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第三話〜別解を探してみる!?〜
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次の日曜日、スマホの通知音によって起こされた。
んもーう!
気持ち良く寝てたのに、こんなに朝早く誰?
寝ぼけ眼で画面に触れると、佐々木君からのメッセージが通知されている。
『今日暇? 良かったら一緒に映画でもどう?』
うーん、アプリ開こうかなどうしようかな。
ボンヤリした頭で考えを巡らせる。
だってまだ朝の八時だよ。
それに映画ならうーちゃんと見たい。
断られるのが怖くて、一度も誘った事はないけど。
返信を躊躇っている間に、再度通知音が鳴る。
『昨日言った事本気だから。チャンスちょうだい』
私もうーちゃんの事本気なんだよ。
でもうーちゃんは違う。
どうしよう、昨日の事思い出して朝から泣きそう。
誰かに聞いてもらいたいけど、私とうーちゃんの秘密を誰にも話したくない。
私だけが独り占めしていたいから。
それが例え辛い事だとしても。
考えてみれば、私は今まで他の人に目を向けた事は一度もなかったな。
もしかしたら、これは良い機会なのかもしれない。
佐々木君と……昼間一回会うくらいならいいよね。
言わば友達と遊ぶだけだもん。
別にうーちゃんを裏切るわけでもないし。
って、またそんな風にうーちゃんの事ばかり考えてる。
やめやめ!
今日は佐々木君とお出掛けして、今一度自分の気持ちを見つめ直してみよう。
『おはよ。いいよ』
『マジで? 車で行くから住所教えて』
漫画のキャラが大喜びしてるスタンプと共に来たメッセージは、私の荒んだ心を和ませてくれた。
*
佐々木君は、十時に迎えに来てくれるらしい。
後二時間近くあるから、朝ごはん食べてゆっくり準備しよう。
シャワーは……いい、浴びて行かない。
昨晩入ったもの。
服とメイクはどうしようかな、うーちゃんの為にいつも可愛い服着てメイクも頑張ってるけど、相手は佐々木君でしょ。
あーダメダメ!
誘ってくれた人にそんな考えは絶対良くない。
いつも通りでいいか。
フリルのトップスにミニスカートを合わせ、自慢の生脚を出す事にした。
大学で一番仲良しの友達、澄依ちゃんが褒めてくれたこの脚。
『華奈ちゃんって、脚が長くて細くてスタイルいいね! すごい羨ましいなぁ』
澄依ちゃんはそんな風に言ってくれたけど、私には澄依ちゃんみたいな女の子らしい子のがよほど羨ましいよ。
だって、小さくて細くて可愛くて、男子はきっとああいう女の子を守ってあげたくなるでしょ。
私だって、あのつぶらでクリッとしたウルウルの瞳に見つめられると、キュンとして何でもしてあげたくなっちゃうもの。
そう言えば訊いた事なかったけど、うーちゃんの好みのタイプってどんな人なんだろう。
やっぱり澄依ちゃんみたいな、小動物系の可愛い子が良いのかな。
幼馴染だし優しいから断れなかっただけで、私みたいな女子は、本当はあまり興味をそそらなかったりして。
どうせならモデル並みに高い身長で、グラビアアイドル並みに大きなおっぱいなら良かった。
背もそこそこ、おっぱいもそこそこ、頭もそこそこ。
何でも"そこそこ"の中途半端な私だけど、うーちゃんへの気持ちは、誰にも負けないくらい本物なのに。
自虐のせいでお出かけ前にだいぶメンタル削られたけど、気を取り直してメイクに取り掛かる。
今日は服装に合わせてふんわり可愛い感じにして、髪の毛はゆるふわ巻きにした。
香水……これは、うーちゃんの好きな香り――ううん、そんなの関係なく私が好きな香りだから付けていこう。
うん!
自分で言うのも何だけど、これはけっこう盛れたんじゃない?
