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2章
18話「ハルトの考え」
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キャラバン隊のラクダに乗せてもらって移動する事になっているアルスとハルトは準備を頼まれていた道具類を異空間魔法が掛かっている道具袋の中に納めて準備を整えていた。主にハルトが準備をしてくれているので何に使うか分からない物は説明してもらわないとアルスには使い方も分からない状態ではあったが。
キャラバン隊の準備は早かった、それだけアルスとハルトにアースドラゴンの事を頼むしかない現実にどうにか手助けをしたいとの願いがあるのではないだろうかとハルトはうっすらと沈み始めている太陽の陽射しを浴びながら考えていた。ラクダに乗り込んだアルスはすぐにラクダにも心を開いてもらえて安全に移動できるだけの信頼関係は結べたようである。
「それじゃ今から出て3日後の昼間には到着出来るように行くぞ」
「お願いします」
「頼む」
リーダーの男から移動の合図が出てキャラバン隊はオアシスの街を出てアースドラゴンの巣穴に向かう為に移動を開始、道中は比較的砂漠の魔物達が出ないルートを通ってもらっていたお陰で余計な体力の消耗はなかった。だが、アルスは昼夜の温暖差に若干身体が麻痺し始めているのか口数が少なかったのがハルトなりに心配して、街で買ったある物を食べさせる。
「これは?」
「体内の熱を逃がすのと夜に食べれば身体を温めてくれる木の実だよ。キャラバン隊では常に移動をする時には絶対持ち歩く食べ物なんだ。これで少し身体も楽になると思うよ。体内が乱れているんでしょ?」
「ん、なんか昼間の暑さが夜にも続くなら良かったんだが、冷えるだろ? 体内の神経が乱れて変な感じになっててさ。助かる」
「ううん、砂漠に慣れてないから仕方ないよ。しっかり食べておいて。水分もまだあるから飲んでいいし」
「ハルトは」
「ん?」
「慣れているのは口振りで分かるが、そんなに長くキャラバン隊にいたのか?」
「それなりにいたよ。元々僕はこのアルガスト大陸の産まれじゃないしね」
そこまで話してくれたハルトの過去をアルスは少しだけ気になってしまうが、リーダーの男が声を上げた。指を差す方向を見ると砂の中に大きな穴がぽっかりと一定間隔で開いておりそこがアースドラゴンの巣穴であるという。
アルスとハルトはリーダーの男に近付き状況を確認する。思っていた以上に着くのが早かったと思ったハルトが男に何かを問い掛けているがアルスはアースドラゴンの巣穴に何かがいるのに気付いていた。
聖槍アーノルドを召喚したアルスに気付いたハルトも巣穴の中に何かがいるのに気付いて弓を構えている。キャラバン隊の男達も武器を片手にラクダを降りて巣穴に近付いた。
「ちっ、邪魔者か」
「お前達はアースドラゴンの巣穴にいるって事は密猟者か!」
「逃がさねぇからな? ハルト!」
「砂に適応しているから空からの攻撃には回避力がある。アルスはドラゴン達を。僕達が引き付ける!」
「悪い!」
巣穴の中にいたのはコソ泥風情の密猟者達だった。キャラバン隊の男達と連携を取りながら1人、1人と密猟者の確保をしていたハルトは全員を捕えた上で1人の男の顔に見覚えがあった。
一方アースドラゴンの子供達の身体には真新しい鱗が剝がされての出血が見られていた。アルスは竜とドラゴンに使える癒しの薬を手早く全てのドラゴン達に塗り込んで再生能力を高めてやってから、怯えているドラゴン達に優しく触れて落ち着かせていった。
そこにキャラバン隊のリーダーの男が近寄りアースドラゴンの様子を確認していたが、アルスが塗った薬のお陰て鱗が剥がされた場所の怪我や前に剥がされてしまった部分に新しい肉と鱗が生え出しているのに驚きの声を上げる。
「こんなに早く再生するのか」
「あくまで俺が塗ったのはドラゴンの個体が持つ再生能力を高める薬だ。まだ子供だから再生能力が高い、だからすぐに回復する。それより親たちがそろそろ戻ってくるんじゃないかな」
