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第41話 注文の多い極道
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ライブは大成功に終わった。
ありえないほどのトラブルに見舞われたバランタイナのライブだったが、客たちはこれまでにないスリリングな体験をしたということで満足していた。
当然、あれほどの騒ぎになって、話題にならないわけがなく、ネットやSNSでも取り上げられていた。
一気に知名度を上げたバランタイナは、連日のように大盛況となる。ライブをやればチケットは即日完売。ライブのない日でも、バーとして人気がある。
もっとも、客が望んでいたのは、シュルーナというアイドルグループだったのだが、しばらく公演はなさそうであった――。
五月某日。京史郎は、料亭『柏木一茶』へときていた。門をくぐると、部屋には案内されず、庭の見える縁側へと通される。すると、そこには知った顔がいた。
――城島剛鬼。城島組の元組長であり、京史郎が親父と呼ぶその人だ。
「おう、京史郎。きたか」
「……美味い飯を食わせてくれるってんでな」
実際、呼び出されたのは、そのような穏やかな理由からではない。ライブハウスの一件。決着が付いたようで、実のところはそうでなかった。
喧嘩の勝ち負け以前に、京史郎がカチコミを仕掛けたことに代わりはない。組としての面子は完全に潰れている。要するに、なんらかの形でオトシマエをつけなければ、終われないのである。
しかも、事件が大きくなりすぎた。柄乃組のさらに上――本家の神桜会が知ることとなり、柄乃組だけの問題ではなくなっていた。
というわけで、元親父である城島を経由しての呼び出し。釈明の場を設けることになった。断れば、柄乃組か神桜会に京史郎は消されることになるだろう。
「柄乃は?」
「まだきてねえよ。……とりあえず、座れや」
京史郎は、彼の隣にどっかりと胡座をかく。黙っていると、城島がポツリポツリと話し始める。
「おまえもバカなことをしたもんだな」
説教されているようだが、城島の表情は明るかった。
「……親父にゃ迷惑かけた」
「よく言うぜ。こういうことになるの、わかってたろ?」
京史郎が極道を相手にすれば、どうしても城島の影はちらつく。堅気になった身とはいえ、端から見れば、柄乃の因縁が発端ではないかと思われて当然だ。迷惑がかかることを、京史郎は十分わかっていた。
「なあ、京史郎。今回の件よぉ。もしかしておいらのためにやったのかい?」
「……んなわけねえだろ。うぬぼれるにもほどがあるぜ。解散ってのは、親子の縁もなにもかも終わってるってコトだろ」
「その割には、親父って呼び続けてるじゃねえか」
「前に言ったろ。その呼び方しか知らねえってよ。それとも、ジョージって呼んだ方がいいか?」
「おまえの勝手だ。好きに呼びゃあいい」
「そうさせてもらうぜ。親父」
再び沈黙。その沈黙を挟んで、話題が切り替わる。
「おめえ、いくら持ってきた?」
金の話だ。無一文で終わらせられると思っているなら、それこそ神桜会と柄乃組を舐めていることになる。相応の金を用意しなければ、向こうの溜飲も下がるまい。いや、溜飲というよりもメンツの問題である。
「200」
「寄越せ」
京史郎は、懐から分厚い封筒を抜いて差し出す。城島は金を受け取って側に置いた。
城島が「おい」と、少し声を張る。背後のふすまが開いて、黒服が現れた。彼は、京史郎と城島の間に黒いバッグを置いていった。
「そいつをくれてやる」
「鰐皮か? 成金みたいで俺の趣味じゃねえ」
「気に入らなけりゃ売っちまえよ。ただし、中身は抜いとけ」
「……いくら入ってんだ?」
