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3.絶景
しおりを挟む「はぁっ……、はぁっ……、はぁ……ッ」
俺には、やりたいことがあった。自分の魔力の異常に気が付いた頃から、いや魔力消失という病を実際に診た時から薄々思っていたこと。
――ここまで、本当に長かった。
「はっ、はっ、はっ、はぁっ、はぁっ……、はぁっ……」
目的地が目に入り、地面を蹴る足を緩めて歩きながら、荒い息遣いを鎮めていく。林を切り開いてできた緩やかな下り坂の一本道。天を仰げば遠い空は清々しい薄い水色で。気持ちのいい風にそよぐ左右の木々の葉音も相まって、本当に爽やかな景観だった。
一本道を抜ける。
そうして、その先へと一歩足を踏み出した。
「――っ」
あまりの雄大さに息を呑む。
海が見える。手前には白っぽい砂浜も。
目の前に広がる光景に心が洗われる気がした。前世を含め、こんなに美しい海を見たのは初めてだった。何て鮮やかなエメラルドグリーン。
今世でも海を遠目に見たことはあった。けれども自由に近付くことも、ゆっくりと眺めることも許されはしなかった。まあ、今もゆっくりと、という訳にはいかないのだけれど。
砂の上をじゃりじゃりと音をさせて歩く。
運が良いのか船も水遊びをする人もいないので、まるで貸し切りのプライベートビーチだった。元聖職者のくせにそこまで存在を信じていない神が、取り計らってくれているのかもしれないな、なんて考える。
俺がこれからすることの為に。
最期くらいは静かに、自分で幕引きできるように。
履物を後ろに放り出して、濡れてひんやりとした砂の感触を直に味わう。
遠くにいくほどに濃い緑になる揺れ動く水面の美しさ、優しく響くその音。それらをひとしきり享受した。
穏やかに生みだされる白い波に足を踏み入れる。軽やかな水音が立ち、冷たい海水をかき分けて前進した。
やがて太ももまでもが浸かり、水に阻まれ歩みはますます鈍くなる。体も冷えてきた。しかしそれでも、気にせず機械的に足を進めた。
深く、もっと深くまで。
そう一心に進んでいた、その時。
――反射的に肩が跳ねた。
波の音に混じって、後方からかすかに人の声が聞こえた気がする。
嫌な予感に顔を顰める。振り向いて確かめたいが、顔を見られたくはない。確信を与えてはならない。やはり――やはり、誰かが俺をつけてきていたのか。
とにかく、早く。早くしないと。
「はっ……、はぁっ……、はぁッ……はッ……」
物語に出てくるようなヒーローの助けなんて。
俺には、来ないから。
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