全身鏡で最終チェックをしていると、スマホがポヨンポヨン連続で鳴る。
『今から出るから』
車のスタンプと共に送られたメッセージ。
佐々木君の家からだとおそらく十分足らずでウチに着くはず。
親に見られて色々言われると面倒だから、もう下に降りて玄関の外で待ってよう。
私の読み通り、玄関から出た時点で見慣れない車が家の前に停まった。
スポーツタイプの速そうな雰囲気の赤い車だ。
さすが同じ学区内、とにかく家を出てから着くまでが早い。
車の中から佐々木君が手を振るので、助手席側に回る。
車のドアをガチャと開けた時、視線を感じ一瞬手が止まった。
愛用のクロスバイクをメンテナンスする、うーちゃんからの視線だ。
「内藤? 乗らないの?」
「あ、ごめん」
佐々木君からの催促でようやく我にかえり、助手席のシートに腰を下ろす。
まだシートベルトをしている途中なのに、早々と車は動き出した。
その間、お隣さんの駐車場へ目を向ける事は一度も出来なかった。
走り出した車は、住宅地を抜けて県道前の信号待ちで停車中。
「これ佐々木君の車なの?」
「そうだよ。学校までこれで行ってる」
佐々木君は確か、自動車整備の専門学校へ行ってるって耳にした事がある。
この車も車好きの男子が選びそうなやつだし、なんか色々と納得。
「そうなんだ~。自分の車あるとどこへでも行けるからいいね」
「内藤はこういう車好き?」
「私、あまり車詳しくないからよく分からないけど、いいと思うよ」
「そう? 内藤ならどこへでも連れて行ってあげるから、いつでも呼んでよ」
愛車を誉められて気を良くしたのか、佐々木君の声のトーンがいつもより高くなった。
ようやく青になった信号に、心なしかハンドルを切る手つきも軽やかだ。
自分で振った話だけど、半分はお世辞も含まれてるのに、そんな事言われても困るんだけどな。
車の話題を振るのは、この辺で終わりにしておこう。
あはは、と愛想笑いで誤魔化して、さりげなく別の話題へ方向転換。
『今日はどこに映画見に行くの?』
『とりあえずデートの定番、イ◯ンでいい?』
『いいよ』
隣街にある、定番デートスポットのイ◯ン。
ファミリーからカップル、そして友人同士、あらゆる老若男女が集う愛すべき県民の為の商業施設だ。
まさか、そこに佐々木君と二人で行く事になるとは。
『今日の服可愛いな。めっちゃ俺の好み』
『そ、そう?』
『うん、メイクも似合ってるし。二人で出掛けるのすげー嬉しい』
『そう言ってもらえて光栄です』
『なんだよ、急にかしこまるなよ。変な感じするじゃん』
だって変なのは佐々木君でしょ。
会った途端に褒め殺しのフルスイング決められるし、今まで一対一で話した事すらほぼなかったんだから。
そもそも、私の事そんな風に思ってるなんて知らなかったし。
それにしても、今日のフリルのトップス、ちょっと失敗したかもしれない。
胸元に食い込むシートベルトがやけに胸を強調してる気がするし、信号待ちの度に邪な視線を感じる。
男の子ならそんなもんなのかな。
うーちゃんはどうだった?
