騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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8章(ラスト)

55話「ルシスとヴェレネットの約束とイシュの決意」

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 アガルダとガイア達の激闘が繰り広げられている時、八つ裂きにされていたルシス達は回復が間に合ってどうにか身体が動かせるまでにはなっていた。イシュは剣を支えにして立ち上がり周囲の確認をしに離れている。
 ヴェレネットは自分の身体を未だに癒すルシスの顔をぼんやりと見上げていた。ルシスはヴェレネットの身体を癒しながら小さく微笑みを浮かべていた。
「少しは痛みが引きましたか?」
「……」
「貴女だけでもこの城から逃げ出せればそれだけでいい。後の事は私達が引き受けます。だから貴女はどうかこの大陸から逃げ出す事を考えて欲しい」
「……どうして……」
「えっ」
「どうして私にそこまで優しくするのですか……? 私は貴方を裏切ろうとしていたのに」
「……例え貴女がアガルダに心を奪われていたとして……私は貴女が大事なのです」
 ヴェレネットの右手を優しく握り締めてルシスはそう告げる。自分はアガルダの半身であり、アガルダではない。
 そして、ヴェレネットの心はアガルダにある。それを横取り出来るだけの器をルシスは持っていないと思っている。
 ヴェレネットの手がそっとルシスの顔に触れて撫でる。その手にルシスは微笑みを浮かべてそっとヴェレネットの手を撫でる。
「私はアガルダの半身であってアガルダではない。でも、それでも貴女の事を諦めれないから逃げて欲しいと願っている。私では貴女の事を愛しても応えてもらえないと理解しているのです」
「……私が……本当の意味で貴方様を愛したら……私は……」
「ヴェレネット様、貴女にもし一足先にアガルダよりも想いを伝えていたら……貴女様は私に微笑んでくれたでしょうか」
 涙を浮かべているヴェレネットにそう告げてルシスはそっと瞳を伏せる。叶わない想いをこれ以上伝えてはならない、そう言い聞かせているとフワリと身体を包み込む柔らかなバラの香り。
 ヴェレネットの身体がルシスを包み込んでいた。震える腕に包まれてこの女性の優しさに心が打たれる。
 ヴェレネットの背に手を回して撫でるとヴェレネットの声が聞こえる。それは戸惑いを含んでいながらもルシスに希望を与えるだけの力はあった。
「約束して下さい……全てが終わっても……私を愛して下さるのであれば……迎えに来てください」
「ヴェレネット様……」
「その時はちゃんとルシス様を見ます。アガルダ様じゃなくてルシス様と向き合います。……1人はもう無理です……」
「……必ずお迎えに上がります。だから……今はこの城から逃げて安全な場所に向かわれて下さい。必ず……貴女様を1人にはしません」
「お待ちしております……」
 交わされる約束、そしてヴェレネットの身体に治療を終えたルシスは自分の服を着て、ヴェレネットをマナによる転送魔法を使って脱出させる。ルシスの耳にヴェレネットの言葉が何回でも繰り返される。
 待っていると告げた愛する女性の言葉は何よりルシスを強く希望に導く。そして、戻って来たイシュと共にアガルダの気配を探り移動を開始する。
「アガルダは完全体になっている訳ではないでしょう。魂の存在がきっと邪魔になり私を取り込もうとする為にこちらにやってきます。ガイア様達と共にそれに立ち向かう事になるでしょう」
「私の剣がルシス様の未来を守り通せる様に全力を尽くします」
 ルシス達が移動をしていると城の奥側から異様なる力を感じ取った。ルシスとイシュにも感じられる力、それがアガルダであるのは明白であった。
 ルシスが構える、イシュがルシスの前に立って剣を構えた。そこに魔神の姿になってしまったフェランドの肉体を操るアガルダが降り立つ。
『ルシス、私の一部になってもらうぞ』
「お断り致します。私は貴方の一部になる訳にはいきません」
「アガルダ、ルシス様には触れさせない!」
『小賢しい……元々は私の半身である。元の器に戻る事になるだけだ。嫌だとは言わせない。お前の力を以って私は本当の完全体になってみせる!』
「仮に私を取り込んでも破壊の力を使いこなすのは不可能。破壊の力を宿すのにその方の肉体はまだ未熟過ぎたのです」
『ルシス、お前に何が分かる。転生を繰り返し、死を何回も繰り返し、意味のない輪廻転生を強制的にさせられる私の運命をお前まで否定するか!』
「それが私達が生まれた理由としては一番に避けれない事実ではありませんか。その運命を変えるには世界を、理を覆すしかないのは分かります。でも、それが故に他の者達の命を終わらせる事は間違いであったのです!」
 アガルダの右手がルシスに伸ばされるが、イシュが目の前に立ちはだかり触れさせようとはしない。ルシスは遅れてやってきたガイア達に気付き声を出す。
 アガルダの内部に眠っているフェランドは目覚めつつあるのだろうと力の流れで分かったルシスはガイアに呼び掛ける。そして、アガルダはいよいよ追い詰められていく。
「ガイア様! フェランド様に声を掛けて下さい! 今の貴方とフェランド様の力を以ってすればアガルダの力を中和する事は可能です!」
