【完結】クビになった転生神子♂、仕様がないので元護衛の伴侶探しを手伝ってやる

夏ノ宮萄玄

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1.元神子の追憶

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 とある世界のとある国にて。日本で普通にサラリーマンをしていた自分は、少しだけ特別な存在に生まれ変わっていた。

 この国には奇跡の治癒力を持つ者が務める神子という役職があった。
 神子とは“女神リコラシオンのお力を幸運にも授かり、人々の為に地上に遣わされた者”とされている。どうしてだかその役目を最近まで務めていたのがこの俺、ラトゥエル・ニーヴだった。

 神子の仕事として、主に王都の教会で王侯貴族の治癒を行っていたが。その他の大きな仕事といえば年に一、二度、国内で選ばれた数ヶ所を巡りながらの民の治癒が挙げられるか。
 民からの支持は重要だ。なんといっても血税は教会の貴重な収入源になっているからだ。

 しかし神子だからといって、俺に絶大な支持が集まっているかというとそうでもなかった。

 寸暇を惜しんで勉強し、うろ覚えの前世の知識から新たな治療法を研究したりと。神子業に真摯に取り組んではいたつもりだが。完璧、という訳にはいかないもので。
 特に民相手の治癒の場合、ほとんど一回きりの治癒になるので。病によってはその場しのぎにしかならなかったりもした。

 一応簡単に病状の説明はするものの。懇切丁寧に一人一人が理解するまで、分かる場合は再発しないような生活へのアドバイスも添えて説明する時間はなく。
 実際、再度同じ病気に罹かっただろう民もいた。そんな人達を含めて、俺を恨んでいる者も大勢いるのだろう。「インチキ」「ヤブ医者」などと罵られたり、剣で斬り掛られたりすることもあった。すぐに護衛に取り押さえられていたが。

 そもそも、なぜそんな大層な役目を俺が負う羽目になったかといえば。幼少、勉強の為に通っていた町の教会でスカウトされたからだ。それから良家の子女らが通う学校で学んだが、前任の神子の退職で、在学中なのに早くも十五歳で神子に就任することになってしまった。
 神子は、“その他治癒師の追随を許さない存在”という基準が一応あるので、あの時は俺が就くより他なかったらしい。

 この力は自分にもある程度使用できたので重宝したが。正直前世の記憶を持っている俺が、人目にさらされ窮屈な生活を送る羽目になっている原因でもあるので。疎んでいないとも言えなかった。
 転生の特典というものならば、もう少し控えめでもよかったのに。デメリットも大きいし。生活水準がこの世界比では高く過ごせたのはありがたかったが。

 卒業してからも、神子業と並行して今度は専門的に医療を学ぶ学校にも通い始め、一層仕事と学業に忙殺される日々となった。事実、神子になってからこっち。忙し過ぎたのか勉強したことや仕事以外の記憶は曖昧だった。

 でも、仕事や学業が忙しいことより。生活空間にも人がいて息が詰まることよりも。何よりも一番嫌だったのは。神子の任務に付随する、権力者との面倒くさいお付き合いだったのだけれども。



 馬車の上で、流れる景色を何とはなしに眺めながら溜息を吐く。
 どうにか乗合馬車を見つけて乗ることはできた。今のところ追手はいないはずだ。乗り心地が悪いので尻の痛みに耐えながらも、さり気なく意識は周囲に向けておく。

 まだまだ油断はできない。今は追手がいなくとも、魔法で俺の居場所を特定される可能性は大いにある。まあ、あとちょっとのこと。問題はないだろう……と思いたいが。

 俺は今日、王都の教会総出で見送られる予定を一方的に放棄し、姿をくらました。
 侍従には「昼まで仮眠を取らせてほしい」と頼んで。人の気配があると寝れないという名目で、護衛にもいつも通りに寝室から出てもらって。
 俺の言動には何の疑いも持たれていなかったと思う。優等生をしていた甲斐があったというものだ。

 懸念していた建物の結界は、外部からの侵入を阻むものと聞いていたけれども。俺が窓から身を乗り出しても何の反応を示さないのはとうに確認済みだった。

 全員が退出すると急いで平民の服に着替えて髪をほどき。腰まである長い金髪は魔法で肩辺りまでに調節して、準備していた荷物を持って二階の窓から飛び下りた。悲鳴をどうにか堪え、骨折してしまった足は自分で治癒をする。

 そうして、俺は近くの建物である礼拝堂の参拝者に紛れ込み、何食わぬ顔でそのまま教会の敷地の外に出たのだった。

 あのままお行儀よく堂々と門から出ていたら俺はどうなっていたか分からない。
 歴代の神子の中には退任後、次の住まいへと移動中襲われたり人攫いに合った人もいたらしい。気を付け過ぎるくらい気を付けておいた方がいいに決まってる。
 無力な、権力も金も知識もない人間が生きるには厳しい世界だった。そして俺ももう今はほぼ、その無力な人間になっていることを自覚していた。

 自意識過剰だったら笑ってくれ。杞憂だったら万々歳。でも自己防衛は大事だ。だってもう俺が守られるべき価値は、なくなってしまったのだから。
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