「あぁ、今仲間に親ドラゴンに子供達の元に帰る為の香りを砂漠に炊かせている。これで親ドラゴン達に謝罪が出来る。だが、まさかあの男達がこんなに手際よく密漁出来ているなんて予想外だ」
「繁殖期とは言えドラゴンの子供でも人間を噛み殺す事は出来る。何か裏があるんじゃないか? そこら辺が分からないと手の打ちようがない」
「恐らくこれだと思う」
「なんだそれ?」
「それは……」
ハルトが持ち出して来たのはドラゴンの肉片を腐らせた肉を入れてドラゴンの意識を妨害する香りを放つ壺だった。先程の密猟者の1人はギルドの情報網で指名手配されていたドラゴンの子供を殺すハンターの男で、その男はこの壺を使って子供ドラゴンの意識を妨害して密漁を行っていた、とリーダーの男とアルスに説明する。
それを聞いたリーダーの男は壺を見て眉根を寄せて舌打ちし、アルスはドラゴン達の中でも子供にはまだその手の妨害方法が効く事にショックを受けていた。そして、リーダーの男にハルトが男達をギルドに引き渡せばそれなりの報酬が得れると説明して、信用の置ける者達に男達を街まで連行させるようにお願いした。
「半数は街に行かせるが、残りはテントを張って少し休ませる。流石に女達や子供達も疲れているからな」
「俺は親ドラゴンが戻るまでこの子達に付き添う。ちゃんとケアしてやらないと人間を敵だとみなして襲うようになっちまうからな」
「僕は食事を作ってくるよ。それでアルスと一緒にいる。アルファもいい加減出て来るだろうし」
「神獣の子ならさっき子供達と遊んでいたからそろそろお疲れだろう。食料も分けてやるからしっかり食べて待つ時間を過ごしてくれ」
それぞれが作業に取り掛かり準備を終えた者から待機する場所に腰を据える。アルスとハルトはキャラバン隊の子供と遊んでいたアルファと共にアースドラゴンの巣穴の中で親ドラゴンを待っていた。
暫くしてアルファが耳を立て子供ドラゴン達が一斉に翼を動かし始める。戻ってきたと2人は気付いて座っていた腰を上げて親ドラゴン達を迎えた。
『グォォォ!』
「俺は竜騎士アルス。お前達と話をしにきた者だ。それと謝罪をしにな」
『グォォ?』
「俺達はドラゴンとの共存の道を探すべく、この悲しみの連鎖を終わらせる為に対話に来た。その始めにお前達アースドラゴンの元に来たら愚かな密猟者達が子供達の鱗を奪っているのを知った。もう密猟者達は捕まえたが子供達は人間を敵だと思ってしまうかも知れない。だが、信じて欲しい。俺達の全てがアースドラゴンの事を敵だと思っている訳ではない事を」
『……』
『お願い、ボク達の言葉を聞いて! アルスは子供達の怪我治した。それは罪を償う為にでもあるかも知れない。でも、共存出来る未来を信じようとする者の優しさは貴方達も知っている筈だよ!』
アルファの言葉をアースドラゴンの1頭が静かに聞いていた。そして、子供達の身体に見える怪我の跡を見てからアルスの両手に残る傷の跡を見て静かにアルファに言葉を伝える。
アルスだってドラゴンの話す言葉が分からない訳ではないが、ここでは静かにアルファに任せた方が良いのは本能的に悟っていた。ハンターでもあるハルトは部外者になってしまっているが近くの親子ドラゴンがハルトの手に鼻先を押し付けてくる子供ドラゴンの可愛らしい甘え方にハルトは微笑みを浮かべて好きにさせている。
『アルス、アースドラゴンの長が示した試練を超えれればアースドラゴン達は対話に応じるって言っている』
「どんな試練か聞いてもいいだろうか? 勿論どんな試練だろうと受けると誓う」
『グォ』
『このゴルゾーネ砂漠の果てにあると言われる大地の泉に再び泉を復活させてみろ、だって。今その泉は枯れ果ててしまってアースドラゴン達は水を求めてゴルゾーネ砂漠の外に行かなきゃなんだって。アースドラゴンを救いたいと思うのであれば長の試練を超えろって事みたい』
「分かった。待っててくれ。必ず泉を復活させる。だから、外にいるキャラバン隊は襲わないでくれ」
アルスは深々とアースドラゴン達に頭を下げて一礼する。それは過去の戦いの中では決してあり得なかった竜騎士の謝罪も込められているのだろう。
ハルトはその姿を見つめて思う。アルスはきっとこの悲しみの苦しみを1人で背負ってまで終わらせる為に人生を使う事も厭わない事を。