……知らない、そんなの。
「佐々木君、信号青!」
「あ、あぁ……悪ぃ。ついおっぱいに見惚れてたわ」
ほほう、正直でよろしい。
隠さないだけ好感持てるっちゃ、持てるか。
「そんな事言ってないで、運転に集中して。捕まるよ!」
「華奈ポリスになら捕まってもいいけど」
なんじゃそりゃ。
どんなポリスだよ。
しかも、ドサクサに紛れて名前で呼んでるし。
「なんか、今日の佐々木君おじさんみたいよ」
「ごめん。嬉しくて浮かれてたわ」
私が思っているよりも、佐々木君は本気で想ってくれているのかもしれない。
くたっとした笑顔で照れる彼を見ていると、なんて言って返せば良いのか分からなかった。
*
三十分ほど車を走らせ到着したイ◯ンは、駐車場がなかなか見つからないほど混んでいた。
梅雨でお天気が不安定だから、室内で遊べる場所はどうしても人が集うのだ。
ヤリ◯ンの噂がある佐々木君は、確かに女慣れしていたし気遣いも上手で優しかった。
それなのに、映画を見てもお昼を食べても何をしていても、私の心はずっとうーちゃんに囚われたままで心の底からは楽しめなかった。
色々と気遣ってくれた佐々木君には申し訳ない。
「華奈この後どうする?」
駐車場に戻り車内でひと息。
ペットボトルのジュースを飲みながら佐々木君が尋ねる。
もうすっかり下の名前で呼ぶのが定着したみたいだ。
「明日学校だから帰ろう? 佐々木君も学校あるでしょ?」
「俺はもう少し遅くなっても平気だよ」
「でも……」
今日は帰ろうよ、運転席に向かって言いかけたところで、いつになく真剣な顔つきの佐々木君が急に目の前に近づいた。
キスされるーー
「やだっ!」
慌てて顔を背け、彼の胸元を押し返す。
「ダメ?」
今日一甘い、そして今までにない情欲を滲ませた声が狭い車内に響く。
「ごめん、それは無理」
「無理って酷いな」
「ごめんなさい」
「謝らないでよ。華奈はやっぱり桃井かぁー」
大きく息を吐き出すように「んぁー!」と言いながら、佐々木君はハンドルにもたれかかる。
「どうしてそこで桃井君?」
「んなの見てれば分かるよ。前から華奈の事いいなって思ってたって言ったじゃん? あれ実は中学の時から。でもあの時から、華奈は桃井の事しか見てなかったもんな」
そんな前から……知らなかった。
だって、佐々木君には彼女の噂があったくらいだもの、気づかないよ。
それに私そんなにうーちゃんの事見てたつもりないのに、どうして佐々木君にはバレてるんだろう。
「今日だって車乗る時ずっとこっち見てたよ、あいつ。あまりに見るからさ、華奈シートベルトしてる途中なのにブレーキ離しちゃった。急かしてるみたいで嫌だったよな、ごめんな」
あれそうだったんだ。
黙ってはいたけど、シートベルトし終わってないのに動き出すの、本当は嫌だなって思ってたんだよね。
「でも、うーちゃんは私の事なんて……」
「うわっ、すでにうーちゃん呼びかよ。これじゃ俺なんて眼中にないはずだわ」
「あ……」
言ってしまった。
つい、いつもの癖で。
あからさまにしまった、という顔をした私に、佐々木君は「他の奴には言わないよ」と頭をポンポンしながら落ち着いた声で宥めてくれた。
優しい人。
優しくていい人だから、気持ちに応えられない事が余計に申し訳ない。
今日一日、隣にいる佐々木君の事、私は全然見ていなかった。
どのお店を見ても何をしていても、ずっとうーちゃんの事ばかり考えていた。
それすらも、佐々木君には全てお見通しだったのかもしれない。
だからあのキス未遂も、私の気持ちを確かめる為にワザと――
導き出されたのは、ひとつの答え。
「本当にごめんなさい。でもありがとう」
「いいよ、一度でもデート出来たから俺は良かった。じゃー帰るか!」
帰り道は、佐々木君の恋バナで盛り上がった。
チャラチャラしてるように思われるけど、好きになった子には一途なんだって。
うん、分かるよ。
私だって、うーちゃんがいなかったら……もしかしたら、どうなっていたか分からないもの。
「華奈、一度ちゃんと桃井と話した方がいいよ。だってほら、見てみ?」
家の近くの角を曲がったら、うーちゃんの家の前で腕組みをして立っている人の姿が目に入った。
もしかしてうーちゃん?
車が進むにつれて予想が確信へと変わる。
やっぱり間違いなくうーちゃんだ。
シンプルな白Tに、いつものお気に入りのチノパン姿。
うーちゃんが好きな、アメリカ発アウトドアブランドの。
アウトドアなんて一切しないくせにっ。
「佐々木君、今日は本当にありがとう。気をつけて帰ってね」
颯爽と去っていく車を見送った後、すぐに踵を返してうーちゃんに駆け寄った。
んもーう!
