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第23話
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「でも、コスモスが現れた。」
「そう、やっと彼女が僕を追ってきた。彼女を目にしたショックで僕のオリジナルの意識が覚醒してしまった。
だけど、皮肉なものだね。僕は彼女を、コスモスをずっと待っていたのに、今はあまり歓迎できないでいる。」
「どうして。」
「事態が君を軸としておかしな方向に変わったからさ。」
「私?」
「そう。君にとっても皮肉な話さ。君はその力に見合う器を選ばなかったせいで、まわりの目に見えないもの達の格好の餌食になってしまったんだ。君をねらう色んなやっかいごとが常に君のそばで渦巻いている。」
私はぎょっとした。いつも何かにねらわれている?
「君が生まれてすぐ君に目をつけた人魚がいた。」
私の心の何かがそれを知っていた。
森田君はひとつうなずく。
「そうだよ。久野だ。」
ミキ。私は無意識にペンダントを握りしめる。
「彼女は、君をみつけて何度も君に乗り移ろうとした。けれど、君というアンバランスな存在に適合するには彼女の力は大きすぎた。…君の器はとても力が弱いからね。
彼女は君をあきらめるしかなかった。けれど、何を思ったのか、いつしか君を守るようになった。
驚きだったね。本能のままに生きる人魚が、それを忘れて我が子を守るように、君を守るのを見るのは。だって、君を守ることは彼女にとってなんのメリットにもならないのだから。」
「でも、ちょっと待って。私、高校に入って初めてミキに出会ったんだよ?」
私は森田君の話を遮る。
「ああ。彼女はずっと精神体のまま君のそばで君を守っていた。
けれど、ある時強力な別の生命体が現れる。その存在を感じとるや否や、彼女は器を必要とした。その不穏な異分子に対抗するために。そして、一人の少女を犠牲にした。
久野ミキ。僕も、君も知らない本来の彼女を。」
私の驚愕の表情を少しおかしそうに見て、森田君は話を続ける。
「君のせいで、人一人の命がすでに犠牲にされていたんだ。…愉快なことではないよね。
話を続けよう。
人魚が警戒したのは、岸田先輩さ。
ふふ、けっさくだよね。あろうことか君が彼を好きになるなんて。」
森田君は笑っている。私はどんどん背筋が寒くなる。
次第に、森田君の笑いはかわいたものに変わっていった。そして彼は悲しそうにつぶやいく。
「岸田を警戒する必要なんてなかったんだよ。彼は僕を追ってきた僕のお目付け役だったんだから。
くそっ。タイミングが全てにおいて悪かった。あいつはまだ慣れてなかった。
窮鼠、猫を噛むって言うけど、笑えないよ。格下のマーメイドなんかに、食われるなんて。」
森田君は頭をかかえてしまった。私はいつの間にかのどがからからで、乾いた声しか出なかった。
「私のせいなのね。」
森田君は暗い目で私を見ると、ため息をついて告げる。
「いいや。
僕のせいだ。さっさと、この世界から去っていれば同胞を失うことを避けられたのに。
でも、今は後悔している場合じゃないんだ。僕は覚醒に時間をかけすぎてしまった。行動を起こさないと事態はどんどん暗転していく。」
「蜘蛛の存在のことを言っているの?」
「…。蜘蛛の姿なのか。」
森田君は黙り込む。私は妙に焦って言葉を紡ぐ。
「夢で見た蜘蛛のことをコスモスがこんなふうに言ってた。王。未完成品。欠陥物。
意味分かる?」
森田君は考え込むように眉根をよせる。
「君はどんな予知夢を見たんだ?どの時期に。」
あれは、予知夢だったの?予知夢って未来の出来事ってことだよね。
どの時期だった?私はいつどんな夢を見た?
なんだか、大事なことを私は見落としている。不安でぞくりと背中がふるえた。
蜘蛛の夢を見たのは、先輩とミキが消える前のことだ。それから、二人が消え。私は、先輩とミキの夢をみた。その後に、コスモスがやってくる。
あれ?ちょっと待って!コスモスがこの地球に現われたことをミキは知っていたのよね?その存在を知った後にミキのお腹は膨らんだのよね?あの時の出来事はあの夢を見た時点では、未来の出来事だったってことだ!