「1000。神桜会に700。柄乃に300だ」
京史郎では十分に用意できないと踏んで、彼は身銭を切ってくれたようであった。
「引っ込めろ。恩を売って、俺に老後の面倒を見させようなんざ、冗談じゃねえ」
「この話を纏めなきゃ、おいらまで伊勢湾に沈められちまうかもしれねえんだ。黙って受け取れ。バカヤロウ」
そう言われると、京史郎は拒否できなかった。
「……金はいずれ返す」
「いらねえよ。どうせ死ぬまでに使い切れるとは思ってねえ。そんかし、シュルーナのライブのチケットを用意しろ。毎回だ。この前、見に行ったんだが、なかなか面白かった」
「は? もしかして、あの場にいたのか?」
「おう。ファンになった。頼むぜ。二枚だ。新しいダチもできたもんでな」
城島は、嬉しそうにからからと笑った。先程の黒服が戻ってくる。
「――親父。あと少しで、会長と柄乃が到着するようです」
それを聞いた城島は「おう」と返事をした。黒服から杖を受け取って、ゆっくりと立ち上がる。京史郎も追随する。
「そうだ。京史郎」
「なんだ?」
次の瞬間。城島の杖が振るわれる。T字になった部分が京史郎の頬を打つ。
「がッ!」
「……おいらも歳かねえ。……おら、持ってろ」
黒服に杖を渡すと、城島は京史郎の顔面を思い切り殴る。二度、三度。
「疲れた。おい、もう少し京史郎をボコっとけ」
城島が、黒服に命じる。すると、黒服は嬉しそうに拳を鳴らし、京史郎の顔を殴りつけた。そして、京史郎はそれを甘んじて受けるのだった。そんなバイオレンスな光景を眺めながら、城島は思い出したようにいう。
「そういや、今回の会合だが……柄乃がひとつだけ注文を付けてきた」
「はあ、はあ……。なんだって?」
「なんでも『絶対に笑うな』だ、そうだ。おまえのヘラヘラした態度が気に入らないのか知らねえが、やっこさんも真剣だったからな。笑ったら切り刻んで魚の餌にするそうだ。いいか? ――なにがあっても笑うんじゃねえぞ」
ありえないほどのトラブルに見舞われたバランタイナのライブだったが、客たちはこれまでにないスリリングな体験をしたということで満足していた。
当然、あれほどの騒ぎになって、話題にならないわけがなく、ネットやSNSでも取り上げられていた。
一気に知名度を上げたバランタイナは、連日のように大盛況となる。ライブをやればチケットは即日完売。ライブのない日でも、バーとして人気がある。
もっとも、客が望んでいたのは、シュルーナというアイドルグループだったのだが、しばらく公演はなさそうであった――。
五月某日。京史郎は、料亭『柏木一茶』へときていた。門をくぐると、部屋には案内されず、庭の見える縁側へと通される。すると、そこには知った顔がいた。
――城島剛鬼。城島組の元組長であり、京史郎が親父と呼ぶその人だ。
「おう、京史郎。きたか」
「……美味い飯を食わせてくれるってんでな」
実際、呼び出されたのは、そのような穏やかな理由からではない。ライブハウスの一件。決着が付いたようで、実のところはそうでなかった。
喧嘩の勝ち負け以前に、京史郎がカチコミを仕掛けたことに代わりはない。組としての面子は完全に潰れている。要するに、なんらかの形でオトシマエをつけなければ、終われないのである。
しかも、事件が大きくなりすぎた。柄乃組のさらに上――本家の神桜会が知ることとなり、柄乃組だけの問題ではなくなっていた。
というわけで、元親父である城島を経由しての呼び出し。釈明の場を設けることになった。断れば、柄乃組か神桜会に京史郎は消されることになるだろう。
「柄乃は?」
「まだきてねえよ。……とりあえず、座れや」
京史郎は、彼の隣にどっかりと胡座をかく。黙っていると、城島がポツリポツリと話し始める。
