自分の身を守っている。

 エミル先生も、逃げてしまえばいいのに、和奏たちの敵を減らそうと奮闘してくれている。

「いい加減、喧嘩も飽きたろうが! そろそろあたしたちに歌わせろやぁぁぁッ!」

 若衆を派手に蹴り飛ばす和奏。ステージから派手に落下し、ゴロゴロと転がっていく。それを視線で追いかけていった先に――見慣れた顔が現れた。

「……こ、この前のタコ坊主……」

「誰がタコだ。ぶっ殺すぞ」

 夜奈と一緒にいたヤバい奴。名前はたしか伊南村だったか。本来であれば、タコだの坊主だの言えるような相手ではないのだが、興奮している和奏は、見たままの姿をダイレクトに言ってしまった。

「い、伊南村だ……」「バカ! 呼び捨てにするな! 殺されるぞ!「誰……?」「ヤクザの幹部だよ!」「元プロレスラーで、虎と戦ったことあるって」「こ、怖い顔……」

 伊南村は周囲を眺める。部下の情けない姿を見ると、あきれるように溜息をついた。

「これはどういうことだ?」

 部下に問いかける伊南村。

「す、すいません! け、けど、あいつら強くて……」

「ヘラヘラしてんじゃねえ。――おら、囲め」

 手下たちが一斉に和奏たちを取り囲む。彼女たちは背中を合わせるように密集する。

「ううっ……怖いですぅ」

 心音が萎縮してしまっている。エミル先生も弱気だ。

「いやあ、まいったね。あのツルピカ頭の人……強いよねぇ。勝てるかな」

「安心しろ。みんなはあたしが守るから」

 和奏は強がりをつぶやいて、伊南村を見据えた。ゴキゴキと肩を慣らしながら、暴虐スキンヘッドが口を開く。

「おまえら、京史郎がなにをしたか知ってるか?」

 減らず口で返す和奏。

「知らねえっすよ。忙しいからこられないとは聞いてますけどね」

「あいつは、越えちゃならねえ一線を越えた。もう、許すことはできねえんだ」

「その怪我、うちの社長にやられたんすか?」

 返事はしない。が、事実なのだろう。バツが悪そうに舌打ちをする伊南村。

「おい、この女どもを半殺しにしろ」

 若衆が一斉に襲いかかってくる。

「ずあらぁッ!」

 和奏はぶっきらぼうに殴り飛ばし、すぐに次の敵へと備える。

「和奏ちゃん!」

 背後から襲いかかる敵。その横腹に前蹴りを食らわせる穂織。

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁッ!」

 心音がスタンガンを押し当てると、手下は凄まじい悲鳴を上げながら黒焦げになる。

 伊南村が襲いかかってくる。丸太のように太い足でのヤクザキック。和奏はすかさず防いだ。だが、重いその一撃は和奏をガードごと派手に吹っ飛ばす。

 すさまじい馬力だった。和奏の体重など、まるでないかのようだ。観客に受け止められる和奏。心配そうな声をかけられるも、ファンサービスをしている余裕もないので、ぶっきらぼうにふりほどく。

「はあ、はあ。――悪い。あ、これちょうだい」

 客のひとりがオレンジジュースを持っていたので、奪って一気に喉へと流し込む。空になったペットボトルを突き返す。その客は、なんだか嬉しそうだった。

「うげ……血の味しかしねえ」

 口の中をもんで、オレンジと血が一体となった液体を吐き出す和奏。

「どんなもんかと思ったが、たいしたことねえな」

 伊南村が厳つい顔で睨みながら言った。

「はあ、はあ。――あんたは、そのたいしたことない奴にやられるかもしれねえっすよ」

 再び向かっていく和奏。こういうガタイのいい相手には、強烈な一撃を顔面にお見舞いするしかない。中段と下段への蹴り。意識を下半身に向けておいて、不意打ちのハイキック。

 思惑は成功。和奏の全力の蹴りが顔面に炸裂。――だが。

「軽いな」

 ガシリと足首を掴まれる。

 ――あれ、デジャヴ? これ、エミル先生がやられた時と同じパターンだ。

 うん。完全にしくじった。

 宙吊りにされ、そのボディに強烈な豪腕《パンチ》を叩き込まれる。

「がッ――ふっ!」

 胃の逆流を感じた。いや、ゲロよりも血を吐きたい気分だ。身体を床へとバウンドさせるように吹っ飛び、ぐったりと横たわる。

「和奏ちゃん! くっ! 邪魔だぁ!」

 組員を蹴散らす穂織。けど、カシラの邪魔はさせまいと、必死で妨害してくる。

「……くそ……あのタコ坊主、強え……」

 和奏は仰向けになったまま、ぼんやりと天井を見上げていた。強いと言っても女。体格の差というのは、喧嘩において大きなアドバンテージとなる。いかに技術があっても、届かぬ頂があることを思い知る。