『ルシスっ! お前まで私に抵抗するか! ならばその命を奪って無理矢理でも私の一部にしてやるまでよ!』
「そうはさせない! ルシス様の身は私が守る!」
「イシュ! 世界樹よ、どうか私達にお力をお貸し下さい……大事な人々の未来を守るだけの力を!」
 ルシスの前に立つイシュの剣に光が宿る。アガルダの右手がイシュの剣を握り締めて折ろうとするが、その光に右手は火傷を負うかの様に痛みを刻む。
 ガイア達も背後からアガルダの意識下にあるフェランドの身体に攻撃を仕掛ける。迷ってはいけない、それは全員が分かっている事実。
 そして、ガイアの剣がフェランドの右肩に突き刺さりその場所から光が体内に流し込まれる。それに激痛を覚えたアガルダはガイアの剣を無理矢理引き抜いてマナを使い回復させる。
 イシュの剣からの痛み、ガイアの剣からの光による痛み、それだけでも激痛があるのにアガルダの意識は次第に歪み始める。次第にフェランドの身体に満ち始める破壊の力にアガルダの意識が飲み込まれ始めているのであった。
「これは……!」
「なんだ!?」
「ルシス様!」
『私は……私は……!』
 アガルダの意識が破壊の力に飲まれていくのを半身であるルシスは強く感じ取っていた。そして、その力の中にフェランドの魂の存在を感じ取ったルシスはアガルダの魂を無理矢理にでもフェランドの身体から引き剥がそうとする。
 ガイアとジェイド、ヴォルグに遅れてバルシスとルプスもその場に到着するとバルシスもアガルダの異変に気付く。ルプスの支えを受けながらバルシスは状況的にどうするべきか判断をする。
『ガイア』
「バルシス!」
『私の身体にアガルダの魂を宿す。その状態で私を殺せ』
「なっ」
『御子の身体から引き剥がしたアガルダの魂を何者かの身体に宿した状態で倒さねば、世界樹の力でアガルダの力は滅ぼせない。誰かが犠牲にならないとダメなのだ』
「それじゃダメだろう! アガルダの魂ごと倒さないと誰かの犠牲ありきの勝利は俺達の望む勝利じゃない。どうにか、何か方法がある筈だ」
 バルシスの言葉にガイアは真っ向から反論する。そして、ルシスがアガルダの魂をフェランドの身体から引き剥がすまでの間に解決策を見出だす。
 この城にはまだ目覚めていないある存在がいる事をガイアはルシスと初めて逢った時に聞かされている。その存在を利用するのだと決めた。
「ルシス! アガルダの魂を魔神竜に移せ!」
「!!、分かりました!」
『魔神竜……それならば倒しても罪にはならぬか』
「魔神竜はこの城の屋上にある魔法陣に封じられています。アガルダの魂をそこに転送させます」
 ルシスがアガルダの魂をフェランドの肉体から引き剥がす。そして、その魂をオジナル城の屋上にある魔法陣へと転送するとルシスは力を使い果たし床に座り込んでしまう。
 ガイア達はバルシスとルシスを置いてイシュと共に屋上へと続く階段を駆け上っていく。ルシスはフェランドの肉体に触れて残っている破壊の力を浄化していくとフェランドの身体は魔神の身体から元の人間の肉体へと戻って行く。
『ルシス、お前は死を拒んだか』
「拒みもします。私の事を待つと言ってくれたヴェレネット様の事を迎えに行く約束を違えたりはしたくないですから」
『愛故の力、か』
「誰だって愛する者の存在は力に変わります。バルシス様だって過去には愛する存在がおられたのでは?」
『遥か古の時代にはいたな。もはや記憶にも残らぬ程の色褪せた過去だが』
 バルシスとルシスはそんな会話をしていると屋上から強い咆哮が聞こえてくる。アガルダの魂が魔神竜の身体に取り込まれて覚醒したのだと2人は気付く。
 屋上に到着した5人は大きな翼を持ち、鋭い牙を持ち、尻尾には無数の棘が生えている魔神竜が待ち構えていた。その姿に圧倒されそうになるがガイアもイシュも決して恐れたりはしなかった。
 フェランドの身体じゃないならば攻撃に手加減も必要ない。そして、ここでアガルダを倒さなければオルガスタン大陸の未来は切り開けない。
 イシュの瞳に強い決意が秘められていた。ルシスは一度はアガルダに仕えようとしていたイシュを騎士として迎えてくれた、その恩義に応えたいとイシュは考えていた。
 そして、イシュはルシスをヴェレネットの元に送り届ける責務がある。ルシスの愛を受け入れようとしてくれているヴェレネットの元にルシスを送り届けて、初めてルシスに恩義を返せると思ったからだ。
「私の光は決して破壊の力に屈したりしない! この剣にて主であるルシス様の未来を切り開いてみせる!」
「これが本当の意味での最終決戦だ! 生きて帰るぞ!」
 ガイアとイシュの剣に光が宿る。イシュの決意、ガイアの未来への希望を担う力、ジェイドとヴォルグの闇の力、ルプスの慈愛の力、それぞれが混ざり合って破壊の力に立ち向かえるだけの調和の力となってアガルダの前に立ち塞がる。アガルダは魔神竜の力と身体を持ってこれに敵対。
 そして、アガルダの魂から取り戻されたフェランドの身体にも変化が見られていた。ルシスとバルシスの前でフェランドの身体が眩しい聖なる光に包まれて身体が変化していく。
 運命が間もなく変わろうとしている。その運命がどんな未来を切り開き、そして、その運命によって紡がれるのだろうか? それを知るのはきっと世界樹以外には知り得ない未来なのかもしれない――――。
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