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4.ある二人の再会
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前世日本では生きていれば何とでもなる、何てよく聞いたけれども。特に今世では生き残った方が辛いことなどいくらでもあると思っている。外界から保護されてきた半生だったが、それでも、少なからず目にしていた。まだまだ文明も倫理も発展途上で厳しい世界の、その一端を。
当然のように生活の片隅に存在する、死んだ目をして鎖に繋がれる奴隷達。権力者の不興を買うのを恐れて、身を縮めて生きる庶民。罪を犯したかも疑わしいのに嬲られ、最期には首を切り落とされて教会に流れ着いた遺体。
それらが俺の未来でもおかしくはないのだ。全ては権力者の手の平の上。
時代は王侯貴族の全盛期といってもよかった。教会の権力もそう。ましてやこの世界での権力者は魔力持ちが多いので、なおさら特権意識が強いのだと思う。
薄皮一枚、隔てた感覚でこの世界を生きてきた。異世界に生まれて、この土地の人々に育てられてここまで生きてきたのに。それでもなお俺にとっては異世界だった。
周りの人間を信用できないからというのもある。所詮俺は治癒に特化したちょっとだけ特別な席に座っている人。教会内部にさえそうそう干渉できるほどの権力はない。周りの人間は真の権力者の命令が下れば。それがどんなものであろうと、俺に不利なことであろうとも。例え俺を心から慕っていたとしてもそれをこなすことだろう。
弱みがあれば、他に大事なものがあるならば。他人の俺なんかよりも、それらを害されないように従順になるしかないのだから。
でも俺は独りでよかったのだ。俺に一生懸命この世界を生き抜く気があれば。他人と協調し、生き生きと人生を歩む道もあったのかもしれないけれど。そこまでの気力はない。価値を見いだせない。例えるならば、ぼんやりとただ映画の世界を流し見てるだけの人生。
日本とは、現代とは余りにもかけ離れ過ぎてついていけなかった。
でも、別にいいだろう。それでも与えられた仕事は自分なりにちゃんとして。ちょっと早く抜け出してきたこと以外は、そこまで周りに迷惑を掛けていないと思うから。
もう日本での家族の顔も思い出せないけれど。俺はまだ覚えている記憶の欠片だけを大事に抱いて生きて死ぬから。
弱い人間だと非難してくれて構わない。
だから。何者にも利用されず、尊厳を傷つけられる前の。今、この時に。
「はっ、……はぁッ……」
水の抵抗に苛立ちながらも、迫りくる最悪の未来から逃げるように足を動かす。とにかく、とにかくっ、陸から離れないと!
「はぁっ、はぁっ、はぁッ……――――痛っ!?」
強い力で腕をつかまれた。恐慌に震える腕で振り払おうとするも、それは放れない。
「放してっ……!!」
「――――ラトゥエル様っ、早まらないでください!!」
耳元で聞こえてきた声は、覚えのあるものだった。
荒い息を落ち着かせて、恐る恐る後ろを振り向く。
身なりは平民風の、簡素な薄い明るめの茶色のシャツ。しかし、ところどころ濡れた服の上からでも分かる発達した筋肉に、艶やかな銀髪が風になびく。
見下ろしていたのは真っ直ぐな灰色の目の青年。つい先日まで俺の護衛をしていた教会騎士、ヴェル・ロメールだった。
なぜここに? 呆然としている間に、背と太ももの裏に腕を回されたのち襲う浮遊感。とっさにヴェルの首に手を伸ばししがみ付く。
「あっ……」
帽子がズレ落ちて海面で小さな音を立て、あっという間に波に飲み込まれていった。
当然のように生活の片隅に存在する、死んだ目をして鎖に繋がれる奴隷達。権力者の不興を買うのを恐れて、身を縮めて生きる庶民。罪を犯したかも疑わしいのに嬲られ、最期には首を切り落とされて教会に流れ着いた遺体。
それらが俺の未来でもおかしくはないのだ。全ては権力者の手の平の上。
時代は王侯貴族の全盛期といってもよかった。教会の権力もそう。ましてやこの世界での権力者は魔力持ちが多いので、なおさら特権意識が強いのだと思う。
薄皮一枚、隔てた感覚でこの世界を生きてきた。異世界に生まれて、この土地の人々に育てられてここまで生きてきたのに。それでもなお俺にとっては異世界だった。
周りの人間を信用できないからというのもある。所詮俺は治癒に特化したちょっとだけ特別な席に座っている人。教会内部にさえそうそう干渉できるほどの権力はない。周りの人間は真の権力者の命令が下れば。それがどんなものであろうと、俺に不利なことであろうとも。例え俺を心から慕っていたとしてもそれをこなすことだろう。
弱みがあれば、他に大事なものがあるならば。他人の俺なんかよりも、それらを害されないように従順になるしかないのだから。
でも俺は独りでよかったのだ。俺に一生懸命この世界を生き抜く気があれば。他人と協調し、生き生きと人生を歩む道もあったのかもしれないけれど。そこまでの気力はない。価値を見いだせない。例えるならば、ぼんやりとただ映画の世界を流し見てるだけの人生。
日本とは、現代とは余りにもかけ離れ過ぎてついていけなかった。
でも、別にいいだろう。それでも与えられた仕事は自分なりにちゃんとして。ちょっと早く抜け出してきたこと以外は、そこまで周りに迷惑を掛けていないと思うから。
もう日本での家族の顔も思い出せないけれど。俺はまだ覚えている記憶の欠片だけを大事に抱いて生きて死ぬから。
弱い人間だと非難してくれて構わない。
だから。何者にも利用されず、尊厳を傷つけられる前の。今、この時に。
「はっ、……はぁッ……」
水の抵抗に苛立ちながらも、迫りくる最悪の未来から逃げるように足を動かす。とにかく、とにかくっ、陸から離れないと!
「はぁっ、はぁっ、はぁッ……――――痛っ!?」
強い力で腕をつかまれた。恐慌に震える腕で振り払おうとするも、それは放れない。
「放してっ……!!」
「――――ラトゥエル様っ、早まらないでください!!」
耳元で聞こえてきた声は、覚えのあるものだった。
荒い息を落ち着かせて、恐る恐る後ろを振り向く。
身なりは平民風の、簡素な薄い明るめの茶色のシャツ。しかし、ところどころ濡れた服の上からでも分かる発達した筋肉に、艶やかな銀髪が風になびく。
見下ろしていたのは真っ直ぐな灰色の目の青年。つい先日まで俺の護衛をしていた教会騎士、ヴェル・ロメールだった。
なぜここに? 呆然としている間に、背と太ももの裏に腕を回されたのち襲う浮遊感。とっさにヴェルの首に手を伸ばししがみ付く。
「あっ……」
帽子がズレ落ちて海面で小さな音を立て、あっという間に波に飲み込まれていった。
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