 ――策が思いつかない。

 ふと、横たわる和奏に、とある人物が影を落とす。

「情けないな――」

「な……なんだ、じいさん」

 まったく面識のない、心当たりもない謎の老人だった。いや、正確には顔が認識できない。帽子を深く被って、マスクをしているのだから。

「……秋野流とはそんなものか?」

「な……どういうことだ?」

「さっきから見ていた。みっともない動きだ。感情のあまりに我を忘れ、ただただ目の前の敵を倒そうとしている。そこに空手はあったか?」

 冷静になって考えてみれば、無駄に力を暴走させ、空手ではなく暴力を振るっていた。

「我を見失うな。おまえの本質は空手のハズだ。空手は、相手を効率よく倒すための武術。雑になるな。未熟者が」

「あたしの……本質……? あたしのなにを知っているんだ。あんた、誰なんだよ!」

「だ、誰でもよかろう! ――おまえのすべきことは、あの鉄球頭を倒すことではないのか?」

「簡単に言ってくれるぜ……。見たろ? 顔面に蹴りを食らっても、ビクともしねえんだぞ。うちの親父はボンクラで、教えるのがヘタクソだから、巨漢を倒す技を教えてくれなかったんだよ。いや、たぶん知らねえんだ。バカだかぐぼうげはッ!」

 謎のじいさんの、いきなりのストンピング。和奏の腹部に叩き込まれる。胃の中の血がさらに逆流。衣装を真っ赤に染める。

「どういう教育を受けたかは知らんが、親は敬うものだ」

「お、おす……」

 やれやれと溜息をつき、老人は語る。

「――秋野流の強さは実戦にある」

 知っている。スポーツではなく実戦のための空手。喧嘩のための空手。いや、相手を潰し再起不能にする空手。試合の場ではフェアだが、その精神性が相手を圧倒する。

「だが、秋野流には、その先がある」

「その先……」

 初めて聞いた秋野流のネクストステージ。

「本来なら、わし――じゃなくて、偉大なる秋野大和の許しがあるまで教えてはならんのだがな。ま、跡継ぎのおまえになら教えてもよかろう」

「はは、ありがてえが、あたしは跡継ぎになる気はないぜ。あんなクソ親父のごふぁッ!」

 さらに、腹部へのストンピング。こいつ、親切を装った柄乃の手下じゃねえのかッ?

「秋野流の終着点――それは、殺しのための空手だ」

「こ、殺し……?」

 勝つのではない。倒すのではない。再起不能にするのでもない。殺すことを前提に挑むことこそ、秋野流の本質だと老人は語る。

「相手を殺してもいいという考えが、己の限界を越えさせる。そして、相手に恐怖を与えることができる」

 不殺の解除。それは、眼球を抉り、鼓膜を破壊し、心臓を潰せということか? そんな、和奏には思いもしなかったことを、この老人はやれというのか?

「だが、こんな理屈を若いうちに教われば、まあ、ロクな事にならん」

 だからこそ、道場の主である秋野大和は、自信が認めた弟子にしか語らないらしい。

「おまえに、あのボウリング頭を殺す覚悟はあるか?」

「あ、あるわけねえだろ!」

「だろうな。――だが、おまえが本気で殺そうとしても、あいつは死なんだろう」

「は?」

「察しの悪い娘だ。殺そうとしても死なんのなら、殺す気でやっても構わんということだ。今日、この時だけ……それを許してやる」

「あ、あんたはいったい……」

「無駄口は終わりだ。友達が助けを求めておるぞ」

 ――そうだ。暇なジジイとダベっている暇はなかった。

 和奏は血でべとべとになった口元を拭い、ゆらりと立ち上がった。

「殺してしまっても構わねぇんだな?」

         ☆

 和奏を見送ると、大和のもとに、先刻の謎のじいさんが寄ってくる。

「くくっ、聞いてたぜ。大和の旦那。いいのかい? 道場主としてのあんたが『殺していい』なんて言葉を使ってよぉ」

「また、あんたか。……構わん。どれだけ和奏に殺意があっても、あの饅頭頭は死なん」

「そういうもんかね」

「伊南村という男、ただの悪党ではない。顔つきを見ればわかる。並大抵ではない鍛錬を積んでいる」

 殴られることを恐れていない。一挙一動が重い。おそらく、プロレスを経験しているのだろう。いや、経験というレベルではなく、しっかりとモノにしている。規格外のタフさとパワーは、そこらの喧嘩自慢とはレベルが違う。

「あんたも人の親だねぇ。くくっ」

「ふん。和奏がどうなろうと知ったことではない。身から出た錆だ」

「じゃあ、なんで声をかけてやったんだい?」

「伊南村という男が気に入らんからだ。いい歳して女子供を虐めておる。だから、和奏をけしかけているだけだ。わしが出て行ったら話が拗れるだろう。ただでさえ、うちの道場は『えんじょう』しているのだからな」

「くくっ。その虐められている女子供に、自分の娘も含まれているわけだ。そりゃ、懲らしめてやりたくもなるわなぁ。うんうん。いやあ、見直したぜ秋野の旦那」

「……さっきから、いったいなんなんだ。おまえは」

「言ったろ? 息子の晴れ舞台を見にきたら、すっぽかされた哀れなジジイだってよ」
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