モブな僕が女神様の勘違いで手に入れた『物理最強』が全能でチートすぎるんです!

月夜美かぐや

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第6話 ペア結成

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 ——決闘の翌日。

 この日から僕の学園生活に大きな変化が訪れていた。

 昨日の決闘を見たクラスメイトたちからは、次々に声をかけられ、中には『アルト様と何とかお近づきになりたい』と話す女子までいるとの噂が耳に入ってきていたのだ。

(……やばい。これはモテ期というやつでは?!)

 前世でそういう経験を一切したことない僕にとって、これは心が踊らずにはいられなかった。

 このまま〈 初級クラス 〉でゆるゆると学園生活を堪能しようと考えていた矢先、突然先生に呼び止められてしまった。

「アルト君……口元ニヤけてますよ? 何か良いことでもありました?」

 ……しまった。どうやら心の喜びが、自然と表情にまで出てしまっていたらしい。

「ちょ、ちょっと良いことがありました……ハハハッ」

 恥ずかしさを誤魔化すように、適当に返事をしておく。

「まぁ、いいですけど。それより、昨日は本当にすごかったですね!」

「……いえいえ、たまたま運が良かっただけですよ。ところで、これは何ですか?」

 僕が返事をしている間に、先生はゴソゴソと手に持っていた書類を僕の方に渡してきていた。

「実はですね、生徒は学園寮に通ってもらう規則になっているんですよ。アルト君の手続きも済ませておいたので、今日から寮を生活の基盤にしてくださいね」

 先生は笑顔でそう話すと、スタスタと僕の前から去っていった。


 ***


「ここ……か」

 放課後になり、先生からもらった書類の中にあった地図を見ながら、学園寮にやって来た。

 寮は学園の敷地から五分ほどのところにあり、何人もの貴族の御屋敷を集めたかのような、凄まじい広さを誇っていた。

 白色を基調とした寮の建物の隣には、備え付けの高級プールや娯楽施設があり、まさしく学生たちの理想郷のような場所であった。

「入口は……ここかな」

 僕が建物に足を踏み入れると、寮専属のメイドが何人かいるのが目に入った。

 またメイドとは別に、警備を兼ねてか宮廷魔法師の存在もあった。

「あの、今日からここで過ごすことになったんですけど……」

 僕が受付のメイドにそう話すとすぐに『あぁ、アルト様ですね!』と反応があった。

 部屋は五階建ての最上階ということで、階段を使おうとすると……『あちらをお使いください』と案内される。

「え……これって、まさか」

 異世界に何故あるのか分からないが、間違いなく僕の知っているものと同じ『エレベーター』が存在していた。

「まあ、こっちの方が便利だしいいけど……」

 『エレベーター』を懐かしく思いながら、上の階へと移動した。

 五階は広い廊下と、扉が一つしか存在していなかった。つまり一部屋だけのために五階丸々使っていることになる。

 立派に金の装飾の施された扉を開き、自室へ入ると——

「——うわ、何だこれ?!」

 一つ一つの部屋が壁で区切られておらず、まるでホテルのスイートルームのような、広々とした空間が演出されていた。

 部屋の中自体も白色を基調としており、小洒落たテーブルと柔らかそうなソファの置かれたリビングに、料理を楽しむことが出来そうなダイニング……そして少し離れたところにはふかふかのベッドが二つ並べられた寝室が備わっていた。

「この部屋、一人で住むには広すぎるな。ベッドの数的に元々は二人用の部屋なのかもしれないけど……」

 僕は広さを実感するかのように、少し見て回っていると、奥の方にある浴室を見つけた。

「へぇ。これだけ広い部屋の浴室なら、日々の疲れを癒すのに良い感じの空間になっているかもしれないな」

 僕は早速確認するべく、勢いよく浴室の扉を開けた。

「え——」

 僕の目に映ったのは、広い浴槽と立ち上る湯気……そして半身浴を楽しむ金髪青眼の整った顔立ちの美少女の姿と、透き通るような白い肌に張りのある

 ——エリシア王女だった。

「ふぇ……?」

 エリシア王女は驚きのあまり言葉になっておらず、僕たちは互いに数秒間見つめ合った後、ようやく状況を理解できたのか顔を赤くしながら目を逸らした。

「キャァァァァァァ!!!!」

 エリシア王女の悲鳴が響き渡り、僕は慌てて浴室から出た。


 ***


「うぅ……。私もう、お嫁にいけないよ……」

 部屋着姿で浴室から出てきたエリシア王女は、真っ赤にさせた顔を隠すようにしながら、僕の前でそう話した。

 王女なのだから、お嫁には行かないんじゃ……と思ったが、とてもツッコめる状況ではなさそうだった。

「ごめんなさい……。まさか僕の部屋でお風呂に入ってるなんて思わなくて……」

じゃなくて、……の部屋でしょ!」

「へ……?」

「へ……? って、先生から何も聞いてないのかしら?」

 当然、そんな話は聞いていなかった。

「ハァ……先生も先生だわ。——あのね、アルト君。今日からあなたは私とペアになるのよ」

 エリシア王女はまだほんのりと頬を桃色に染めながらそう話した。

 あれだけ学園のペア制を嫌がっていた【孤高の姫】だが、僕とのペアは先生から提案されたものらしい。

 ペアを組むということは、言わば魔法学園の上のクラスである〈 中級クラス 〉そして〈 上級クラス 〉に進んでいくということだ。

 僕自身はゆるく〈 初級クラス 〉で居続けたいと思っていたので、上を目指すためには何かきっかけが欲しいと思った。

「エリシア王女は、何のために上のクラスを目指したいんですか?」

 僕の質問に対し、エリシア王女は真剣な目つきでゆっくりと話し始めた。

「実は——」


 ——エリシア王女によると、三年前から母親が行方不明になっているらしく、王国では秘密裏に今もなお捜索が続けられているらしい。他国へ誘拐された可能性も考えられるとのことから、父である国王から〈 上級クラス 〉になれば国外への旅を認めると言われているらしい。

「ペアを組むってことは、その人も巻き込んでしまうことになるわ。——それでも私はお母様を見つけ出したいの。だから……私とペアになって……ください」

 エリシア王女は小刻みに震えながら、僕に向けて頭を下げてまでお願いをしてきた。

 さすがにこんな壮絶な状況を聞かされてしまうと、ラノベの主人公に憧れる僕のヒーロー精神がフツフツと込み上げてくる。

 そして何より、目の前で困っている美少女を見捨てることなど出来るはずがなかった。

 僕にとって、人生初のモテ期学園生活をゆるゆる堪能する……という決意を覆すには十分すぎた。

「分かりました。微力ですけど、エリシア王女の力になりますよ!」

 僕がそう返答すると、エリシア王女は歓喜のあまり手で口を抑えながら、涙を流していた。

「そ、そんな泣かなくてもエリシア王女……」

「だって、ひぐっ……。あのね……」

「どうしたんですか?」

「うぅ……。私のことはエリィ……って呼んで欲しいの」

「へ?」

「だから、エリィって……呼んで欲しいの。今日から……ペアだから。敬語も禁止っ!」

 同い年の女の子を愛称で呼ぶなんて、これまた僕の前世を含めた人生で一度もないことだった。

 気恥ずかしさに照れながらも『分かったよ、エリィ』ときちんと返事をしておいた。

「うん! これからよろしくね、!」

 涙を拭い、そう話すエリィは特大のダイヤモンドに負けずとも劣らない、輝くような満面の笑みを見せてくれたのだった。




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