と、いうことは?ミキはまだ生きているかもしれないってことよね?あの怪物は生まれてないかもしれない可能性もあるってことよね?
そうなると、どうしてコスモスは蜘蛛の存在を知っているのだろう。
私は今気付いた事実と疑問を森田君に話した。
「きっと、コスモスは君の頭の中をのぞいたんだよ。」
私は、パソコンとドッキングした金魚の姿を思い浮かべた。私もあんな感じで接続されて知らぬうちに情報を引き出されていたのだろうか。気分が悪い。
「…プライバシーの侵害だわ。」
私は、はっとした。
「って、ことは彼女、森田君の存在に気がついているかもしれない!」
森田君は暗い目で外を見ている。
「どうやら、そのようだね。」
この教室は三階にある。その教室の窓の外に、宙に浮いている金魚の姿があった!金魚は尾びれをくゆらせ、一定の距離を保ちつつこちらをじっとうかがっている。いつからそこにいたんだろうか。
「僕まで食われるわけにはいかないねぇ。」
小さくつぶやくと、森田君はすばやい身のこなしで教室から出て行った。森田君の行動を見てとると、金魚は助走をつける為にいったん後退し、それからもの凄いスピードをつけてこちらへ突進してきた!
ぱりんと、ガラスの割れる音が響く。窓を突き破って金魚が教室内へ侵入した。いったん、ガラスの破片を振り払う為身ぶるいをするも、それは再度赤い弾丸と化し森田君の後を追って行く。
一瞬コスモスは燃えるような瞳で私を見た。しばらく動くことができなくなるほどの怒りに満ちた視線。呆然と残された私は、からっぽになったままの頭で飛び散ったガラスの後始末を簡単にしていた。窓には外から石でもぶつかったように小さな穴があいていて、それが冷たい風をひきこんでいる。
先生にガラスが割れた事情を説明している場合でもないし。だいたいなんて説明したらいいのか分からない。そんな、どうでもいいことを考えながら私はそっと空き教室を後にした。
「そう、やっと彼女が僕を追ってきた。彼女を目にしたショックで僕のオリジナルの意識が覚醒してしまった。
だけど、皮肉なものだね。僕は彼女を、コスモスをずっと待っていたのに、今はあまり歓迎できないでいる。」
「どうして。」
「事態が君を軸としておかしな方向に変わったからさ。」
「私?」
「そう。君にとっても皮肉な話さ。君はその力に見合う器を選ばなかったせいで、まわりの目に見えないもの達の格好の餌食になってしまったんだ。君をねらう色んなやっかいごとが常に君のそばで渦巻いている。」
私はぎょっとした。いつも何かにねらわれている?
「君が生まれてすぐ君に目をつけた人魚がいた。」
私の心の何かがそれを知っていた。
森田君はひとつうなずく。
「そうだよ。久野だ。」
ミキ。私は無意識にペンダントを握りしめる。
「彼女は、君をみつけて何度も君に乗り移ろうとした。けれど、君というアンバランスな存在に適合するには彼女の力は大きすぎた。…君の器はとても力が弱いからね。
彼女は君をあきらめるしかなかった。けれど、何を思ったのか、いつしか君を守るようになった。
驚きだったね。本能のままに生きる人魚が、それを忘れて我が子を守るように、君を守るのを見るのは。だって、君を守ることは彼女にとってなんのメリットにもならないのだから。」
「でも、ちょっと待って。私、高校に入って初めてミキに出会ったんだよ?」
私は森田君の話を遮る。
「ああ。彼女はずっと精神体のまま君のそばで君を守っていた。
けれど、ある時強力な別の生命体が現れる。その存在を感じとるや否や、彼女は器を必要とした。その不穏な異分子に対抗するために。そして、一人の少女を犠牲にした。
久野ミキ。僕も、君も知らない本来の彼女を。」
私の驚愕の表情を少しおかしそうに見て、森田君は話を続ける。
「君のせいで、人一人の命がすでに犠牲にされていたんだ。…愉快なことではないよね。