ハルトは手に甘えてくる子供ドラゴンの頭を撫でてお別れを告げるとアルファを呼んでアルスと共に巣穴を出た。アルファをマントの中に入れてキャラバン隊のテントに向かう。
まず大地の泉を探す為にも移動にラクダを借りないといけない。それを伝えに行くとリーダーの男はとても有益な情報と承諾をしてくれた。
「大地の泉かは断定出来ねぇが、この位置から北上した先に砂丘の中に枯れたオアシスがある。そこは昔からアースドラゴン達の水飲み場だったと言われててキャラバン隊も見守っていた場所だ。いつからか枯れちまって復活させる方法が分からなくて困ってはいるんだがな。俺達は一度街に戻る。ラクダと食料と水を持って行け。どうか試練を超えてくれ」
「ありがとうございます。皆さんもご無事で」
「本当にありがとうな。恩に着るよ」
「アースドラゴン達を守る為なら俺達はどんな苦難も受け入れる。それがこのゴルゾーネ砂漠のキャラバン隊としての誇りだ」
リーダーの男は必要になるだろう分の食料と水をラクダに積んでくれてからキャラバン隊を率いてオアシスの街へと戻っていった。ハルトとアルスはラクダに乗って北上を開始する。
その途中でハルトはアルスに今までの旅の中で考えていた事を質問していた。アルスもいつかはそんな質問をされるだろうと考えていたのだろう、嫌な顔をする事もなくハルトの口から紡がれる質問を聞いていた。
「アルスは、自分の竜騎士としての人生を全てのドラゴン達への謝罪と対話に使う気なのかい?」
「そうだな。俺個人の考えにはなっちまうけれど……この悲しみの果てにある未来はそんなに悲しみには染まって欲しくないんだ。過去の竜騎士達も本当はドラゴンを殺めたかったのか、定かじゃないがその罪を償うのはいつだってその時代を生きる者達だって思っている」
ハルトの耳に聞こえてくるアルスの言葉はどれもが希望へと繋がって輝きだす言葉達だ。だが、それに伴う痛みも悲しみも苦しみも、アルスは1人で背負う。
ハルトの心にはその全てを一緒に担ぐ覚悟はしっかりある。だって、ハルトは自分の中にあるこのどうしようもないアルスへの愛情が絡む感情をどう呼ぶのかを知っているのだから――――。
キャラバン隊の準備は早かった、それだけアルスとハルトにアースドラゴンの事を頼むしかない現実にどうにか手助けをしたいとの願いがあるのではないだろうかとハルトはうっすらと沈み始めている太陽の陽射しを浴びながら考えていた。ラクダに乗り込んだアルスはすぐにラクダにも心を開いてもらえて安全に移動できるだけの信頼関係は結べたようである。
「それじゃ今から出て3日後の昼間には到着出来るように行くぞ」
「お願いします」
「頼む」
リーダーの男から移動の合図が出てキャラバン隊はオアシスの街を出てアースドラゴンの巣穴に向かう為に移動を開始、道中は比較的砂漠の魔物達が出ないルートを通ってもらっていたお陰で余計な体力の消耗はなかった。だが、アルスは昼夜の温暖差に若干身体が麻痺し始めているのか口数が少なかったのがハルトなりに心配して、街で買ったある物を食べさせる。
「これは?」
「体内の熱を逃がすのと夜に食べれば身体を温めてくれる木の実だよ。キャラバン隊では常に移動をする時には絶対持ち歩く食べ物なんだ。これで少し身体も楽になると思うよ。体内が乱れているんでしょ?」
「ん、なんか昼間の暑さが夜にも続くなら良かったんだが、冷えるだろ? 体内の神経が乱れて変な感じになっててさ。助かる」
「ううん、砂漠に慣れてないから仕方ないよ。しっかり食べておいて。水分もまだあるから飲んでいいし」
「ハルトは」
「ん?」
「慣れているのは口振りで分かるが、そんなに長くキャラバン隊にいたのか?」
「それなりにいたよ。元々僕はこのアルガスト大陸の産まれじゃないしね」
そこまで話してくれたハルトの過去をアルスは少しだけ気になってしまうが、リーダーの男が声を上げた。指を差す方向を見ると砂の中に大きな穴がぽっかりと一定間隔で開いておりそこがアースドラゴンの巣穴であるという。
アルスとハルトはリーダーの男に近付き状況を確認する。思っていた以上に着くのが早かったと思ったハルトが男に何かを問い掛けているがアルスはアースドラゴンの巣穴に何かがいるのに気付いていた。
