女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。

倉紙たかみ

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第42話 神桜会

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 客間にて、会合が始まる。テーブルには、はまぐりの焼き物や、伊勢エビの刺身。鮑の蒸し物など、魚介類を使った料理が並んでいた。会長が日本酒好きということで三重県のプレミアム地酒である『爾今』も用意してある。

 上座に座るのは、神桜しんおう会六代目会長。神桜望。三十五歳という若さでありながら、県内の極道を総括している若き権力者。本来であれば、京史郎のような木っ端者のために御足労などしない立場の人間。

 眼鏡をかけていて、いかにもインテリヤクザといった風体である。顔には甘さも若さも残るが、その瞳の奥底には、極道特有の力強さが秘められているようであった。

「会長。ご無沙汰しております」

 遙か年上であるはずの城島が、畳に手を置いて、深々と頭を垂れる。

「お元気そうでなによりです。城島さん」

「この度は、うちの元組員がバカをやらかしたようで、ご迷惑をおかけしました」

 京史郎も、続いて頭を下げる。

「……榊原京史郎です。今回の一件は、堅気としてのビジネスでしたが、神桜会ならびに柄乃組の方々には大変ご迷惑をおかけしました。もうしわけございません」

 城島が合図をすると、京史郎は鞄から包みを取り出した。神桜望の前へと置く。

「柄乃。おまえにも迷惑をかけたな」と、城島が言う。京史郎は、同席している柄乃の前にも包みを置いた。

「城島の緑。顔を見るからに、こっぴどく叱られたようだな」

 先刻、城島が殴りかかってきたのは、こういう言葉を神桜望や柄乃から引き出すためである。城島の指示ではないという意思表示といったところか。また、ふたりの溜飲を少しでも下げようという狙いもある。だから、京史郎は甘んじて殴られた。

「この度の件は柄乃組長から窺いました。随分と派手にやってくれたようで」

 神桜望が切り出した。

「おいらの教育が行き届かなかったからです。ただ、京史郎は極道としてではなく、あくまでビジネスのためにやったことで――」

 神桜望が、掌を向けて言葉を遮る。

「そのことは結構。榊原京史郎の処分に関しては、一切不問となっています」

 あまりに寛大な処置に、城島も驚いていた。

「は……それはいったいなぜ?」

「神桜会としては見過ごせぬ振る舞いですが、そちらの柄乃組長のがどうしてもというので、手打ちとなりました」

 疑問に思う京史郎。これほどの件を手打ちにするには、相当の金を積んだであろう。果たしていったい、柄乃にそこまでする理由があるのか。

「では、会長はなぜ、ここへ……?」と、城島剛鬼。

 神桜望は、控えている黒服に「持ってきてください」と、告げた。

 アタッシュケースが運び込まれる。それを、テーブルの上。京史郎の目前へと置いた。

「開けてみろ」

 神桜会長に言われるまま、京史郎はアタッシュケースを開く。すると、中には札束が詰め込まれていた。

「……おまえは、柄乃の姫夜叉を倒したそうだな」

 極道の間で、柄乃夜奈は姫夜叉と呼ばれている。難攻不落の最凶のボディーガー
ド。柄乃達義の懐刀。本家神桜会も注目しているほどの逸材である。

「実力は当然、頭もいい。度胸もある。会社を興すだけの行動力もある。動画サイトの方も上手く行っているようだな」

「はい」と、静かに返事をする京史郎。

「堅気にしておくのは惜しい。本家神桜会で、榊原京史郎を預かりたい。――それは支度金だ。1億ある」

 神桜望に続いて、柄乃が述べる。

「京史郎。おまえは堅気に向いてねえ。こっちの世界に戻ってこい。しかも、1億って言ったら、会長が夜奈に付けた値段と同じだ。もっとも、あいつはオファーを断っちまったがな」

 この若さで、それだけの大金を手に入れたら、もはや勝ち組と言っていいだろう。金のため極道になった。金のために事務所を開いた。もし、これが京史郎という人間に付けられた価値だとしたら――これまでやってきた無茶も報われる。

「迷っているのなら、背中を押してやる」

 神桜望が合図をすると、先程の黒服が、アタッシュケースをふたつ持ってきた。

「全部で3億。姫夜叉を倒したおまえに、同額というのも失礼な話だったな」

 首を縦に振るだけで、すべてが京史郎のものとなる。果たして、義理や人情がこの大金に勝るのか。芸能事務所を続けるとして、これだけの大金を、将来ポケットに入れることができるのか。

 ――けど、京史郎の頭の中には、どうでもいい連中の顔がちらついて消えなかった。

 京史郎は、深々と頭を下げる。

「大変ありがたいお話ですが、遠慮させていただきます」

「おい、神桜会の会長が、直々に言っているんだぞッ?」

 柄乃にきつく言われるが、京史郎は頭を下げたまま続ける。

「もうしわけございません。城島の下で働いて、もう極道は懲りました」

 肩を竦める神桜望。
 すると彼は立ち上がった。

「……そうですか。ならば、私はこれで失礼します。柄乃さん、城島さん。今度、仕事抜きで食事にでも行きましょう」

「城島とですか? はは、気まずい食事会になりそうですな」

 苦々しい笑いをこぼす柄乃。城島の方は嬉しそうに「いつでも声をかけてください。隠居生活は暇なので」と、告げる。

 そして、神桜望は退室していった――。



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