気持ち良く寝てたのに、こんなに朝早く誰?
寝ぼけ眼で画面に触れると、佐々木君からのメッセージが通知されている。
『今日暇? 良かったら一緒に映画でもどう?』
うーん、アプリ開こうかなどうしようかな。
ボンヤリした頭で考えを巡らせる。
だってまだ朝の八時だよ。
それに映画ならうーちゃんと見たい。
断られるのが怖くて、一度も誘った事はないけど。
返信を躊躇っている間に、再度通知音が鳴る。
『昨日言った事本気だから。チャンスちょうだい』
私もうーちゃんの事本気なんだよ。
でもうーちゃんは違う。
どうしよう、昨日の事思い出して朝から泣きそう。
誰かに聞いてもらいたいけど、私とうーちゃんの秘密を誰にも話したくない。
私だけが独り占めしていたいから。
それが例え辛い事だとしても。
考えてみれば、私は今まで他の人に目を向けた事は一度もなかったな。
もしかしたら、これは良い機会なのかもしれない。
佐々木君と……昼間一回会うくらいならいいよね。
言わば友達と遊ぶだけだもん。
別にうーちゃんを裏切るわけでもないし。
って、またそんな風にうーちゃんの事ばかり考えてる。
やめやめ!
今日は佐々木君とお出掛けして、今一度自分の気持ちを見つめ直してみよう。
『おはよ。いいよ』
『マジで? 車で行くから住所教えて』
漫画のキャラが大喜びしてるスタンプと共に来たメッセージは、私の荒んだ心を和ませてくれた。
*
佐々木君は、十時に迎えに来てくれるらしい。
後二時間近くあるから、朝ごはん食べてゆっくり準備しよう。
シャワーは……いい、浴びて行かない。
昨晩入ったもの。
服とメイクはどうしようかな、うーちゃんの為にいつも可愛い服着てメイクも頑張ってるけど、相手は佐々木君でしょ。
あーダメダメ!
誘ってくれた人にそんな考えは絶対良くない。
いつも通りでいいか。
フリルのトップスにミニスカートを合わせ、自慢の生脚を出す事にした。
大学で一番仲良しの友達、澄依ちゃんが褒めてくれたこの脚。
『華奈ちゃんって、脚が長くて細くてスタイルいいね! すごい羨ましいなぁ』
澄依ちゃんはそんな風に言ってくれたけど、私には澄依ちゃんみたいな女の子らしい子のがよほど羨ましいよ。
だって、小さくて細くて可愛くて、男子はきっとああいう女の子を守ってあげたくなるでしょ。
私だって、あのつぶらでクリッとしたウルウルの瞳に見つめられると、キュンとして何でもしてあげたくなっちゃうもの。
そう言えば訊いた事なかったけど、うーちゃんの好みのタイプってどんな人なんだろう。
やっぱり澄依ちゃんみたいな、小動物系の可愛い子が良いのかな。
幼馴染だし優しいから断れなかっただけで、私みたいな女子は、本当はあまり興味をそそらなかったりして。
どうせならモデル並みに高い身長で、グラビアアイドル並みに大きなおっぱいなら良かった。
背もそこそこ、おっぱいもそこそこ、頭もそこそこ。
何でも"そこそこ"の中途半端な私だけど、うーちゃんへの気持ちは、誰にも負けないくらい本物なのに。
自虐のせいでお出かけ前にだいぶメンタル削られたけど、気を取り直してメイクに取り掛かる。
今日は服装に合わせてふんわり可愛い感じにして、髪の毛はゆるふわ巻きにした。
香水……これは、うーちゃんの好きな香り――ううん、そんなの関係なく私が好きな香りだから付けていこう。
うん!
自分で言うのも何だけど、これはけっこう盛れたんじゃない?