聖槍アーノルドを召喚したアルスに気付いたハルトも巣穴の中に何かがいるのに気付いて弓を構えている。キャラバン隊の男達も武器を片手にラクダを降りて巣穴に近付いた。
「ちっ、邪魔者か」
「お前達はアースドラゴンの巣穴にいるって事は密猟者か!」
「逃がさねぇからな? ハルト!」
「砂に適応しているから空からの攻撃には回避力がある。アルスはドラゴン達を。僕達が引き付ける!」
「悪い!」
巣穴の中にいたのはコソ泥風情の密猟者達だった。キャラバン隊の男達と連携を取りながら1人、1人と密猟者の確保をしていたハルトは全員を捕えた上で1人の男の顔に見覚えがあった。
一方アースドラゴンの子供達の身体には真新しい鱗が剝がされての出血が見られていた。アルスは竜とドラゴンに使える癒しの薬を手早く全てのドラゴン達に塗り込んで再生能力を高めてやってから、怯えているドラゴン達に優しく触れて落ち着かせていった。
そこにキャラバン隊のリーダーの男が近寄りアースドラゴンの様子を確認していたが、アルスが塗った薬のお陰て鱗が剥がされた場所の怪我や前に剥がされてしまった部分に新しい肉と鱗が生え出しているのに驚きの声を上げる。
「こんなに早く再生するのか」
「あくまで俺が塗ったのはドラゴンの個体が持つ再生能力を高める薬だ。まだ子供だから再生能力が高い、だからすぐに回復する。それより親たちがそろそろ戻ってくるんじゃないかな」
「あぁ、今仲間に親ドラゴンに子供達の元に帰る為の香りを砂漠に炊かせている。これで親ドラゴン達に謝罪が出来る。だが、まさかあの男達がこんなに手際よく密漁出来ているなんて予想外だ」
「繁殖期とは言えドラゴンの子供でも人間を噛み殺す事は出来る。何か裏があるんじゃないか? そこら辺が分からないと手の打ちようがない」
「恐らくこれだと思う」
「なんだそれ?」
「それは……」
ハルトが持ち出して来たのはドラゴンの肉片を腐らせた肉を入れてドラゴンの意識を妨害する香りを放つ壺だった。先程の密猟者の1人はギルドの情報網で指名手配されていたドラゴンの子供を殺すハンターの男で、その男はこの壺を使って子供ドラゴンの意識を妨害して密漁を行っていた、とリーダーの男とアルスに説明する。
それを聞いたリーダーの男は壺を見て眉根を寄せて舌打ちし、アルスはドラゴン達の中でも子供にはまだその手の妨害方法が効く事にショックを受けていた。そして、リーダーの男にハルトが男達をギルドに引き渡せばそれなりの報酬が得れると説明して、信用の置ける者達に男達を街まで連行させるようにお願いした。
「半数は街に行かせるが、残りはテントを張って少し休ませる。流石に女達や子供達も疲れているからな」
「俺は親ドラゴンが戻るまでこの子達に付き添う。ちゃんとケアしてやらないと人間を敵だとみなして襲うようになっちまうからな」
「僕は食事を作ってくるよ。それでアルスと一緒にいる。アルファもいい加減出て来るだろうし」
「神獣の子ならさっき子供達と遊んでいたからそろそろお疲れだろう。食料も分けてやるからしっかり食べて待つ時間を過ごしてくれ」
それぞれが作業に取り掛かり準備を終えた者から待機する場所に腰を据える。アルスとハルトはキャラバン隊の子供と遊んでいたアルファと共にアースドラゴンの巣穴の中で親ドラゴンを待っていた。
暫くしてアルファが耳を立て子供ドラゴン達が一斉に翼を動かし始める。戻ってきたと2人は気付いて座っていた腰を上げて親ドラゴン達を迎えた。
『グォォォ!』
「俺は竜騎士アルス。お前達と話をしにきた者だ。それと謝罪をしにな」
『グォォ?』
「俺達はドラゴンとの共存の道を探すべく、この悲しみの連鎖を終わらせる為に対話に来た。その始めにお前達アースドラゴンの元に来たら愚かな密猟者達が子供達の鱗を奪っているのを知った。もう密猟者達は捕まえたが子供達は人間を敵だと思ってしまうかも知れない。だが、信じて欲しい。俺達の全てがアースドラゴンの事を敵だと思っている訳ではない事を」
『……』
『お願い、ボク達の言葉を聞いて! アルスは子供達の怪我治した。それは罪を償う為にでもあるかも知れない。でも、共存出来る未来を信じようとする者の優しさは貴方達も知っている筈だよ!』
