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第十八話〜思いがけない電話①〜
しおりを挟むお盆明け、勤務の都合でお盆休みがズレた兄と一緒に、父の誕生日プレゼントを探しに近くのショッピングモールへと出かけた。
どれにしようか散々迷った挙句、結局選んだのはいつもと同じ父の好きなお酒と消耗品の靴下。
プレゼント探しに奔走した疲れを癒す為の休憩中、フードコートのテーブルの上に置いたスマホがブブ……と震えた。
わぁ、珍しい人からの連絡だ……何だろう?
グループチャットでメッセージのやり取りをする事はあったけど、直接電話で話すのは初めてだから少しだけ緊張する。
目の前でアイスのコーンを美味しそうにかじる兄に目配せしてから、外のテラス席へと移動した。
『はい』
『あ、澄依ちゃん今大丈夫?』
『うん大丈夫だよ、前田君どうしたの?』
『あのさぁ、突然で悪いんだけど咲音が熱出して死にそうなんだよ。澄依ちゃんこの後時間ある? もし大丈夫なら、様子見に行ってもらえたらと思って』
『え、でも……前田君は行けないの?』
『俺これからバイトなんだ。それで明日も明後日もバイトだからさ』
『でも、私が行くのは迷惑って言うか……青山君嫌がると思う。それに友達なら他にもたくさんいるでしょ?』
告白して振られた事、知らないのかな?
そんな筈はないよね、あれだけ仲良しなんだもの、何かしら聞いているよね。
『澄依ちゃんこれは人助けだから! 人命救助だと思ってお願いっ!! 咲音には連絡しておくから』
結局、押し切られる形で青山君のアパートへ向かう事になってしまった。
『風邪ひいてる友達のところへお見舞いに行く』と言ったら、あの後すぐ兄が大学近くのコンビニまで車を走らせてくれて。
帰りも迎え行くからしっかり看病してあげな、と笑顔で送り出してくれた優しい兄。
しかも、これで何か買って行きなって、お小遣いまでくれた。
お兄ちゃん大好き。
でもまさか、男の子の部屋に行くとは露にも思っていないだろうけど。
えぇと、ここで前田君に言われたプリンを買っていくとして……後は熱だから、お粥と水分補給に何かペットボトルでも買っていけば良いかな。
『もしインターホン鳴らしても出てこなかったらだけど、玄関ドアのハンドルのところカバー開けて番号入れれば開くから』
それは流石に聞いたらいけない事だと思って、『そんな大事な番号は教えてもらう訳にはいかないよ』って言ったのに――
『澄依ちゃんの誕生日を西暦から八桁入力してみな』って。
どう言う意味?
もしかして、玄関の暗証番号を私の誕生日にしてるの?
もしそうだとして、そんな大切な番号をどうして私の誕生日に?
ダメダメ。
また期待するような事考えちゃう。
花火大会だってちょっと優しくされただけで舞い上がって、結果失敗したばかりなのに。
覚えやすい番号だったとか、きっとそんなところだよね。
もし……もしもだけど、特別な意味があったとしたら、私の告白だって受け入れてくれた筈だもの。
そう、だから暗証番号に深い意味なんてないから勘違いしちゃダメ!!
花火大会の夜、思い切って華奈ちゃんに今までの事を全部話したら、もう少し頑張ってみれば? って励ましてくれた。
その為にはいつまでも感傷に浸るのは止めて、自分磨きをする事が大切だとも言われて。
華奈ちゃんも大好きな人の為に、日頃から努力する事を怠らないのだとか。
だから、服装やメイクにも今まで以上に気を付けるようにしている。
その上いつまでも泣いてグズグズする私を、華奈ちゃんは嫌な顔ひとつ見せずに、私が泣き疲れて眠るまで優しく慰めてくれた。
おかげで立ち直るのが思ったよりもずっと早かったし、後期が始まったらまた大学で会えるかもしれないと期待していたけど、まさか今日会えるなんて。
良かった。
お兄ちゃんとのお出かけとは言え、ちゃんとお洒落しておいて。
でもちょっと待って。
青山君は熱を出していて、しかも死にそうなくらい重症なんだよね。
これは人命救助なんだった。
浮ついた気分はここまでにしよう。
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