話を続けよう。
人魚が警戒したのは、岸田先輩さ。
ふふ、けっさくだよね。あろうことか君が彼を好きになるなんて。」
森田君は笑っている。私はどんどん背筋が寒くなる。
次第に、森田君の笑いはかわいたものに変わっていった。そして彼は悲しそうにつぶやいく。
「岸田を警戒する必要なんてなかったんだよ。彼は僕を追ってきた僕のお目付け役だったんだから。
くそっ。タイミングが全てにおいて悪かった。あいつはまだ慣れてなかった。
窮鼠、猫を噛むって言うけど、笑えないよ。格下のマーメイドなんかに、食われるなんて。」
森田君は頭をかかえてしまった。私はいつの間にかのどがからからで、乾いた声しか出なかった。
「私のせいなのね。」
森田君は暗い目で私を見ると、ため息をついて告げる。
「いいや。
僕のせいだ。さっさと、この世界から去っていれば同胞を失うことを避けられたのに。
でも、今は後悔している場合じゃないんだ。僕は覚醒に時間をかけすぎてしまった。行動を起こさないと事態はどんどん暗転していく。」
「蜘蛛の存在のことを言っているの?」
「…。蜘蛛の姿なのか。」
森田君は黙り込む。私は妙に焦って言葉を紡ぐ。
「夢で見た蜘蛛のことをコスモスがこんなふうに言ってた。王。未完成品。欠陥物。
意味分かる?」
森田君は考え込むように眉根をよせる。
「君はどんな予知夢を見たんだ?どの時期に。」
あれは、予知夢だったの?予知夢って未来の出来事ってことだよね。
どの時期だった?私はいつどんな夢を見た?
なんだか、大事なことを私は見落としている。不安でぞくりと背中がふるえた。
蜘蛛の夢を見たのは、先輩とミキが消える前のことだ。それから、二人が消え。私は、先輩とミキの夢をみた。その後に、コスモスがやってくる。
あれ?ちょっと待って!コスモスがこの地球に現われたことをミキは知っていたのよね?その存在を知った後にミキのお腹は膨らんだのよね?あの時の出来事はあの夢を見た時点では、未来の出来事だったってことだ!
と、いうことは?ミキはまだ生きているかもしれないってことよね?あの怪物は生まれてないかもしれない可能性もあるってことよね?
そうなると、どうしてコスモスは蜘蛛の存在を知っているのだろう。
私は今気付いた事実と疑問を森田君に話した。
「きっと、コスモスは君の頭の中をのぞいたんだよ。」
私は、パソコンとドッキングした金魚の姿を思い浮かべた。私もあんな感じで接続されて知らぬうちに情報を引き出されていたのだろうか。気分が悪い。
「…プライバシーの侵害だわ。」
私は、はっとした。
「って、ことは彼女、森田君の存在に気がついているかもしれない!」
森田君は暗い目で外を見ている。
「どうやら、そのようだね。」
この教室は三階にある。その教室の窓の外に、宙に浮いている金魚の姿があった!金魚は尾びれをくゆらせ、一定の距離を保ちつつこちらをじっとうかがっている。いつからそこにいたんだろうか。
「僕まで食われるわけにはいかないねぇ。」
小さくつぶやくと、森田君はすばやい身のこなしで教室から出て行った。森田君の行動を見てとると、金魚は助走をつける為にいったん後退し、それからもの凄いスピードをつけてこちらへ突進してきた!
ぱりんと、ガラスの割れる音が響く。窓を突き破って金魚が教室内へ侵入した。いったん、ガラスの破片を振り払う為身ぶるいをするも、それは再度赤い弾丸と化し森田君の後を追って行く。
一瞬コスモスは燃えるような瞳で私を見た。しばらく動くことができなくなるほどの怒りに満ちた視線。呆然と残された私は、からっぽになったままの頭で飛び散ったガラスの後始末を簡単にしていた。窓には外から石でもぶつかったように小さな穴があいていて、それが冷たい風をひきこんでいる。
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