アルファの言葉をアースドラゴンの1頭が静かに聞いていた。そして、子供達の身体に見える怪我の跡を見てからアルスの両手に残る傷の跡を見て静かにアルファに言葉を伝える。
アルスだってドラゴンの話す言葉が分からない訳ではないが、ここでは静かにアルファに任せた方が良いのは本能的に悟っていた。ハンターでもあるハルトは部外者になってしまっているが近くの親子ドラゴンがハルトの手に鼻先を押し付けてくる子供ドラゴンの可愛らしい甘え方にハルトは微笑みを浮かべて好きにさせている。
『アルス、アースドラゴンの長が示した試練を超えれればアースドラゴン達は対話に応じるって言っている』
「どんな試練か聞いてもいいだろうか? 勿論どんな試練だろうと受けると誓う」
『グォ』
『このゴルゾーネ砂漠の果てにあると言われる大地の泉に再び泉を復活させてみろ、だって。今その泉は枯れ果ててしまってアースドラゴン達は水を求めてゴルゾーネ砂漠の外に行かなきゃなんだって。アースドラゴンを救いたいと思うのであれば長の試練を超えろって事みたい』
「分かった。待っててくれ。必ず泉を復活させる。だから、外にいるキャラバン隊は襲わないでくれ」
アルスは深々とアースドラゴン達に頭を下げて一礼する。それは過去の戦いの中では決してあり得なかった竜騎士の謝罪も込められているのだろう。
ハルトはその姿を見つめて思う。アルスはきっとこの悲しみの苦しみを1人で背負ってまで終わらせる為に人生を使う事も厭わない事を。
ハルトは手に甘えてくる子供ドラゴンの頭を撫でてお別れを告げるとアルファを呼んでアルスと共に巣穴を出た。アルファをマントの中に入れてキャラバン隊のテントに向かう。
まず大地の泉を探す為にも移動にラクダを借りないといけない。それを伝えに行くとリーダーの男はとても有益な情報と承諾をしてくれた。
「大地の泉かは断定出来ねぇが、この位置から北上した先に砂丘の中に枯れたオアシスがある。そこは昔からアースドラゴン達の水飲み場だったと言われててキャラバン隊も見守っていた場所だ。いつからか枯れちまって復活させる方法が分からなくて困ってはいるんだがな。俺達は一度街に戻る。ラクダと食料と水を持って行け。どうか試練を超えてくれ」
「ありがとうございます。皆さんもご無事で」
「本当にありがとうな。恩に着るよ」
「アースドラゴン達を守る為なら俺達はどんな苦難も受け入れる。それがこのゴルゾーネ砂漠のキャラバン隊としての誇りだ」
リーダーの男は必要になるだろう分の食料と水をラクダに積んでくれてからキャラバン隊を率いてオアシスの街へと戻っていった。ハルトとアルスはラクダに乗って北上を開始する。
その途中でハルトはアルスに今までの旅の中で考えていた事を質問していた。アルスもいつかはそんな質問をされるだろうと考えていたのだろう、嫌な顔をする事もなくハルトの口から紡がれる質問を聞いていた。
「アルスは、自分の竜騎士としての人生を全てのドラゴン達への謝罪と対話に使う気なのかい?」
「そうだな。俺個人の考えにはなっちまうけれど……この悲しみの果てにある未来はそんなに悲しみには染まって欲しくないんだ。過去の竜騎士達も本当はドラゴンを殺めたかったのか、定かじゃないがその罪を償うのはいつだってその時代を生きる者達だって思っている」
ハルトの耳に聞こえてくるアルスの言葉はどれもが希望へと繋がって輝きだす言葉達だ。だが、それに伴う痛みも悲しみも苦しみも、アルスは1人で背負う。
ハルトの心にはその全てを一緒に担ぐ覚悟はしっかりある。だって、ハルトは自分の中にあるこのどうしようもないアルスへの愛情が絡む感情をどう呼ぶのかを知っているのだから――――。
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(第6回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった方、ありがとうございました!)
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