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5.神子とは
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俺はこれから――教会に身柄を渡されるのか? それとも誰か、貴族にでも引き渡されるのだろうか?
ただの人に戻った元神子の再就職先――新しい後ろ盾といった方が正しいか――は限られていて。中にはそのまま教会で働く人もいたみたいだが、大抵は辞職後権力者に囲われることになる。
その中で、旅に出るという俺の進路は異例中の異例だっただろう。
慣例から外れた後ろ盾のない元神子。そんな俺は、身を狙われる理由がいくつもあった。さっきまで、上手くいっていると思っていたのは勘違いで。俺が従順だからと油断して追手の初動が遅れていただけなのかもしれない。自嘲が湧き上がり唇がそれを形作る。滑稽だ。
過去に、地位を退いた元神子の子孫から、また神子の地位を継ぐ子供が生まれた事実がある。もしそれが狙いなら、自死も叶わぬ厳重な監視と拘束の下、無理やり女を抱く為に生かされることになるだろう。
ただしそれは。本当の目的が女を孕ませるだけだった場合の話だ。
俺には女性との結婚の誘いもきていたが、愛人や妾の誘いも当然のようにあった。相手は王侯貴族、教会幹部やそれに連なる男。
今世の俺は眩いばかりの美貌を持っていた。神の遣いと言われるのが納得できるほどに。初めて鏡で己の容姿を目にした時は驚いたものだった。ともかくこの美貌ゆえか、おぞましくも男に好色そうな目で見られることがよくあったのだ。
実際に夜の誘いもかなりあって。その度に「患者の容体が心配なので診にいって参ります」「皆様やそのご家族の一大事に備える為に、少しでも多くの書物を読んで勉強したいのです」などと。例え相手が王族であろうとも、勤勉さを理由にどうにか切り抜けてきたのだ。
普段からそうあることを心掛けてきたからまるっきり嘘という訳でもなかったが。はっきり言って、こんな言い訳で俺の身が清いまま職を辞せたのは奇跡だと思っている。
だが今は、もう徒人の俺の意見など聞き入れる必要があるはずもなく。もし今まで誘いを袖にした男達に捕らえられてしまったら。宝石を愛でるようにか、それとも何らかの性癖を満たすようにか。傷つけられた自尊心の分まで、俺の人格を無視して凌辱の限りを尽くされることになるだろう。
本当は考えたくないが。魔法で女に変えられて、俺が産む側にされる可能性もあった。
他にも、俺に恨みや妬みを持つ者からの報復もあるかもしれない。俺の容姿に価値を見いだしただの商品、奴隷として売ろうとする輩もいるのかもしれない。
俺が思い付くだけでもこれだけの理由が挙げられる。訪れてほしくはない暗澹たる未来。心が薄暗い思考に染め上げられていく。
もう一度海に逃げなければ。そう思い俺を抱え上げるヴェルの肩を押したりと暴れるも、力強く背に回された腕は緩まない。海中で、しかも俺というお荷物を抱えてもなおしっかりとした足取りで歩き、呆気なく波打ち際へと逆戻りだった。
俺は今後、どうなるのか。どこに連れていかれる。
俺の願いは、こんなささやかなことさえ叶わないのか……。
ただの人に戻った元神子の再就職先――新しい後ろ盾といった方が正しいか――は限られていて。中にはそのまま教会で働く人もいたみたいだが、大抵は辞職後権力者に囲われることになる。
その中で、旅に出るという俺の進路は異例中の異例だっただろう。
慣例から外れた後ろ盾のない元神子。そんな俺は、身を狙われる理由がいくつもあった。さっきまで、上手くいっていると思っていたのは勘違いで。俺が従順だからと油断して追手の初動が遅れていただけなのかもしれない。自嘲が湧き上がり唇がそれを形作る。滑稽だ。
過去に、地位を退いた元神子の子孫から、また神子の地位を継ぐ子供が生まれた事実がある。もしそれが狙いなら、自死も叶わぬ厳重な監視と拘束の下、無理やり女を抱く為に生かされることになるだろう。
ただしそれは。本当の目的が女を孕ませるだけだった場合の話だ。
俺には女性との結婚の誘いもきていたが、愛人や妾の誘いも当然のようにあった。相手は王侯貴族、教会幹部やそれに連なる男。
今世の俺は眩いばかりの美貌を持っていた。神の遣いと言われるのが納得できるほどに。初めて鏡で己の容姿を目にした時は驚いたものだった。ともかくこの美貌ゆえか、おぞましくも男に好色そうな目で見られることがよくあったのだ。
実際に夜の誘いもかなりあって。その度に「患者の容体が心配なので診にいって参ります」「皆様やそのご家族の一大事に備える為に、少しでも多くの書物を読んで勉強したいのです」などと。例え相手が王族であろうとも、勤勉さを理由にどうにか切り抜けてきたのだ。
普段からそうあることを心掛けてきたからまるっきり嘘という訳でもなかったが。はっきり言って、こんな言い訳で俺の身が清いまま職を辞せたのは奇跡だと思っている。
だが今は、もう徒人の俺の意見など聞き入れる必要があるはずもなく。もし今まで誘いを袖にした男達に捕らえられてしまったら。宝石を愛でるようにか、それとも何らかの性癖を満たすようにか。傷つけられた自尊心の分まで、俺の人格を無視して凌辱の限りを尽くされることになるだろう。
本当は考えたくないが。魔法で女に変えられて、俺が産む側にされる可能性もあった。
他にも、俺に恨みや妬みを持つ者からの報復もあるかもしれない。俺の容姿に価値を見いだしただの商品、奴隷として売ろうとする輩もいるのかもしれない。
俺が思い付くだけでもこれだけの理由が挙げられる。訪れてほしくはない暗澹たる未来。心が薄暗い思考に染め上げられていく。
もう一度海に逃げなければ。そう思い俺を抱え上げるヴェルの肩を押したりと暴れるも、力強く背に回された腕は緩まない。海中で、しかも俺というお荷物を抱えてもなおしっかりとした足取りで歩き、呆気なく波打ち際へと逆戻りだった。
俺は今後、どうなるのか。どこに連れていかれる。
俺の願いは、こんなささやかなことさえ叶わないのか……。
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