全身鏡で最終チェックをしていると、スマホがポヨンポヨン連続で鳴る。
『今から出るから』
車のスタンプと共に送られたメッセージ。
佐々木君の家からだとおそらく十分足らずでウチに着くはず。
親に見られて色々言われると面倒だから、もう下に降りて玄関の外で待ってよう。
私の読み通り、玄関から出た時点で見慣れない車が家の前に停まった。
スポーツタイプの速そうな雰囲気の赤い車だ。
さすが同じ学区内、とにかく家を出てから着くまでが早い。
車の中から佐々木君が手を振るので、助手席側に回る。
車のドアをガチャと開けた時、視線を感じ一瞬手が止まった。
愛用のクロスバイクをメンテナンスする、うーちゃんからの視線だ。
「内藤? 乗らないの?」
「あ、ごめん」
佐々木君からの催促でようやく我にかえり、助手席のシートに腰を下ろす。
まだシートベルトをしている途中なのに、早々と車は動き出した。
その間、お隣さんの駐車場へ目を向ける事は一度も出来なかった。
走り出した車は、住宅地を抜けて県道前の信号待ちで停車中。
「これ佐々木君の車なの?」
「そうだよ。学校までこれで行ってる」
佐々木君は確か、自動車整備の専門学校へ行ってるって耳にした事がある。
この車も車好きの男子が選びそうなやつだし、なんか色々と納得。
「そうなんだ~。自分の車あるとどこへでも行けるからいいね」
「内藤はこういう車好き?」
「私、あまり車詳しくないからよく分からないけど、いいと思うよ」
「そう? 内藤ならどこへでも連れて行ってあげるから、いつでも呼んでよ」
愛車を誉められて気を良くしたのか、佐々木君の声のトーンがいつもより高くなった。
ようやく青になった信号に、心なしかハンドルを切る手つきも軽やかだ。
自分で振った話だけど、半分はお世辞も含まれてるのに、そんな事言われても困るんだけどな。
車の話題を振るのは、この辺で終わりにしておこう。
あはは、と愛想笑いで誤魔化して、さりげなく別の話題へ方向転換。
『今日はどこに映画見に行くの?』
『とりあえずデートの定番、イ◯ンでいい?』
『いいよ』
隣街にある、定番デートスポットのイ◯ン。
ファミリーからカップル、そして友人同士、あらゆる老若男女が集う愛すべき県民の為の商業施設だ。
まさか、そこに佐々木君と二人で行く事になるとは。
『今日の服可愛いな。めっちゃ俺の好み』
『そ、そう?』
『うん、メイクも似合ってるし。二人で出掛けるのすげー嬉しい』
『そう言ってもらえて光栄です』
『なんだよ、急にかしこまるなよ。変な感じするじゃん』
だって変なのは佐々木君でしょ。
会った途端に褒め殺しのフルスイング決められるし、今まで一対一で話した事すらほぼなかったんだから。
そもそも、私の事そんな風に思ってるなんて知らなかったし。
それにしても、今日のフリルのトップス、ちょっと失敗したかもしれない。
胸元に食い込むシートベルトがやけに胸を強調してる気がするし、信号待ちの度に邪な視線を感じる。
男の子ならそんなもんなのかな。
うーちゃんはどうだった?
