マーメイド・コスモス

咲良きま

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第8話

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ばかなこと考えた自分の頭をこつんとたたいて、ミキに笑顔で言う。

「じゃー、参りますか!」

グランドには、いつもよりはりきっているサッカー部員の姿がみえた。

こんなにギャラリーが多いとそりゃ、テンションもあがるよね。

森田君もしかり。

森田君が、私のとなりにいるミキの姿を見つけたのが分かった。

分りやすいなぁ。

表情に出ているよ、森田君!

きゃーっと、黄色い歓声があがった。

先輩だ!

私はいそいで、グラウンドわきのフェンスにしがみつく。

目は岸田先輩にくぎづけだった。

先輩がボールをキープして走っている。

速い速い。

あっというまに、何人も抜いていく。

まるで風みたい。なんてかっこいいんだろう。

弾丸シュートをゴールネットに勢いよく突き刺した先輩がガッツポーズを決めたら、いっそう大きな黄色い歓声が校庭に響いた。



でも、ふと違和感を覚えた。



私が好きになった先輩とはなんだかちょっと違うみたい。

確かに、先輩なんだけど、前の先輩は赤い炎の様なオーラがあったのに。

今は氷の様。

クールで冴え冴えとした印象を受ける。

人間じゃないような別の生き物。



まさか、ね。



最近寝不足で、きっと頭がおかしいんだと自分の頭を左右にふってみた。

それから、もう一度視線を先輩に戻した時、先輩の瞳がまっすぐにミキをとらえたのが分かった。

二人の視線はしばらくからみついて離れない。

私はゆっくりとミキの瞳を見て、そして先輩の瞳を見た。



不思議と嫉妬は感じなかった。



感じたのは、むしろ恐怖に近い違和感だった!



なぜなら、見つめあっている二人の瞳がぞっとするような恐ろしい青に見えたから!

なんて冷たい青!

えたいの知れない違和感が心の中でどんどんと広がって行くのを感じる。

奈落の底に落ちていくような大きな不安が私をつつむ。

固まったように動けない私の目の前で先輩はふいにミキから視線をそらし、またプレーに戻って行った。

周りの様子を確認しても違和感を感じとった人は私の他にはいないようだった。

そんな私の様子をミキは静かにみている。口もとには不思議な笑みをたたえて。



私は知らず知らずのうちに震えていた。



「寒いの?」

ミキが穏やかに聞いてきたけれど、私はミキと視線を合わせることができない。

「うん。ちょっと。」



私はうそをついた。
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