「おまえもバカなことをしたもんだな」
説教されているようだが、城島の表情は明るかった。
「……親父にゃ迷惑かけた」
「よく言うぜ。こういうことになるの、わかってたろ?」
京史郎が極道を相手にすれば、どうしても城島の影はちらつく。堅気になった身とはいえ、端から見れば、柄乃の因縁が発端ではないかと思われて当然だ。迷惑がかかることを、京史郎は十分わかっていた。
「なあ、京史郎。今回の件よぉ。もしかしておいらのためにやったのかい?」
「……んなわけねえだろ。うぬぼれるにもほどがあるぜ。解散ってのは、親子の縁もなにもかも終わってるってコトだろ」
「その割には、親父って呼び続けてるじゃねえか」
「前に言ったろ。その呼び方しか知らねえってよ。それとも、ジョージって呼んだ方がいいか?」
「おまえの勝手だ。好きに呼びゃあいい」
「そうさせてもらうぜ。親父」
再び沈黙。その沈黙を挟んで、話題が切り替わる。
「おめえ、いくら持ってきた?」
金の話だ。無一文で終わらせられると思っているなら、それこそ神桜会と柄乃組を舐めていることになる。相応の金を用意しなければ、向こうの溜飲も下がるまい。いや、溜飲というよりもメンツの問題である。
「200」
「寄越せ」
京史郎は、懐から分厚い封筒を抜いて差し出す。城島は金を受け取って側に置いた。
城島が「おい」と、少し声を張る。背後のふすまが開いて、黒服が現れた。彼は、京史郎と城島の間に黒いバッグを置いていった。
「そいつをくれてやる」
「鰐皮か? 成金みたいで俺の趣味じゃねえ」
「気に入らなけりゃ売っちまえよ。ただし、中身は抜いとけ」
「……いくら入ってんだ?」
「1000。神桜会に700。柄乃に300だ」
京史郎では十分に用意できないと踏んで、彼は身銭を切ってくれたようであった。
「引っ込めろ。恩を売って、俺に老後の面倒を見させようなんざ、冗談じゃねえ」
「この話を纏めなきゃ、おいらまで伊勢湾に沈められちまうかもしれねえんだ。黙って受け取れ。バカヤロウ」
そう言われると、京史郎は拒否できなかった。
「……金はいずれ返す」
「いらねえよ。どうせ死ぬまでに使い切れるとは思ってねえ。そんかし、シュルーナのライブのチケットを用意しろ。毎回だ。この前、見に行ったんだが、なかなか面白かった」
「は? もしかして、あの場にいたのか?」
「おう。ファンになった。頼むぜ。二枚だ。新しいダチもできたもんでな」
城島は、嬉しそうにからからと笑った。先程の黒服が戻ってくる。
「――親父。あと少しで、会長と柄乃が到着するようです」
それを聞いた城島は「おう」と返事をした。黒服から杖を受け取って、ゆっくりと立ち上がる。京史郎も追随する。
「そうだ。京史郎」
「なんだ?」
次の瞬間。城島の杖が振るわれる。T字になった部分が京史郎の頬を打つ。
「がッ!」
「……おいらも歳かねえ。……おら、持ってろ」
黒服に杖を渡すと、城島は京史郎の顔面を思い切り殴る。二度、三度。
「疲れた。おい、もう少し京史郎をボコっとけ」
城島が、黒服に命じる。すると、黒服は嬉しそうに拳を鳴らし、京史郎の顔を殴りつけた。そして、京史郎はそれを甘んじて受けるのだった。そんなバイオレンスな光景を眺めながら、城島は思い出したようにいう。
「そういや、今回の会合だが……柄乃がひとつだけ注文を付けてきた」
「はあ、はあ……。なんだって?」
「なんでも『絶対に笑うな』だ、そうだ。おまえのヘラヘラした態度が気に入らないのか知らねえが、やっこさんも真剣だったからな。笑ったら切り刻んで魚の餌にするそうだ。いいか? ――なにがあっても笑うんじゃねえぞ」
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