……知らない、そんなの。
「佐々木君、信号青!」
「あ、あぁ……悪ぃ。ついおっぱいに見惚れてたわ」
ほほう、正直でよろしい。
隠さないだけ好感持てるっちゃ、持てるか。
「そんな事言ってないで、運転に集中して。捕まるよ!」
「華奈ポリスになら捕まってもいいけど」
なんじゃそりゃ。
どんなポリスだよ。
しかも、ドサクサに紛れて名前で呼んでるし。
「なんか、今日の佐々木君おじさんみたいよ」
「ごめん。嬉しくて浮かれてたわ」
私が思っているよりも、佐々木君は本気で想ってくれているのかもしれない。
くたっとした笑顔で照れる彼を見ていると、なんて言って返せば良いのか分からなかった。
*
三十分ほど車を走らせ到着したイ◯ンは、駐車場がなかなか見つからないほど混んでいた。
梅雨でお天気が不安定だから、室内で遊べる場所はどうしても人が集うのだ。
ヤリ◯ンの噂がある佐々木君は、確かに女慣れしていたし気遣いも上手で優しかった。
それなのに、映画を見てもお昼を食べても何をしていても、私の心はずっとうーちゃんに囚われたままで心の底からは楽しめなかった。
色々と気遣ってくれた佐々木君には申し訳ない。
「華奈この後どうする?」
駐車場に戻り車内でひと息。
ペットボトルのジュースを飲みながら佐々木君が尋ねる。
もうすっかり下の名前で呼ぶのが定着したみたいだ。
「明日学校だから帰ろう? 佐々木君も学校あるでしょ?」
「俺はもう少し遅くなっても平気だよ」
「でも……」
今日は帰ろうよ、運転席に向かって言いかけたところで、いつになく真剣な顔つきの佐々木君が急に目の前に近づいた。
キスされるーー
「やだっ!」
慌てて顔を背け、彼の胸元を押し返す。
「ダメ?」
今日一甘い、そして今までにない情欲を滲ませた声が狭い車内に響く。
「ごめん、それは無理」
「無理って酷いな」
「ごめんなさい」
「謝らないでよ。華奈はやっぱり桃井かぁー」
大きく息を吐き出すように「んぁー!」と言いながら、佐々木君はハンドルにもたれかかる。
「どうしてそこで桃井君?」
「んなの見てれば分かるよ。前から華奈の事いいなって思ってたって言ったじゃん? あれ実は中学の時から。でもあの時から、華奈は桃井の事しか見てなかったもんな」
そんな前から……知らなかった。
だって、佐々木君には彼女の噂があったくらいだもの、気づかないよ。
それに私そんなにうーちゃんの事見てたつもりないのに、どうして佐々木君にはバレてるんだろう。
「今日だって車乗る時ずっとこっち見てたよ、あいつ。あまりに見るからさ、華奈シートベルトしてる途中なのにブレーキ離しちゃった。急かしてるみたいで嫌だったよな、ごめんな」
あれそうだったんだ。
黙ってはいたけど、シートベルトし終わってないのに動き出すの、本当は嫌だなって思ってたんだよね。
「でも、うーちゃんは私の事なんて……」
「うわっ、すでにうーちゃん呼びかよ。これじゃ俺なんて眼中にないはずだわ」
「あ……」
言ってしまった。
つい、いつもの癖で。
あからさまにしまった、という顔をした私に、佐々木君は「他の奴には言わないよ」と頭をポンポンしながら落ち着いた声で宥めてくれた。
優しい人。
優しくていい人だから、気持ちに応えられない事が余計に申し訳ない。
今日一日、隣にいる佐々木君の事、私は全然見ていなかった。
どのお店を見ても何をしていても、ずっとうーちゃんの事ばかり考えていた。
それすらも、佐々木君には全てお見通しだったのかもしれない。
だからあのキス未遂も、私の気持ちを確かめる為にワザと――
導き出されたのは、ひとつの答え。
「本当にごめんなさい。でもありがとう」
「いいよ、一度でもデート出来たから俺は良かった。じゃー帰るか!」
帰り道は、佐々木君の恋バナで盛り上がった。
チャラチャラしてるように思われるけど、好きになった子には一途なんだって。
うん、分かるよ。
私だって、うーちゃんがいなかったら……もしかしたら、どうなっていたか分からないもの。
「華奈、一度ちゃんと桃井と話した方がいいよ。だってほら、見てみ?」
家の近くの角を曲がったら、うーちゃんの家の前で腕組みをして立っている人の姿が目に入った。
もしかしてうーちゃん?
車が進むにつれて予想が確信へと変わる。
やっぱり間違いなくうーちゃんだ。
シンプルな白Tに、いつものお気に入りのチノパン姿。
うーちゃんが好きな、アメリカ発アウトドアブランドの。
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