女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。

倉紙たかみ

文字の大きさ
40 / 44

第40話 トマト

しおりを挟む

「これが秋野流の空手だ」と、残心をとる和奏。静かになった。誰もが、和奏の勝利と伊南村の敗北を理解するのに、時間がかかっているようだった。

「あのデカいヤクザを倒しちまったよ」「やばいんじゃない?」「うっわ、マジ惚れそう」

 動かなくなった伊南村を見て、和奏は安堵の溜息をついた。

「は、はは。やった」

 ――けど、まだやることがある。和奏は、肩で息をしながら、弾かれた警棒型スタンガンを拾い上げる。再度スイッチを起動。バチバチと音を迸らせる。

「おい! ちょっと待て! おま、おまえ! カシラに何をする気だ!」

 残党と化した構成員が、慌てて声を飛ばした。

「何って決まってんだろ。こいつの息子を黒焦げにする」

「やめろ! やめてあげてくれ!」「やったら殺すぞ!」「なんでそこまでするんだよ!」「和奏ちゃん、それぐらいにして置いた方がいいんじゃないかな?」「和奏先輩、怖い」

 なんか、仲間からも野次が飛んできた。

「けど、これが秋野流だからなぁ」

「違うと言っているだろうが!」「まあまあ、旦那。そう興奮しなさんなって」

 先刻のじいさんが怒鳴り散らしている。さすがに戦いの最中に殺すのと、決着後に殺すのは違うか。再起不能にすべきだと思う和奏であったが、今後も伊南村という人間と関わりがないとも限らない。弱点は消滅させない方がいいのかもしれない。

「けど、決着かな。大将がこれじゃあねえ……」

 くすくすと笑いながら、穂織が言った。けど、彼女の思惑通りには行かなかったようだ。

「や、野郎……よくもカシラを」「冗談じゃねえ、女子高生に舐められてたまるかよ」

 逃げ帰ってくれるとばかり思ったのだが、予想以上に気骨のある奴らばかりだったようだ。連中が叫びながら和奏に向かってくる。

「うっわ、マジかよ……」と、ぼやく和奏。

 ――その時だった。聞き慣れた声が、彼らの動きを止めた。

「――よう――」

 それはチンピラの罵声に比べれば、極小さな声であった。けど、誰もがその方向へと視線を向ける。フロアの正面門。解放されたその扉から、そいつは現れた。

「ちゃんとライブやってっか?」

 柄乃組の若衆たちの眼球が、飛び出るかのように丸くなる。

「京さん!」

 いち早く駆け寄ったのは心音だった。顔面を鷲掴みされるように侵攻を食い止められるも、彼女は嬉しそうに「きゃー」と、腕をバタバタさせている。

「あ、あれが京史郎……」「すっげえ血。真っ赤だ。まるでトマト…………」「城島の弔いかな」「……おいら、まだ死んでねえんだけど」

 京史郎は、心音を引きずりながらゆっくりと和奏の方に寄ってくる。

「なんで、揃いも揃ってアイドルが血まみれになってんだよ」

「カラフルな方が人気出ると思ったんすよ。社長こそ、こられないとか言ってませんでした?」

「サボってねえか確認しにきたんだ。――で、ライブの方はどうなってる?」

 京史郎は、柄乃組の連中を無視して、楽しげに会話を続けた。

「そうっすねえ。曲はともかく、ま、一段落付いたんで、あとはアンコール待ちっすかね。お客さんのリクエストがあればね。シンドイけど」

「アイドルが、客の前で弱音吐いてんじゃねえよ」

 京史郎は、周囲を見回す。そして、打ち上げるように叫んだ。

「暮坂ぁッ!」

 彼女はステージの袖から姿を現した。

「何か御用ですか、京史郎さん」

「曲を流せ」

 そう言いつけると、柄乃の残党が吠え始める。

「ふざけんな! カシラをこんな目に遭わせて、そんなことが許されるわぎゃッ!」

 言い終わらないうちに、京史郎の裏拳を食らって吹っ飛んでいく残党。

「暮坂。曲を流せ。てめえの仕事だ」

 暮坂蒼は、笑いもせず怒りもせず、言の葉を滑らせる。

「……かしこまりました。リクエストは?」

「シュルーナ。グループの名前にもなってるアレだ。二番目に流す予定の」

「うげ! あれ、すっげえ運動量っすよ! マジ勘弁!」

「死んでもライブは続けろ。それがアイドルってもんだ。おら、行け」

 和奏は「ちぇ」と、舌打ちをしてステージに戻る。穂織も心音も、嬉しそうに戻った。

 すでに満身創痍。誰もが疲弊していた。けど、不思議と嫌な気分ではなかった。ようやく舞台が揃ったのだから。あとは、和奏は最高のパフォーマンスを見せつけるだけ。

 前奏が始まった。和奏たちは、お互いが顔を見合わせて、深く頷いた。たったその一挙動で、呼吸とリズム、そして心をかよわせる。

「ライブを再開しまーす。最後の一曲です! みなさん、盛り上がってくださいね!」

 心音が、楽しげに叫んだ。すると、柄乃組の連中妨害しようとしてくる。だが、そいつらは京史郎によって叩きのめされていた。

「気にせず盛り上がっていいぞ。ゴミ掃除は俺がやっとく」

 死ぬ気で勝ち取ったライブ。和奏は歌い。踊る。衣装は血まみれだった。頭から血が流れていた。けど、その顔はとても晴れやかで嬉しそうだった。穂織も歌った。満足げな表情で。そして心音も囀る。

 彼女たちの歌声をバックミュージックに、京史郎が拳を振るう。柄乃組の残党を、楽しげに叩きのめしていく。観客も、怯える必要などなくなったと安堵したのだろう。気がつけば、会場は激しく盛り上がっていた――。

 曲を歌い終える頃。柄乃組の残党はひとりとして立っていなかった。客は、シュルーナのライブを、もっと見たいと思ったのだろう。さらなるアンコールが鳴り止まなかった。

 けど、この曲を歌いきったあと、秋野和奏は操り人形の糸が切れたかのように、ステージへと倒れたのであった――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...